47 第6章第8話 現場で確認?
新畑社長はん、いつもの笑顔やわ。目線は……っと、あ、正面で店員さんにお化粧をしてもらってる人やわ。こっちからだと背中しか見えへんし。
「ラビちゃん、もっと中入って、回り込むわよ!」
『分かったわ、カグちゃん! 落ち着いてね!』
ウチは、背を丸めて、足音をさせないようにそおーっと正面のガラス陳列ケースを迂回して行ったの。
『カグちゃん、あそこの大きな柱の影がいいわよ! あそこなら、お化粧をしてもらっている人が誰だが正面から見れるわ』
「了解よ、ラビちゃん!」
ウチは、少し速足で人波を潜り抜けたの。さすが、休日の高松島ドームね。結構混んでるわ。
「よっしゃ、ここなら気づかれずに正面が見れるわ……えーーっと……え? あ!」
『どうしたの? カグちゃん?』
「あ、あ、あれは、香子はん!……あ、社長が寄って行ったわ」
『ああ、お化粧が終わったのね。……うーーん、あれは控えめな薄化粧よね。ちょっとファンデ直して、口紅変えたぐらいかしら?』
「へーー、ラビちゃんって、お化粧も詳しいの?」
『何言ってんのカグちゃん! あなただって、まだ20歳なのよ、少しぐらいはオシャレしたら?』
「うーー、ラビちゃんにそないなこと言われるとは思わなんだ」
『あの2人、なんか楽しそうね』
社長は、香子はんのお化粧でも褒めてるのかしら? 香子はん、嬉しそうに笑ろうてはるわ。
今度は、家具売り場の方へ行ったわ。
「ラビちゃん、後を付けるわよ!」
『よっしゃー、まかれないでね!』
「ちょっと、ラビちゃん? なんか調子いいけど、さっきからウチの腕にしがみ付いてるだけなんだから、あんまり偉そうにしてほしいないんやけどなあ~」
『いいじゃない、このドームはペット同伴出来ないのよ。ワタチが、お人形さんの振りをしてればいいの。これで、ごまかせるわ。これも、ワタチが抱き着いているからなの。ワタチのお陰ヨ。感謝してね!』
「ええー? ウチが運んどるのに、感謝せなあかんの? なんだか、損した気いしかしないんだけど……」
『見て、見て、カグちゃん。2人でソファーを見てるわよ』
「ホントだね。何か大きなソファーに2人で座って喜んでるわ!」
ソファーにはボタンが付いてるみたいね。あ、押したわ…………あれ、ソファーベッドなんだ。ボタン一つで背もたれが動いて大きなベッドになったわ。社長、とっても嬉しそうなんだけど?
『カグちゃん、あれはきっと、新居で2人暮らすためのソファーよ』
「何? 新居って?」
『決まってるじゃない、香子さんと社長さんの新居よ!』
「え? どういうこと? 香子はん、お引越しするの? ……じゃ、ウチも引っ越さなあかんの?」
『何言ってんの、カグちゃん。新婚さんに付いていくつもり? そんなの邪魔くさいから、ヤメテよね!』
「え? ラビちゃんこそ何言うてんね。香子はん、結婚するなんて一言も言うてあらへんかったよ」
『馬鹿ね、カグちゃん。香子さんと社長さんということは、職場結婚よ。職場恋愛は、正式に決まるまでは、内緒にするものなの!』
「そうなん、ラビちゃん、詳しいのね~」
『見て、あのソファー、ベッドに直したらちょうどセミダブルくらいよ! 新婚さんはセミダブルくらいがちょうどいいのよ』
「なんでなの?」
『……ま、あー……カグちゃんも、そのうち分かってくるから……』
「へー……そうなんかなあ~」
ウチには、よう分からんけど、その後も社長はんと香子はんの尾行は続けたの。家具を見た後は、2階に行ってあちこちの洋服を見てたわ。
その後、3階でちょっと遅めのお昼を食べてたので、ウチらも食堂に紛れ込んでお昼にしたの。
ラビちゃん、ウサギなのに何でも食べるのよね。味噌ラーメンが食べたい言うさかい、味噌ラーメンの大を頼んで、二人で分けて食べることにしたの。
店員さんに見つからんように食べさすのには、苦労したわ。ラビちゃんは、満足そうな顔してたけど、ウチはよう味が分からんかったわ。
その後、屋上も行ったの。ラビちゃんな、屋上の乗り物がえらい気に入って、コーヒーカップに何度も乗ったんよ。そして結局、全部の乗り物制覇して、ソフトクリーム迄食べよったわ。
お陰で、ウチら、社長の尾行しとったのを忘れてしもて、気が付いたらおらんようになってしもうたの。
もうすっかり日も暮れかけたので、ウチらは帰ることにしたの。
『なあ、カグちゃん。ゴメンなあ……ワタチがハシャギすぎたわ』
「いいよ、別に。一応、社長はんは、香子はんとデートだったって分かったし……それに、今日はウチらも楽しかったしなあ」
『そうだね、あははははは…………グウウウウー』
「あれ? ラビちゃん、お腹すいたん?」
『うん、いっぱい遊んだから、おかなペコペコよ』
「そっか、じゃあ、帰りに美味しいもの食べさせてくれるお店に寄ろか?」
『ワタチが入っても大丈夫?』
「あそこなら、かまへんわ。なんせ、静かだけど、マスターがいい人やさかいね」
『よし、じゃあ、そこ行って、美味しい醤油ラーメン食べよう! 今度は、ちゃんと一人前食べさせてね!』
「え? あ、はいはい……」
なんや、またラーメン食べるんかいな? ラーメン好きやなあ……ま、あそこなら何でも作ってくれるから大丈夫やろ!
(つづく)
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