38 第5章第11話 満開の幸せ
「はーはー……ふへっ……よいっしょ!……はーこれで、終わりだ!」
「お疲れ様、徹!……ふふふ、でも、あたしの方が優勝ね! 徹が今ので最後でしょ? 幾つ見つけたのよ?」
「へへへ、俺はちょうど50臼見つけて、焼却したぜ!」
「ふふふ、じゃあ、あたしは徹の倍、見つけたことになるわね!」
「へーそうですかい。女子はいいよなあ~、博士から重力調整シールをもらったんだろ?」
「馬鹿にしないでよね、あたしは実力で勝負したの! 重力調整シールは使ってないのよ!」
「はあ? 香子、自力で100近い臼を運んだのか?」
「あたり前じゃない! このくらいできなくて、異次元探偵社の社員は務まらないのよ!」
「あーあー、確かに香子は強いですよ!……でもなあ、記誌瑠と伽供夜は、あのシールを使ってんだろ? 俺達よりたくさん見つけてるんじゃないか?」
「……わ、わ、私じゃやっぱりダメだったわ。幾らたくさん臼を持っても重さは感じなかったんだけど、2つ以上になるとバランスがとれなくて落っことしちゃったのよ。だから、1臼ずつしか運べなくて……20臼しか見つけて運べなかったわ」
「あははは、記誌瑠は電卓より大きな物を上手く扱えないんだなあ~」
「もう、頑貝君ったら。……それより、伽供夜さん、凄かったわよ!」
「伽供夜、お前、いったい幾つ見つけたんだよ!」
「え? ウチですか? ウチなあ、探知機もよお見てたつもりやったんやけど、すぐに道に迷ってしまいましたわ」
「おまえ、こんな田舎で、しかも家もそんなにないのに、道に迷ったって?」
「しゃーないやろ! ウチの居た月の世界は、ウチの住んどるお城しかなかったんやから!」
「あら? かぐや姫の世界って、けっこう寂しいのね」
「そうなんや、せやから賑やかな地球が楽しそうやなあって、家出したんやけどなあ~」
「じゃあ、伽供夜さんも、私みたいにあんまり臼を見つけて運べなかったの?」
「えへへへ……それがね……途中からシロはんが手伝ってくれはったんや。シロはんは、鼻が利くさかい、次から次へと臼を見つけてくれたんや。運ぶだけやったら、ウチ、10段重ねの臼だってへっちゃらやったんよ。……うーんと、全部で330ぐらいの臼を見つけて、焼却したんよ」
「ふへええーーいやあ、恐れ入りました!」
『ふん、当たり前や! この俺に見つけられへんもんなんかあれへんで! 宝物でもなんでも任しとけって言うんや!』
「ほーんと、シロはんは役に立つのよね~。とってもいい子やわ~。ヨーシヨーシヨシヨシヨシ……うううんんんん!」
「なにそれ? あれだけ嫌がってたシロが、伽供夜さんの可愛がりに嬉しそうにしてるんじゃない。もう、もみくちゃにされるのも、慣れたのかしら?」
「じゃあ、頑貝ちゃん、最後のお仕事じゃ。この臼を燃やした灰をあのおじいさんのところに届けるんじゃ」
「おう! 分かったぜ。じゃあ、行ってくらあ~」
頑貝はんは、臼を燃やした灰を詰めた麻袋を担いで花咲家を目指して歩き出したんや。確かに麻袋は大きいんやけど、中身は灰なんでそんなに重くはないんや。
せやけど、なんだか真っすぐ歩くんじゃなくて、体を揺らしながら肩で風を切っているような感じに見えるねん。
「ねえ、徹? どうしてそんな変な歩き方するのよ?」
「あ? 香子。俺は、今、隣のイジワルじいさんなんだぜ! これが、最後の出番さ、思いっきりイジワル風にしてるんだぜ!……って、なんで香子まで付いて来るんだよ?」
「何、言ってんの。臼を燃やしてできた灰はね、麻袋で50袋も出来たのよ。あんたが持ってるのは、そのうちの一袋だけよ。後はね、ほら……ここにあるの!」
そうや、残り49袋の麻袋は、大きな荷車に積んでウチらで運んでいるんや。香子はん、博士はん、それに犬のシロはんも手伝ってくれてるわ。もちろんウチもな。
「うへえっ? そんなにあるのかよ~」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ふー、やっと花咲家に着いたぜ。……ごめん下さい、ごめん下さい」
「はいはい……ああ、お前さんは、確かお隣に住んでいたかもしれないおじいさんじゃのう?」
「ま、この際、そんなことはどうでもいいんだ! お前のところから借りた臼は、全然役に立たなかったぞ! 全部だ。お宝なんか一つも出ないんだ! だから、頭に来て、ぜーんぶ焼いて灰にしてやったぞ! あははは、どうだ、参ったか!」
「…………?……あ、ああ。何が参ったか分からんがのう、ありがとうな!」
「へ? 何、お礼言ってんだよ!」
「いやあ、あの500個以上あった臼が、戻って来たらどうしようかと、ばあさんと困っていたところじゃ。あんなにたくさんの臼を仕舞って置く場所もなければ、臼なんかそんなに毎日使うもんじゃないからのう…………いやあ、灰にしてくれて助かったよ。灰なら畑にも撒けるしなあ」
「はあー……そうですか。じゃあ、まあ……良かったって、ことで……灰は全部置いておくから好きにしやがれえーーーー!」
ありゃりゃ? なんか花田家のおじいはんもおばあはんも、凄く喜んでるみたいやね。なんか頑貝はん、照れくさそうに頭を掻きながら帰って来よったわ。
さあ、最後の仕上げやね。シロはん、打合せ通りにお願いや!
ワンワンワン……ウーワン!
「おや? シロ? どうしたのじゃ?」
ウーワンワン……ウーワンワンワン……ウーウー
「あ、シロ、そんなに走り回ったら危ないぞ。あ、その麻袋は灰が詰まってるんだぞ……あ、ぶつかったら……あ、危ないぞ……ほら、言わんこっちゃない……」
「おじいさん、アレ、見て下さいよ! 灰が飛んで行った木にきれいな花が咲きましたよ!」
「何だって? この冬空に、花だって?……おおおお! ほんにきれいな花だ! 花だ! はなだ! 花田! な~んてな!?」
「おじいさんったら~もう……うふふふふ」
ワンワンワン……ワンワンワン……
「おー、シロも嬉しいかのー。こりゃあ、この灰があれば、いつでもどこでも枯れ木に花じゃなあ~。良かったのお、シロやあ~」
(つづく)
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