5 第1章第4話 推しの出世!
「ほら! そこ! ボヤボヤするんじゃないわよ! もうすぐ、昼の舞台が始まるわよ!」
「行くわよ、かぐやちゃん!」
「ウチ、きばるさかいに!」
なんとかウチと香子はんは、踊り子部隊に紛れ込めたんやけど、それにしても、昼公演2回、夜公演3回ってちょっとキツイとちゃうやろか? まあ、竜宮城って浦島太郎はん以外にもぎょうさんお客はんがいるみたいで、仕方ないんやろかなあ。
「ねえ、かぐやちゃん知ってる? ここには、お客さんを集めてくる亀の集団がいるみたいね。何百匹といる亀が全世界に散らばってお客さんを集めているんだってさ。さっき、舞台袖にいた亀さんと仲良くなったら、そんなこといってたの」
さっすが香子はん。伊達に情報課長じゃないわね。もう、凄い情報集めてはるやん。ウチも負けてられんわ。でも、今はこの踊り子部隊で頑張るのが、ウチの仕事かな?
「香子はん、ウチらうまく踊れるやろか?」
「大丈夫よ、かぐやちゃん。思い出して! アーカイブで見た『ABCD44』の踊りを。あれを真似すればいいの!」
「よっしゃ! あれならウチ、気に入ってこの間一晩中見て覚えてしまいましたさかいに」
「よし! それじゃかぐやちゃん、最初は端っこで、目立たないようになってるけど、天辺目指して頑張るわよ!」
「ウチ、がんばりまっす! ……あ、記誌瑠はん、いいところに。他のみんなは頑張ってはる?」
丁度傍に連絡係の記誌瑠はんが来たので、みんなのことを聞いたんや。
「ええ、今、頑貝君は浦島太郎さんのところへ、社長と博士は来賓客席に紛れ込みました。これから、それぞれ情報収集とミッションに入りますね」
「ウチらも頑張るさかいに、みんなにウチらの踊りもよう見とってって伝えてね!」
記誌瑠はんは、ウチらに笑顔で手を振って客席の方へ降りていきはったわ。
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「あ、社長、博士、こんなところに居たんですね」
「しっ、記誌瑠君、僕達は今魚なんだ、その『社長』っていうのは止めよう。僕はタコで、博士はイカなんだ。よろしく頼むよ」
「は、あ、はい……タコ社長。えっと、伽供夜さんと香子さんは上手く潜り込めたようです。これから最初の公演が始まりますよ」
「そっか、楽しみだな、イカ博士」
「そうですな、こんなの見るのはワシも久しぶりでな。ほら、こんなものまで準備したんじゃ」
「ほう、ペンライトですね。僕の分はありますか?」
「もちろんじゃ、ほい、タコ社長。これで準備バッチリですじゃ」
「それにしても竜宮城って、お客さんのおもてなしもこんな大きな劇場でやるんですね。 前列は、ちょっとした畳の席で、まるでお相撲の桟敷席みたい。畳二畳分くらいの場所が確保されていて、お料理もたくさん出てくるなんてとっても楽しそう」
「ほら、記誌瑠君、そんなこといってないで、次の徹君の様子を見て来てくださいね。こっちは、僕達で大丈夫ですから」
「ええ? 私もご馳走……食べたい……あああ! お酒もあるんですね」
「いいから、記誌瑠君は、早く行って行って!」
「ずるいなあ~社長達……もう」
なんやろ、舞台の直前の席で社長はん達と記誌瑠はんがもめてるんかな? あ、記誌瑠はんが居なくなったわ。きっと今度は、違う席にいる浦島太郎はんのとこに行くんやね。
それにしても、社長はんと博士はんは、お酒も飲んどる? 顔が、だんだん赤こうなってるような気がするんやけど。目の前のお料理も美味しそうに食べはって。ウチらは、これから踊るだけやし、きっとお腹も減るやろな~? ウチもあっちの担当が良かったかな?
あ、音楽が鳴り出したわ。大きな音ね。音響にもこだわっているのかしら? まるで、コンサート会場みたいやわ。えらいぎょうさんの人型の魚が、音楽に合わせてこれから踊るのね。みんな舞台袖で待ってるはるし。
よっしゃ、ここね。前奏の終わりとともにウチらは舞台に出たんや。
うわあああー、舞台に出たら客席がよう見えるわ。あ、社長はん達、もう出来上がってるとちゃうやろか? あ、向こうの端には浦島はんがおるわ。今回のターゲットやね。
とにかく、今は踊りを頑張ろう!
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「……ふー、やっと終わったよ。疲れた~……かぐやちゃん、大丈夫だった?」
「はあ、はあ、はあ……ウチは、平気です! まだまだ行けますえ! こんなもん、しんどいうちには入りまへん!」
「へー、かぐやちゃん凄いね! 何か鍛えてるの?」
「ウチ、毎年開かれる『月面世界運動競技』で、新体操ではいつも入賞してるんです」
「あ、ひょっとしてあの『月面オリンピック』のこと?」
「そうです! そのために、毎日の練習は欠かせまへん!」
「だから、あんなに踊りが上手なのね」
ちょっと香子はんも疲れ気味やろか? なんか表情からはいつもの元気はのうなってるんや。でも、ウチはまだまだやれるんや。
次の公演に向けて、ウチらは舞台裏の楽屋で休んどったんやけど、なんか偉そうな人?……あ、この人オデコにイルカのお面付けとる……が入ってきたわ。
「なあ、お前ら! 新人だな?」
「は、はい。あたし達、今日からお世話になってる……『タイ江』と『ヒラメ子』で~す!」
「よろしゅうお頼申します」
ウチと香子はんは、咄嗟に変装用の名前を名乗ったんや。
「ああ。それにしても、お前らの踊りは上手いな。次からは、ヒラメ子がセンターで、タイ江がサブをやれ!」
「え? ウチがセンターですか?」
「嫌なのか?」
「いいえ! ウチ、センターやらせてもらいます! ううっ、タイ江さん、ウチ命がけでセンターがんばります!」
「よっし! あたしも全力でヒラメ子をフォローするからね!」
何か分からんけど、ウチ、えらい出世してしもうたわ。
「よし、その調子だ! 上手くいけば、夜公演までに、お前の歌を作ってやる! がんばれよ!」
「「はい! 舞台監督!」」
ウチらは、そのイルカ舞台監督にお礼をゆうて、休憩時間も惜しんで踊りの練習をしたんや。
◆後藤記誌瑠のイメージイラスト
(つづく)
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