4 第1章第3話 お好みは?
「うっわーここが竜宮城なんだ~」
「ま、そうやね。ここで乙姫はんが商売やってんのよ」
「商売? え? なんか売ってんの?」
「香子はん、何ゆうてんの? 竜宮城ってゆうたら、それはもう『絵にも描けない』美しい劇場なんよ!」
「へー、知らなかったわー」
亀の子異次元シャトルは、竜宮城の表門の前に着いたわ。もちろん海の底や。大きな岩に囲まれ、普段だったら絶対に見えへん場所にあるんよ。
「伽供夜ちゃんは、竜宮城には詳しそうだねえ」
「はいな博士はん、ウチらお伽噺の住人は、春に行われる『年次総会』で集まるんです。あんまし話はせえへんかったかったけど、乙姫はんはえらいベッピンやったわ」
「ところで、徹君、これからどうするんだい?」
「社長、いつものようにここで変身するんですよ!」
「変身? いつものように?」
「ああ、社長はいつも留守番だから知らないと思いますが、お伽噺の中でミッションをする時は、お伽噺に馴染まなきゃならないんです。だから、俺たちはいつも、物語に合わせて変身してから、ミッションを行ってるんですよ」
「なるほどなあ~……で、今回はどんな変身をするんだい?」
「今回は、これですよ!」
頑貝はん、おもむろに服を脱ぎはったの。鍛え上げられた胸筋、曲げた腕で盛り上がる上腕二頭筋、薄く6つに分かれている腹筋、どれ見てもえらい筋肉やったわ。
「うーん、いつもながら、筋肉だけは立派よね、徹は……」
「うるせえよ、香子。お前も脱ぐんだよ!」
「ええー? なんで私が裸にならなきゃならないのよ!」
「裸~?……これだよ、これ!」
頑貝はんは、自分の腰のあたりを指さしてはったの。
「うーん、良く分かんないわ。何で、こんなところで競泳用のビキニパンツをはいてるか? 確かにモッコ……」
「わーわー、そうじゃないって、これ、この水着だってば!」
「あー水着ね。……でもどうして竜宮城で、私達が水着に着替えなきゃならないのよ」
「あ、オッホン。記誌瑠、『地球歴史記録全集』の『浦島太郎』の竜宮城のページを開いて見ろよ!」
後藤はんが、検索で『竜宮城』のページを慌てて探ししたの。
「あ! 何、これ? みんな人間の姿をしてるじゃない?」
なんやみなはん驚いてるけど、竜宮城で働いてはるのは人型の職員なんよ。ちゃあーんと竜宮城の挿絵にもそう描かれているわ。まあ、人型なんだけど中身は魚や海洋生物なのね。だから、頭に分かりやすく挿絵が付いているわ。
「何ですか? このたくさんの魚達……みんな人の格好してるじゃないの!」
「ええ、正に人だぞ。それに、みんな水着みたいの着てるだろ」
「それに何じゃ、この頭に付けてるのは……」
へえー、この人達はこないなことで、驚きはるんやね。
「ああ、博士、これはどんな魚かわかるように、お面になってるんですよ」
「そういえば、ワシも昔、幼稚園で遊戯をやったとき、頭に動物のお面を付けてたなあ~。ワシは、確か熊だったような気がするが……」
「そうなんだ。今回は、水着になり、頭にお面を付けるだけで、変身できるんだぞ。さあ、ここにいろんなお面を作ってきたので、好きなのを使ってくれ!」
頑貝はんは、目の前にいろんな魚や貝のお面を広げてくれはったの。ウチは、すっごい嬉しくなってしもうたわ。前に竜宮城に来た時は、時間があらへんかったので、一緒に踊ったらり出来へんかったんや。いつか、ウチもあの舞台に立ちたいと思うとりました。なんだか、ウキウキするやん。
ま、男性はんは、無難にハーフパンツのちょっと柄の入った海水パンツなんよ。どうして頑貝はんが、ビキニパンツを選んだかはよう分からん。
香子はんは、綺麗なピンクのタンキニやね。ビキニまではきわどくあらへんけど、トップとボトムと分かれてはるの。大人の感じやね。
ウチは、香子はんにグリーンのワンピースを着せられてもうたの。腰に短いスカート状のレースが付いていて、とても可愛いやん。本当は、一緒に買った(買わされた?)紐で結ぶ真っ赤なビキニの方が良かったなあ思うたんやけど、香子はんが『最初は控えめで』って言うもんやさかい、これにしたんや。
記誌瑠はんは、最後までゴネテはったの。恥ずかしいからとかなんかいってはったけど、紺色の普通の水着なんよ。模様は……サイドに白い線が入っているくらいやしね。あんまり目立たなくて残念やけどね。あ、でもね、なんや頑貝はんが『これはスクール……なんとか』っていって、すっごい嬉しそうやったわ。何でかな? ウチには分からへん!
「いいねえ~みんな。これで、変身はばっちりだな。……僕と博士は、イカとタコになって来賓席に潜り込むよ。きっとあそこなら、乙姫様にも近いし……う、あ、ああ」
「社長? ミッションは、浦島太郎の帰還ですからね」
「分かってるよ、香子君……ところで君は?」
「私とかぐやちゃんは、タイとヒラメになって踊り子部隊に潜入します」
「あああ、いいねえ~頑張り給え!……じゃあ、浦島太郎には、徹君が直接当たるのかな?」
「まあ、そうなるでしょうね。記誌瑠は、連絡係を頼むな」
よっしゃ、役割が決まって、ウチらは亀の子異次元シャトルを下りて、竜宮城へ入ったんや。もちろん海の中やから、まわりは水だらけ。もちろん、魚のお面を付けると、無理なく息もできるようになるんや。
さすが、お伽噺やな! ただし、ウチはどこでも息ができるんやけどね。
◆風見香子のイメージイラスト
(つづく)
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