49 第6章第10話 醤油ラーメン完食の罠
「……し、しゃちょーはん? どんだけ、飲むんですか?」
ウチは、ちょっと心配になってもうたの。だって、社長はんは、ワインにウィスキー、そしてビールに焼酎と、手当たり次第にお酒を飲みまくっていたの。ウチなんかは、いつもマスターに作ってもらう甘いカクテル一杯だけで、もう目が回りそうなのに。
「なーんだ、伽供夜君は、あんまりお酒は飲まないんですね。あれだけでたくさん食べるから、お酒もイケるかなって思ったんですけど……ま、若いからね。これからですかね~」
「社長はんは、酔わはらへんの? こないにぎょうさん飲みはったのに」
「社長っていうのは大変なんだよ。付き合いも多くてね。相手より先に酔うと仕事負けちゃうんだよね、あははは」
なんかわからへんけど、社長はん、とってもお酒に強いみたいね。……ん? ああ、分かってるってば……。もー、ラビちゃんが突くのよね。ウチが酔いつぶれんうちに、聞きたい事だけは、ちゃんと聞いておけってことね。
「あのーー、社長?」
「ん? 何かな、伽供夜君?」
「社長はん、昨日このラビちゃんを迎えに行ったって言いましたけど、ウチの家に行ったんですか?」
「ああ、行ってきたよ。……やっぱり、大きなお城だったね。……あそこの方が快適なんじゃないの?」
「何、言うてんですか社長はん? 確かに、あっちの月は、お城も大きくて、家来とかも居るんですけど、他には何にもあらへんの。友達もおらへんし、幼馴染かっておらんのよ。つまらないんやの」
「そうなのかな~。伽供夜君は、他の物語の主人公とは会ってるって言ってたでしょ。例えば、竜宮城の乙姫様とかとは、友達になれないの?」
「うーん、オトちゃんね。確かにウチは、オトちゃんとよく話をしたり遊んだりするけど、やっぱりオトちゃんにはオトちゃんの世界があるやん。結局最後は、自分の世界の決まり事に引っ張られるんよ。……ま、好きなように遊んでられへんってことやね」
「そっか、大変なんだね」
「ところで、社長はん、ウチのお父様と知り合いなん?」
「ああ、月の王様とは、あの『竹取物語』の仕事から、仲よくしてもらってるんだよ」
「なんで? ウチが、家出して社長はんに迷惑かけてるから?」
「迷惑だなんて、伽供夜君、君は会社にとって非常に役に立ってるよ。僕は、君が家出してくれて、本当は嬉しかったんだ。これで、ようやくお伽噺の世界の人が、自由に活躍できるって思ったんだ」
「そんなら、なしてウチのお父様となかようしてはるの? 特別な理由でもあるの?」
「……僕はね……このお伽噺の仕事が、大好きなんだ。……だから、事件を解決した後も、アフターフォローとして、関係者には連絡をとってるのさ。だから、君の父上だけが知り合いって訳じゃないよ」
「へ? そうなん?」
「もちろんさ!」
「じゃあ、乙姫様とも連絡とってはるの?」
「ああ、彼女とは、時々会ったりしてるよ」
「そうなん。……ウチ、知らへんかったわ。そうか、だから時々一緒に現場に行かへん時があるのね。その時は、社長はんだけで、違う仕事してはったんや」
「まあね……僕も忙しいんだよ、あはははは」
なんか、新畑社長はん、涼しい顔してはる。どう見ても大変そうじゃあらへんわ。不思議やなあ~
「なあ、なんでそこまでするん?」
「んー、そうね。僕はね、あの真っ赤になってしまった地球を救いたいんだよ。そのために、少しずつ準備してるんだ…………頼むよ、伽供夜君。期待してるからね」
????……どういうこと?
社長はん、最後まで笑顔やったなあ。すべてのお酒を飲み干してから、香子はんを負んぶするとゆっくりと店を出て行ったの。
社長はんの背中で寝息を立てている香子はん、なんだか嬉しそうに微笑んでいるように見えたわ。
「はい、どうぞ……」 コン♪
マスターが、そっとテーブルに哺乳瓶を置いたの。え? 何、これ? ウチが、哺乳瓶を見てから、視線をマスターに映すと、「喉が渇きますよ……冷たい水です」とだけ言って、カウンターに帰って行ったわ。
『うぐっ、うぐっ、ごくごくごく……』
もう一度テーブルの上を見ると、ラビちゃんが、両手両足で哺乳瓶を抱え、仰向けに寝転び、勢いよく水を飲んでたの。
あーそっか、醤油ラーメンのタレまで飲み干すさかいに! もー。
(第6章 完 ・ 物語はつづく)
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