62 第8章第4話 思わぬ差し入れ?
「カンパーイ!」 カチャ!
「カンパーイ!」 カチン!
「カンパーイ!」 ……ガッシャーーアーーン!
うっわ、何? 今の音。あれ? あっちで香子はんと頑貝はんが、大笑いしてはる。
「どないしたんですか? あの2人」
ウチは、乾杯してコップを軽く触れた博士はんに尋ねたんや。そしたら、博士はんったら、笑いながら言うねん。
「なーに、いつものことだよ。あの2人は、何かといえば張り合うんだよね。しかも、力も強いから思いっきり乾杯するんだ」
「へええー、そりゃ、危ないんとちゃいますか?」
「ああ、それは大丈夫だよ。あの2人用のコップはね最初から割れても怪我をしない特殊なもので作ってあるんだ」
「それって、博士はんの発明ですか?」
「いやいや、そんな物は大昔からあったんだ。よく昔の映画を見ると、酒場の悪役がビール瓶で殴られたりするやつがあるだろう? あのすぐに割れて粉々になり怪我をしない瓶と同じ造りさ」
「凄いですね~そんな小道具もあるなんて」
「うーん、だからウチの会社は毎回、このスナック味平で懇親会をやっているんだよ。味平のおやじさんは、僕の昔からの親友なんだ」
「あ、社長!……いい友達がおるんやね~……ウチも仲間に入れてもろたいなあ~」
「もちろんいいとも! 伽供夜君なんかは、もう僕らの仲間だからね!」
「ホンマけ! きゃーあー、ウチ嬉しいわ!」
ウチ、社長はんに抱き着いてしもうたの。だって、ウチの月では、友達なんて誰も居なかったのに、こっちの月に来てからは香子はんや博士はんなんかとも友達になってもらって、社長はんまで仲間やなんて、ホントに嬉しかったんやもん。
『きゅるるる……(カグちゃん、早く社長から離れた方がいいわよ)』
「え? ラビちゃん、なんでやの?」
『きゅるるる……(向こうでね、香子さんがこっち見て、指くわえているわよ! たぶんね、カグちゃんだけズルいって思ってる目ヨ!)』
「あ! そっか。香子はんも、仲間やもんね。香子はんも一緒に喜びたかったんや。先にうちだけ喜んで悪いことしたなあ~」
その後、ウチは香子はんのところに行って、もう一度乾杯して、「仲間や~」ゆうて、力一杯抱き付いたんや! よーし、この懇親会が終わるまでに、いっぱいみんなに抱き着いたろ! ウチが、みんなの仲間になった証にすんねん!
「えーーみなさま、お着席くださーーい! ここで、ご祝儀を頂きましたので、ご紹介いたします」
「ラビちゃん、何やの? ご祝儀って」
『宴会はね、大抵参加者の会費で運営されるのよ。その方が参加は、飲み食いするのに遠慮がいらないわよね。でもね、その宴会を盛り上げるために、臨時収入として参加者以外からお祝いとして金一封があったり差し入れが届けられたりするの』
「へー、臨時収入ってわけやね! 楽しみやね」
「えー、最初は、先日ミッションクリアしました……竜宮城の乙姫様からです……なんと、今日のお刺身の詰め合わせと生寿司の握りを頂きましたーー!」
「ウッひょー、俺、生寿司大好物なんだ! 竜宮城で、つまみ食いしたマグロの刺身は、美味かったからなあ~」
「頑貝はん、ヨダレ垂らして喜んではる。でも、竜宮城でも魚をご馳走で食べるんやね?」
『きゅるるる……(カグちゃん、あんまり余計なこと考えると、ご馳走が美味しくなくなるわよ! 気持ちの切り替えも大事なの!)』
「あ、は、はい……」
「続きましては、月の王様ガグヤパパからの差し入れです。な、な、なんと月でしか作ることができない幻の銘酒【ツキノシズク】純米大吟醸でーーす!」
「こりゃあ凄いわい! ワシも一度は飲んでみたかったんだ! ありがとうな伽供夜ちゃん! お父さんに会ったらよろしく言っておいてな!」
「あ、は、はいな。……そやかて、ウチ、なんも知らなんだわ! お城で、お酒なんて作ってあったんやね~」
『きゅるるる……(うん、まあね~……けっこう、月ってなんでもできることになってるのよ、お話の世界ではね! ワタチだって、けっこういろんなことやってたもんね)』
「へえー、ラビちゃん、何やっとったん?」
『きゅるるる……(ま、そのうちに、カグちゃんにも教えてあげるわよ。それより今はこの宴会よ!)』
ラビちゃん、目の前のご馳走から目が離れへんわ。きっと、カニを狙ってるのね。土鍋の蓋がちょっとだけガタガタいってきたわ。
「最後は、いつものように新畑社長から【お志】を頂きました。みなさん、お礼を言いましょうね!」
「「「「「 はーい! 社長、ありがとうございますーーーす! 」」」」」
「いえいえ、ほんの少しですよ……さ、みなさん、食べましょうよ」
「え? ラビちゃん、社長って自分の会費も払うのに余分にお金も出すの?」
『きゅるるる……(ま、これも、経営者として大事なことなの。ここで、ちゃんと社員を労う気持ちがないと、いざという時に社員が全力で働いてくれないのよね)』
「へえー、社長も大変なんね~」
「え~それでは、みなさま、ご馳走を目の前にして、だいぶお預けしてしまいましたが、土鍋も火が通ってきたようですので、ここからは【……しばし、ご歓談を……】ということで、後半の余興迄、どうぞご自由にお腹を満たしてくださいね」
記誌瑠はんの合図を皮切りに、みんなは一斉に動き始めたわ。土鍋の蓋を開け、中身を確認しはる人、さっき紹介された【ツキノシズク】を探してはる人、テーブルの上のご馳走を次々につまんではる人、様々やわ~。
ウチだって、…………続きは次話でちゅうことで。
(つづく)
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