74 第9章第5話 危うい二極
ウチは頑貝はんと鬼ヶ島の北側を目指したんや。北を目指すんは簡単なことや。博士にもらった時計を見れば一発なん。
「この時計、針が4本ついてんるんやなあ」
「ああ、この1番上でフラフラしてる赤い針が、方位磁針になってるんだ」
「それにしてもお伽噺の世界でも方位ってあるんやね」
「博士曰く、太陽が昇るところは、大抵方位があるそうなんだ。ただし、太陽が昇るのがいつも東って訳じゃないらしいが、そこは適当にこの腕時計に内蔵されているAIが判断してるんだってよ」
「さすが、博士やね~あんな大きな異次元シャトルから、こないに小さな腕時計まで作れるなんて」
「博士に作れないのは、人間だけだっていってたぞ」
「へーそうなん?」
『きゅるるる……(そんなことないと思うんだけど、意外と博士はモテてるよね)』
「うん? どういうこと、ラビちゃん?」
「どうした、伽供夜? なんか分からんことでもあるのか?」
「あ、いや、まあ……き、北って、どのへんまで行くんや?」
「多分、もうすぐだ。……あそこ、光ってるだろ? あれは、池か湖があるんだ。きっと、傍に鬼がいるはずだ」
「そやなあ、ウチらもピクニックとか行ったら、水辺の近くでお弁当食べるしなぁ」
「しっ! 居たぞ、あそこに3人の鬼が切り株に座って何か食べてる」
「ほんまや、赤と青と黄色の鬼や! やっぱり全身トラジマの服着とる。あれは、全員男の鬼やね」
ウチらは、あんまり鬼達を脅かさんように、遠くから物音をたてながら進んだ。すると、鬼達はウチらに気付き声を掛けてきた。
「よー、お前らも来たのか?」
急に親し気に赤鬼に声を掛けられたので、ウチらは拍子抜けしてしもうたわ。頑貝はんも、片手を挙げて挨拶しながら近づいて行ったさかい、ウチも後ろからついていったんや。
「お! 姉ちゃん達のトラジマ模様は、昔ながらの黄色が主体色なんだな」
「そうだな、最近の若い奴はやたら黒を多くするから、暗くっていけないや」
「そうそう、あいつらは『カッコイイだろう』って自慢するけど、やっぱり鬼のトレードマークは黄色に黒だよなあ。 お前ら、よく分かってるじゃないか!」
なんやウチらは、このトラジマの変装のお陰で、鬼やと思われているんやなあ。
「あ、ああ……ありがとう。俺達もさ、ここに呼ばれたんだよな」
頑貝はん、まだ、ちょっと緊張してはるわ。確かに、本物の鬼は迫力があるさかいな。
「そうなんだよ、俺なんかちゃんと村人と仲良くやってんのに、こんなとこ来る暇はないんだけどよ」
「いやあ、お前はいいよ。前から人間と仲良くやってんだからな」
「そうさ、オイラや青さんなんかは、もともと人間の敵だったんだぜ!」
「なあ、困っちゃうよな? お前らもそうなんだろ?」
なんか、同意を求められたけど、ウチらはさっぱり状況が理解できへん。ポカンと口を開けてると、赤鬼さんが傍にあった切り株を進めてくれたんで、ウチらは腰を降ろしたんや。
「ところで、姉ちゃんはどっちなんだ?」
「へ? どっち?……」
「だからさ、人間派なのか鬼派なのかだよ」
益々訳が分からんくなって来た! ウチは、小声で助けを求めたんや。
「どうしよ、頑貝はん。変なことゆうても、怪しまれるし」
「まあ、待て、俺にいい考えがある。ここは、俺に任せて、お前はだまっとけ!」
頑貝はんがそう言うと、腰の巾着から黍団子を取り出した。
「お前さん達、腹減ってないか?」
「う、うう……俺達は今そこで拾った木の実を齧ってたとこだ。これは、腹は膨れるが、どうも味が今一つでなあ」
「な、人間の作るおにぎりは上手えぞ~」
「けっ、赤さんは、普段から人間の食いもんを一緒に食べてるからなあ~」
「そ、それなら、この黍団子は人間が作ったものだ、上手いから食べないか?」
「おお、お前、その黍団子はどうしたんだ?」
「こ、これか?……うーんと……あ! そうそう、桃太郎にもらったんだ!」
「何? 桃太郎だと!」
うっわー、いきなり青鬼さんが、目の色を変えて立ち上がっちゃったやん。どうすんの?
「まあ、まてまて……ということは、あんさんは、人間派の方かな?……ところであんさん名前なんていうんだい?」
「お、俺は徹鬼だ」
「ウチ、カグヤ鬼や」
「へー、変わった名前だな。……俺は、赤」
「俺は、青で、鬼派なんだ」
「オイラは、黄で、どっちかつうと、鬼派かな。まあ、どっちでもいいんだけどさ」
「ふん、お前みたいな中途半端な奴がいるから面倒くさいんだよ」
「まーた、青さんは真面目なんだから……」
「あ、あのーー」
「ん? 徹鬼、どうした?」
「じ、実は、俺らの住んでるとこが田舎なもんで……その人間派とか鬼派とかの話がよく分からんのですよ」
「へえー、そんなに田舎に住んでのか?」
「そ、そうやん。ウチらの住んでるとこは、ウサギしかおらへんの」
「ああ、それで腕にウサギの毛皮巻き付けてんのか。……でもなあ、田舎にしちゃあ、お前の服、すっげえ派手じゃねえか? オイラこの間、鬼シティーの『ぶてっく』ちゅうところで見たビキニっていう都会の鬼娘が着てる服にそっくりなんだなあ」
「あ、ああー、これな。これ……その都会の鬼シティーに住んでる従妹の子が誕生日祝いに送ってくれたんや」
「そうなんか、いいもん見せてもらったわー」
鬼シティーって、どこなん? ウチ、よう分からんけど、話しだけ合わせとこ。なんか黄色い鬼さんが、ウチを見て拝んでるけど……ま、いいっか。
「ま、田舎なら仕方ないな。あのな、今、鬼の間で話題になってるのが、『人間と一緒に生活して鬼も人間みたく暮らそう』っていう【人間派】になるか、『鬼は鬼らしく人間の真似はしないで生活しよう』っていう【鬼派】」になるかということなんだよ。
「そーそうなんか。でも、昔から人間と仲良くしてる鬼もいることやし、どっちゃでもいいんとちゃうか?」
「そうなんだ、ビキニ姉ちゃんの言う通り、この赤さんなんか人間と楽しく暮らしてるしな。……ところが、最近鬼の中で強硬派っていうのが出て来て、どっちかでないとダメだって言い張ってるんだよ。その上、鬼派の鬼達はやっぱり人間を滅ぼした方がいいとも言い出しているんだ」
「滅ぼすだって!」
こりゃあ、とんだ物騒な話になってるわ。もっと、ウチらは情報を集めんといかんのちゃうか?
(つづく)
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