39 第5章第12話 ミッションクリア
「どうしたの? かぐやちゃん」
「香子はん~……グスッ……グスッ……あああ~ん~」
「え? 何泣いてんのよ~……うーん、ヨーシヨシヨシヨシ……」
あれ? 今度はウチが、香子はんにヨシヨシされとるわー。
「ふん、どうせお前、あのシロっていう犬と別れられないとか言うんだろ?」
「頑貝はん……よう、分かりますなあ……グスン」
「だってよ、お前のあの可愛がり方は普通じゃなかったぜ!」
「そうね、確かにシロは可愛かったけど、あいつ意外と人間に対して厳しいのよね」
「ま、それはあのシロの身の上を分かってしまえば、仕方のないことなんじゃないのかのお」
「うん……博士はん~……。ウチな、あのシロを見とったらな、思い出すねん」
「おや? 伽供夜ちゃんは、シロに似た動物でも飼っておったのか?」
「そうや、ペットやあらへんで、ラビちゃんはな、ウチの大切な友達やったんや!」
「「「「 ラビちゃん? 」」」」
「そうや、ウサギのラビちゃんや! ウチの暮らした月ではな、子供がおらへんのよ。それで、ウチはラビちゃんとばかり遊んどったんや……でも、そんな生活が詰まらんようになってな。それで地球に家出してしもうたんよ」
「なんだ伽供夜、それなら今は自分の好きな事やってんだし、周りには話し相手もいるから平気なんじゃないのか?」
「うん……それがな……最初は良かったんや。正直、ウチな、最初はラビちゃんのこと忘れとったんや。でもな、今回シロはんを見た途端、どうしてもラビちゃんに会いたなってな……」
なんや、だんだんウチ、元気が無くなって来てしもうたわ。もうミッションは終わったし、これから『シャトル・シロ』で帰還なんやけど…………あ! シャトルを見たらまたシロはんを思い出すやんか。
「まあ、いいや。伽供夜は、出来るだけ楽しいことを考えてしばらく大人しくしてるんだな」
「……そうするわ……」
「あ、また、伽供夜さん泣き出したわよ。ダメじゃないの頑貝君。楽しいことって、今の伽供夜さんにとって楽しいことって、ラビちゃんのことなんだから。ホントに、気が利かないわね」
「ええ? 記誌瑠まで、俺を責めるの?」
「もう、いいから徹、早くシャトルを出して!」
「はい、はい、香子さま!……また、俺、怒られちゃったよ」
「あ! ちょっと頑貝ちゃん待ってくれる。……記誌瑠ちゃん、最終確認お願いしていいかな? ちゃんと『花咲かじいさん』になったか確認してから帰るとしような」
「あ、はい、水野博士。…………えっと、私は、歴史記録全集の『花咲かじいさん』のページ……ページっと。あ、奇麗な桜の花の下で、おじいさんとおばあさんと、それに犬のシロが、元気に走り回っている挿絵が描いてあるわ。大丈夫みたいね……文章の方は……」
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『……おじいさんは、臼を燃やしてできた灰を枯れ木に撒いて、とてもきれいな花を咲かせることができました。そんなおじいさんを見た村の人達は、みんな嬉しそうに……花咲かじいさん……と呼んでいましたとさ。めでたしめでたし』
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「博士、大丈夫みたいですね」
「よし、これでミッション完了じゃ。後は、頑貝ちゃん、頼んだよ!」
「了解、博士! ……シャトル・シロ……発進!……目標、異次元探偵社! 出発!!」
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「よし、到着だ! 全員これで任務完了だ。お疲れ様! 後はもう自宅に帰っていいよ。社長には、ワシから報告しておくからな」
博士はんは、気を利かせてウチらを解放してくれたんや。今回は、ちょっと長期戦になってみんなも疲れてると思うわ。ウチは、シロはんのこと忘れることができるやろかなあ?
キュン、キュン、キューーーーン!
あや? 何か聞こえるんやない! ここは、異次元シャトルの倉庫なのに。動物なんかはおらんはずや?
キュン、キュン、キューーーーン!
「あれ! ラビちゃん?……ラビちゃんちゃうんか?」
ウチ、夢でもみてるんか? ホンマにラビちゃんや! ウチは、夢中で走ったんや!
キュン、キュン、キューーーーン!
「みんな、お帰り~」
「あ、社長、ただいま戻りましたよ」
「お疲れだったね、水野博士。よくやってくれたよ」
「いいえ、いいえ。みんなが、頑張ってくれたんですよ」
「しゃちょーーーうはーーーん! どうして? どうして、ラビちゃんを!」
ラビちゃんは、社長はんに抱かれとったんや。ウチは、嬉しくて社長はんごとラビちゃんに抱き着いてしもうたんや。
「お! やあ、伽供夜君。ようやく帰って来てくれたね。この子がね、僕の言うことを聞いてくれなくて困っていたんだよ。……早く、君が預かってくれないかなあ~」
「フヘェ、ヒャイ……ありがとうございミャ――ス! グスッ……ズズズ……フェエエェエ~」
「おいおい、伽供夜君、泣かなくていいからね。これから、この子とは一緒だからね。……あ、香子君、この子もよろしくね」
「は、はー…………」
社長はんは、ウチにラビちゃんを渡すと、軽くウィンクしてから何事もなかったようにいなくなったんや。
とにかく、ウチは、嬉しくてラビちゃんを抱きしめたまま、急いで家に帰ったんや。
(第5章 完 ・ 物語はつづく)
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