64 第8章第6話 ちょっと深刻…からの?
「伽供夜君も見ただろう。あの赤く染まった地球」
「はいな、ウチ、ここに来た時びっくりしてしまいましたわ。ウチの知ってる地球は、青く輝いてとっても奇麗でしたのに……」
「そうだな……僕らにも言い伝えは残ってるんだ。『地球は青かった』ってね」
「それなら、俺だって知ってるぞ! 地球はな、殆どが海で覆われていたんだ。その海が、大気をうまく循環させて……えっと……とにかく奇麗な地球にしていたんですよね、社長!」
「ああ、徹君の言う通りだ。でも、いつしかその海が無くなってしまったんだ。原因や詳しい様子までは伝わっていないんだ。……たぶん、そんなことを記録する暇さえなかったんじゃないかな?」
「ウチもそのことは、みなはんに聞いて分かりました。そして、みんなで地球を脱出するしかなかったことも」
「たぶん、大変だったんじゃないかな? 僕は、ここ、月で生まれたんだ。だから、地球を脱出した頃のことはあんまり知らないんだ」
「ま、その辺のことは、人類委員会が作成している学校の教科書に載っているくらいかな? 俺達は、その教科書で昔の地球のことを知ってるくらいなんだ」
「へー、そうやったんですね。……ウチは、ここに来て、月には日本人しか居ないって聞いたんで、他の国のことは考えもしまへんでしたわ」
「んー、地球を脱出しなければならないくらいの時は、人口も大分減っていたようだったらしいけど、日本以外にもたくさんの国は存在していたし、確かに宇宙へは脱出したみたいなんだ」
「なあ社長、俺も知りたいんだけど、日本以外の国の人達は、もう居ないのか?」
頑貝はんの言葉を聞いた社長は、手に持っていたコップのお酒を一口ふくみはったんや。そして、他のみんなには聞こえんくらいの小さな声で呟き始めた。
「……これは、あまり公にはなっていないんだが、あの時の地球脱出には、人類委員会のある方針があったそうなんだ」
「方針ってなんでっしゃろ?」
「人類委員会は、地球を滅亡に導いたのは、すべて『国』というもののせいなんだということだ。だからせっかく地球を脱出して生き延びるんなら、国同士がお互いに干渉できない場所に移り住むことにしたらしい」
「じゃ、この宇宙のどこかには、地球人として多くの国の人達が生きてるってことですか?」
「これも、正確かどうかは不明だが、人類委員会はこの月を人間が住めるように改造するだけの技術はもっていたので、月以外の惑星でも同じように改造できたんじゃないかということだ」
「あ、俺、それ知ってるぞ! 昔、習った記憶がある。たしか『テラフォーミング』とかいうんだ。人間が住めるように惑星を作り直すんだったな」
「ああ、確かにテラフォーミングの技術進歩は凄まじいものがあったようだ。お陰で、この月だって重力や自転公転に関係なく、地球と同じ生活を営めているんだ」
「じゃ、他の国の人達もどこかで、ウチらと同じように生きてるってことかいな?」
「間違いないんだ。だって、僕が人類委員会と通信を交わしていると、他の国の人の通信と思われるものが、時々混じってくるんだ。僕が分かるだけでも、金星にはアメリカが、火星にはヨーロッパの国々が、木星の衛星であるエウロパとガニメデには中国とロシアが、水星にはアジアとアフリカの国々があるらしいんだ。また、国を持たない気楽に暮らしたいという人々もいて、アステロイドベルトにはたくさんの居住者が居るらしい」
「へー、そないなことまで分かってるなら、お互いに交流したらええやん。そうすれば、さっきの美味しい外国の料理だって食べられるんとちゃうの?」
「あははは、人類がみんか伽供夜君みたく単純なら平和なんだろうけどな……」
「なにさ、ウチが単純って! ウチをアホみたく言わんといてや!」
「ごめんごめん……悪い意味じゃないんだ。少なくとも、僕もそうやってまた外国の人達と仲良くなるべきだとは思うんだけどね。……人類委員会は、また、国同士が争ったら大変なことになると考えて、惑星間を移動することを禁止しているんだ」
「禁止って?」
「宇宙を跳び回るロットを作れなくしてるってことさ」
「え? でも、博士はんだったら、ロケットぐらい目を瞑っていても作れるとちゃいますか?」
「ところが、ロケットだけは作れなかったんだよ。幾ら設計図は完成しても、組み立ての段階で、必ず不具合が起きてな」
社長はんの話を聞いてるうちに、ウチらは少し暗あなってきたの。ウチも頑貝はんも、ご馳走でお腹は結構膨らんできたので、最高級のお酒『ツキノシズク』を飲んでたの。冷酒のまま、おちょこで舐めるように飲んでたんだけど、ウチはちっとも酔わんかったわ。よっぽど、さっきの社長はんの話が強烈やったんと思うの。
そんなウチらのシンミリとした様子を感じ取ったと思うの。香子はんが、思いっきり社長はんの背中に飛び乗ってきた。うーん、たぶん本人は後ろから抱き着いたんだと思ってる……。
「しゃっちょーーう! 何、暗くなってんのーーお? お酒、飲んでんでしょ? もっと、楽しくいきましょうーよー!」
「おや? 香子君、君、まさかお酒飲んで無いですよね~」
「あ、あ、あ、社長!……だ、大丈夫で、ですよ」
「記誌瑠君か、君が一緒だったんだから大丈夫とは思うけど……ま、それに、まだ起きてるから、お酒じゃないのかな?」
「えっと、それが……」
「なーに、いってんでーーすか? しゃちょうー! カニ食べました? 餃子食べました? 茶碗蒸し食べました?」
「あーはいはい、全部食べましたよ。美味しかったですよね!」
「それから、これ! これが最高――! こんなに美味しいの久しぶりだわ!」
「なあ記誌瑠君、いったい彼女は何を食べたんだい?」
「はー、それが…………箸休めについていた『胡瓜の粕漬け』を偉く気に入ってしまって、さっきお代わり迄しちゃったんです」
「うん! これ、ウチも好きやわ。……ほんのり甘くて、どこかピリッと舌にくる刺激がたまらんわ」
「そうですね……粕漬けですからね。ま、お酒を飲んで寝てしまうより、これで楽しい気分になれるならいいですかね……」
まあ、香子はんのお陰?……で、一気にまた会場が盛り上がって良かったわ! ウチもがんばって早よ皆はんに抱き着かんことには、歓迎会の意味がないやねんよ!
(つづく)
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