45 第6章第6話 社長の仕事
「ところで、水野博士はん、なんで人類委員会のメールは、社長しか受け取れへんの?」
「ワシにも詳しいことは分かんが、ここは無線設備を個人で使うことが禁止されておるんじゃ」
『やっぱり、そうなのね』
「なあ、無線設備ってなのことやねんの?」
『うんとね、地球では電話がどんどん普及してね、昭和の終わり頃から無線による通信が発達してきたのよ。でもね、その無線通信のためかどうかは分からないけど、多くの人間が無線中毒になってしまったの。いつでもどこでも無線を受け取って表示させるデバイスを手元に置かないと気が済まなくなったのよね。これが、地球を破滅させた原因じゃないかとも言われているの』
「そんなことは、確かめられていないんじゃがのお~」
『まあ、そんな根拠もないことなんだけど、月に移住してきた人間は、自分達の【表向きの文明】を昭和後期で止めることにしたの』
「そうなんじゃ、だから今、ここではな、個人的に無線は使えんのじゃ。……但しな、わしらみたいな人類委員会からの仕事を受ける時は、その会社の社長だけが無線受信機を操作できるようになっておるんじゃ」
「へえー、それがあのパソコンなのね。でも、あのパソコン無線やあらへんで。線でつながっていたわよ」
『カグちゃん、実はね無線の発達は、地球にインターネットという途轍もない通信網をもたらしたの。確かに、通信による技術革新は凄まじかったの。だからこそ、今の月には、インターネットは【表向き】には存在していないことになってるの。それでも、今みたいに会社などでその通信網を使う場合は、有線の制約を設けてるって訳。実際、会社同士をつないでいるのは無線通信なのよね。そうでしょ、水野博士?』
「あ、ああ。やっぱり、ラビちゃん、わしの助手にならんかのお?」
『ふんだ、イヤよったら、イヤなの。ワタチは、カグちゃんと楽しくできればそれでいいんだから!』
「分かったわ、博士はん。新畑社長はんって、とっても重要なお仕事をしてるのね。……ところで、社長はんはどこに行ってしもうたの?」
「うーん、何だか高松島ドームに行くって言ってたような気がするがの……」
「え? 高松島ドームですって?」
『どうしたの、カグちゃん?』
「ラビちゃん、知ってる? 高松島ドームって、全部がお店なんですって! しかも、高級な品物ばっかり売ってるらしいわ!」
『へー、そうなだ』
「それだけやあらへんのよ! あそこはね、若い男女のデートスポットなんですって!」
『カグちゃん、よく知ってるわね』
「……えっとね……、って、香子はんが……そう言ってたの……」
『じゃあ、これから、ワタチらで、その高松島ドームってとこに、行ってみましょう!』
「え? ウチらも行くの?」
『もちろんよ!』
大きな声で「やったー」って、叫びそうになったけど、何とか我慢できたんや。それにしても、嬉しいなあ。高松島ドームに行けるなんて。ウチ、話だけしか聞けへんかったさかい、ちょっと詰まらんかったんよ。
ウチ、珍しいものや楽しいことが大好きなんや。その為にわざわざ家出までしてるんやしな。
『カグちゃん、そんなにニヤニヤして、よっぽど高松島ドームに行けるのが、嬉しいのね!』
あちゃ、ラビちゃんには、バレバレやん!
(つづく)
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