7 第1章第6話 それぞれの任務
「お客様、新しいお料理をお持ちしました」
「おお、いいね~『タコわさ』だね。先週も食べたけど、ここのタコは新鮮でね~プリップリしてるんだよね~」
あ! 頑貝はんが浦島はんにお料理を運んでるんやわ。そやかて、何あのエプロン姿、ピンクのメイドさんみたやね。あれなら、下はスカートの方がええやん。ビキニの海パンはキモイだけやし。
「まあ、その辺にたくさん泳いでますからね……うっ、ううん、オッホン。……あの、お客様? そろそろおうちに戻られた方が、よくありませんか?」
「うちに戻る?……どうしてさ? 僕はね、うちに戻っても楽しいことなんて何一つないんだよ。毎日毎日、漁をして少しばかりのお魚を売ってるだけなの! なんで、メイドさんにそんなこと言われなきゃならないの?」
「メ、メイド~? くっそ、下手に出りゃ、調子に乗りやがって。さ、とっとと帰るぞ! こっちに来な!」
「だ、ダメよ、頑貝君。そんな乱暴なことをしたら」
「あ、記誌瑠、丁度良かった、お前も手伝え。こいつを引っ張ってここから出るんだ!」
「ダメだって、頑貝君。無駄だって!」
「うるさい! さあ、こっちへ来い! ん? あ? あれ? ……こら! おい! あれれ?」
「おや? メイドさん、どうしたの?……無駄だよ、そんな怖い顔しても」
「何だと~、こら! あ? ありゃ?」
「だから言ったでしょ、頑貝君! さっき乙姫様に聞いたのよ。ここは、帰るかどうかは自分でしか決められないんだって」
「何だって? そんな大事なこと、知ってるんなら早く教えてくれよ、記誌瑠!」
「もー、だからさっきいったじゃない! 頑貝君は、人の話聞かないからダメなのよ!」
「ふふふ、残念だったね、可愛いメイドさん。無理に帰そうとして、僕に触れても僕は全く動かないんだよ」
「くーーー、何てことだ! ……お前、どうして帰りたく無いんだよ」
「だって、ここ楽しいじゃないか。美味しいものが食べれて、楽しい舞台が見れて、しかもお金が掛からないんだよ! 絶対にうちには帰りたくないよね! 竜宮城サイコー!」
なんか、浦島はん叫んでるけど、頑貝はん連れ出すのは失敗やったみたいやな。
頑貝はん、偵察に来た記誌瑠はんに裏へ連れて行かれたわ。がっかりした顔してはるけど、ひょっとして記誌瑠はんにも怒られたんかな? 頑貝はん、一人で無茶するタイプやし、人の話聞かんからなあ。これからどうするんやろ?
あ、そろそろ昼公演の第2幕が始まるわ。さあ、ウチがセンターやし、舞台頑張るわ!
ブーーーーーーーーーーーーーーーー
開始のブザーや。
うっわーセンターやと見える景色もちゃうわ! 第1幕と同じ曲やのに、ウチ中心にみなはんが踊ってくれよる。こんない爽快なことなんてあらへんわ! ほんま、家出して良かったわ!
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「はあ、はあ、はあ……み、みなさん、おおきに……おおきに……」
「凄いよ! かぐやちゃん、完璧じゃない! よくあそこまでできたわね」
「いえいえ、これも香子はんのお陰です! あのテレビが無かったら、ウチ、あそこまでおどれまへんでしたわ。あのアーカイブを見せてもろたさかい、頑張れたんです!」
「「「 ヨカッタヨーヒラメ子 サイコーヒーちゃん ステキーヒラコー!~ 」」」
「ほら、踊り子部隊のみんなもかぐやちゃんの応援してるよ!」
「ほんまに、嬉しゅうですわ~」
「おー、ヒラメ子。良かったぞ。約束通り、夜の部はお前がメインでやるんだ。曲もできたぞ! さあ、お前の曲だ!『フライング フィッシュ』だ!」
「おおきに、舞台監督はん! いろいろ面倒見てもろて!」
「いや、これはな、上の決定なんだ、総監督をしている『乙姫ヤスシ』さんが、お前を認めたんだよ」
「乙姫ヤスシさん?」
「ああ、この竜宮城管理者であり、乙姫家当主の乙姫やす子さんのお兄さんだ!」
「わーー、そんなえらいお方に、認められたんですか? ウチ、嬉しいですわ」
「凄いね、かぐやちゃん……いや、ヒラメ子ちゃん!」
「はいです。香子さん……いいえ、タイ江はん!」
「よーし、ヒラメ子ちゃん。この劇場のトップをめざすよ!」
「はいです!」
ウチ、なんかスターの階段を上ってるような気がするわ。
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「社長、あのセンター、伽供夜ちゃんじゃなかったですか?」
「おお、あの黒い長い髪をなびかせて踊る姿は、まさにキレッキレだったなあ。あのグリーンの水着も似合ってたしなあ~」
「タコ社長ー、いかがでしたか?」
「ああ、乙姫やす子様。いい舞台でしたな」
「そうでしょ、特にあのセンター、今日入った新人なんですのよ~」
「ははは……新人ね……す、すごく、上手ですね……」
「そうなんですよ! 夜公演は、彼女中心でお送りますから、お楽しみくださいね」
「社長、社長、伽供夜ちゃん中心って!」
「しっ! 声が大きいよ博士。ここは、黙って様子を見ようじゃないか」
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「あ、あのおー、乙姫様。あのセンターの子は?」
「ああ、あの子は新人のヒラメ子ですわ。浦島さん、気に入っていただけたようで、嬉しいですわ。おほほほほ……」
「は、はい。僕、あの子の推しになります!」
「そりゃ、ようございました。夜は、彼女中心の舞台ですから、存分にお楽しみくださいな」
「は、は、はい! ありがとうございます!」
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「けっ。浦島の野郎。あんなに舞台にかじりついて喜んでやがる。まったく腹の立つ~。こっちだって好きでこんな格好してるんじゃないんだよ。なんだこのピンクのエプロンはよ!どうせなら、白黒のメイドエプロンにしてくれりゃいいのに。あのフロアーマネージャーが仕切ってんだよな。サンマみたいに尖った顔しやがって。踊り子部隊の方ばっかりいい顔して、くっそ。俺も踊り子にすりゃヨカッタかなあ~」
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「あれ? あれれ? 私だけ何にもすることがないわ。ちぇっ、私も伽供夜さんと一緒に舞台の方に行けば良かったかしら?……あれ、頑貝君が呼んでる」
「こら、記誌瑠。お前、連絡係なんだから、あちこちの情報を教えろよ! 伽供夜達は、どうなってんだよ。あいつ、舞台でセンターやってたろ」
「なんかそうみたいね。もうすぐ夜の部が始まるし……」
「早く、楽屋とか行って情報もってこいよ。俺だって、この後どうしたらいいかわかんねえからよ」
「はいはい、まったく人使いが荒いんだから……あちこちの情報でしょ。香子さんみたいにはいかないけど、総務課の意地を見せてあげる。総務課何でも屋のこの後藤記誌瑠にやれないことは無いのよ!」
◆頑貝 徹のイメージイラスト(この頑貝君が、海パンにヒラヒラエプロン姿で奮闘しています)
(つづく)
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