73 第9章第4話 鬼ヶ島上陸
「よし、到着だ。トラバスシャトルは、この鬼ヶ島の入り江にある洞窟に隠しておくからな」
「しっかし、鬼ヶ島っていうから、海を渡らなきゃダメかって思ってたけど、この異次元シャトルなら瞬時に行きたい場所に行けるから、ラクチンよね」
「ふんっ、それだって、この俺の操縦があってだぜ、香子。行先と時間と次元コンパスを連動させて着地点を決めてんだ。適当に操縦してる訳じゃないんだよ」
「何いっての徹、操縦桿を握ってるのはあんたなのかもしれないけど、時間や次元コンパスのデータを割り出してんのは、博士のコンピュータじゃない。博士が居なかったら、あんたなんかただの筋肉馬鹿なんだからね」
「う、うるせえよ。とにかく、鬼ヶ島に着いたから、いいじゃねえか」
ふっ、また始まったわ、頑貝はんと香子はんのデモンストレーション。演武ではあんなに気がおおてるのに、不思議やわ~。
とにかく今日から3日間は、この鬼ヶ島で過ごさなきゃやねん。何としても、鬼の計画を探って、ぶっ潰すんや。
「よし、これから作戦を開始するぞ……詳しくは情報課長の香子君から頼む」
ウチらは、トラバスの中で頭を寄せ詰めて香子はんの話に耳を傾けたんや。そう言えば、香子はんは情報課ゆうて、いろんな情報を集めて分析し、計画を立てるのが仕事やったんやなあ。
なんかすっごく真面目な話になりそうなんやけど、短パンでノースリーブのトレーニングウエアは、全身トラガラなので思った以上にセクシーやな。
『きゅるるる……(何言ってんの、カグちゃんの方がよっぽどセクシーじゃない。トラガラのビキニよ!……まあ、ワタチに比べたらそうでもないけどね。なんてたってワタチは、オールヌードなんだもんね)』
「もう、ラビちゃんってば、張り合ってもだめよ。ウサギは、始めっからヌードなの!」
『きゅるるる……(ぷうーーっ)』
もう、またラビちゃん、膨れてもうたわ。ラビちゃんにも、トラガラの首輪でも付けてあげれば良かったやろか? でも、ヌードに首輪だけってのもね…………。ま、ウサギやし。
「人類委員会からの添付データを分析してみたの。分かってるのは、鬼サミットって、真夜中に開催されることぐらいね。でもね、鬼達はそれぞれ時間前に集まってくるみたい。鬼サミットは森の中の広場で行われることになってて、中央に大きな焚火が灯されてるわ。現在時間は、ちょうどお昼の12時よ。今日の鬼サミットまでは12時間もあるわ。それまでに集まって来てる鬼達から情報を集めてちょうだい。何でもいいわ、この鬼サミットのことを少しでも分かった方が動きやすいと思うの」
香子はんの話を聞いて頑貝営業課長はんは、即座にメンバーを発表したの。こうやってみると、頑貝はんも営業課長っていう現場で1番動き回るのが仕事なんやね。
「よし、じゃあ3組に分かれて情報収集しよう。ここトラバスを隠している洞窟があるのが鬼ヶ島の南側だ……俺と伽供夜は島の北側の方を探索することにする。香子と……」
「あ、あたしは、社長と東側へ行くわ!」
「じゃ、記誌瑠は、博士と西側でいいか?」
「も、もちろん、いいわ!」
「それじゃあ、情報の付け合わせは夜の7時にここでまた行おう。時計の確認はいいか?」
ウチらは、全員で腕時計を填めた左手を中央に集めたんや。全員の秒針が一致してることを確認した。この時計は、博士はんの発明なんや。異次元でも正確な時間を刻んでくれるし、絶対に狂わないんや。
なんとかいう宝石の放つ宝玉パルスちゅうもんがエネルギーになってるらしいわ。博士はんが言うには、電気がエネルギーだったら異次元では上手く動かないらしいねん。
それから、ウチらは記誌瑠はんから小さな巾着袋をもらった。みんなこれを腰に付けて行くことにしたんや。中には、あの黍団子の他、ちょっとした食料や飲み水が入っているんだって。
シャトルの外に出ると、天気もよく太陽も眩しかった。鬼ヶ島の全容も分からんし、季節感もまったく感じられへん。とにかく、あんまり細かいことは気にせんと、早よう鬼を見つけて情報を集めればいいってことなんやな。
それだけ、確認してウチらは分かれて活動することにしたんや。
「伽供夜、はぐれるなよ! ここを真っすぐ北に向かうからな」
頑貝はんは、小さな方位磁針を手にして歩き出したわ。もちろん鬼ヶ島の地図なんてあらへんし、勘でいくだけや。森っていっても、そんなに木がたくさん生えてる訳やない。下草も生えてるけど歩くのには不自由はせえへん。上を見れば太陽も見えるけど、それなりに木の影もあるから暑すぎる訳でもない。まったく、都合のいい森やと思うたの。ここで、ピクニックとかも最高かもしれへんな。
「それにしても、なんもおらへんな?」
さっきから森の中を歩いているけど、リスやウサギみたいな小動物が1匹も見えへん。
「ん? ラビちゃん、どうしたん?」
『きゅるるる……(こ、怖いわ、この森の雰囲気が……何か居るの、ウチ、しばらく目を瞑って、死んだ振りしてるから、絶対に声かけないでよ!)』
「何言うてるん? 死んだ振りって、それじゃまるで、縫いぐるみやん」
「さっき、香子が言ってたじゃないか。この島で鬼サミットが開かれるってことは、他からたくさんの鬼が集まって来るんだよ」
「そうやろな」
「鬼が集まって来るんだぞ、おまえ、他の動物にしたら、こんな恐ろしいことがあるものか。いつもの鬼ヶ島に住んでる鬼には気心が知れてるかもしれないけど、他のお伽噺の鬼は酷いやつもいるかもしれないだろ」
そいういうもんなんやね。やっぱり、鬼ってのは、恐怖の代名詞なんやな。
(つづく)
最後までお読みいただけて、とても嬉しいです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。




