37 第5章第10話 思わぬ誤算
花田のおじいはんは、まもなく臼を完成させたんやわ。さっすがお伽噺やね。特にスキル持ちでもないおじいはんが、自前で臼を作っちゃうんやから。
まあ、ほんの少しの間やったけど、ウチがシロはんと戯れる時間は十分にあったんや。ウチは十分満足したんや。
いよいよ今日が、餅つきやね。完成した臼を前に、おじいはんとおばあはんが、準備を始めたんや。
「じゃあ、ばあさん、行くぞ!」
「はいよ、合い取りはまかせてね!」
「ソーレ……」 バン!
「ウンショ……」
「ソーレ……」 ドン!
「ウンショ……」
「ソーレ……」 ガシャ!
「ウンショ……」
「ソーレ……」 ガチャ!
「おじいさん、おじいいさん……ちょっと待っておくれ……臼の中が、宝物でいっぱいになったよ!」
「ええ?……また、宝物かい?……せっかく餅が食べれると思ったのにのう~」
「いいじゃ、ありませんか。このお宝で、美味しいアンコ餅を買いましょうよ!」
「そうだのお~あははははあ…………」
やっぱり、臼から宝物が出たんや。予定通りやね! さ、これからが、ウチらの出番やね。
「さあ、徹! また隣のイジワル徹じいさん登場ヨ!」
「へいへい、行って来ますよ……」
今度は、あの臼を借りて来るんやね。頑貝はん、いそいそと花咲家を訪問したわ。
「ううっん!……あ、あ、……おっほん、花田のじいさんは、いるかのお?」
「はい、ちょっとお待ちください……順番に対応しますから、しばらくお待ちくださいな」
「何?……順番とは?」
「はい、次の方どうぞ~」
「え? あ、はい……」
「いらっしゃいませ。ご用件は、臼の貸し出しでよろしいでしょうか?」
「は、はい……臼を貸してください……って、え? どうなってんの? なんで、花田のじいさん臼の貸し出しを商売にしてるの?」
うっひょー、何や、花咲家に長蛇の列ができてるわ。次から次へとお客さんが来てるやん。みんなあの臼を借りてるんやね。
「え? 臼って、一つじゃないのか?」
「ああ、あの木ね、とっても太くて背丈も高かったんですよ。それで、ばあさんとも相談して、あの木で作れるだけ臼を作ったんです。そしたら、なんと500個以上も臼が出来ちゃいましてね。ましてや、あの臼で餅を搗くと宝物が出るじゃないですか! 借りたいという人が後を絶たないもので、臼の貸し出し屋を始めることにしたんですよ!」
「臼の貸し出し屋だって? そりゃあ、大変だ~!」
「あ、ああ、お客さ~ん…………」
隣のイジワル頑貝じいはんは、慌てて花咲家からすっ飛んで帰ってきたんや。こんな、予想もしなかった状況になって、これは緊急会議やね。
シャトルの会議室にみんなで集合したんや。
あ、もちろんウチは、シロはんも連れて来たんや。
「なあ、どうすんだよ。あんなに臼がいっぱいあったら、困るんじゃないのか?」
「そうね、あれじゃ徹だけで、うまく処理するのは難しいわね」
「ほーら見ろ、香子の計画なんか上手くいくはず無いんだから!」
「煩いわね、これからどうするか考えればいいでしょ!」
「まったく、博士があんなに大きな木になるような成長促進剤を作るからだよ」
「あははは……すまんのう。あのおじいさんが、あんなにたくさんの臼を作るなんて思わんじゃろが、普通……」
「みなさん、それよりも恐ろしいことが起きるわ……」
「記誌瑠ちゃん、いったい何が起きるというんだい?」
「それは、花咲家以外の人があの臼を使うと、全部ゴミが出るということよ!」
「あ! そっか……」
『フン、欲深いことしたらあかんねん。宝物なんか、簡単に見つけたらあかんのや。だから、俺はおじいさんらに宝物の在りかを教えへんかったんや! どうするんや、お前ら?』
シロはんに痛いところを突かれたような感じになって、ウチらはみんな黙ってしまったんや。せやけど、しばらくして考えてウチは宣言したんや。
「大丈夫や、シロはん。ウチらがちゃんとおじいはんを立派な『花咲かじいさん』にしてあげるわ。……博士はん、ここに大きな焼却炉を作ってもらえまへんか?」
「おー、そんなもんなら朝飯前じゃぞ!」
「ほな、ウチらは手分けして、花咲家が貸し出した臼をかき集めて、博士の焼却炉にぶち込みまひょ!」
「ま、仕方ないなあ。伽供夜の言う通りだ。ここは、人海戦術しかないな!」
「じゃあ、一つでも多くの臼を集めた物が、勝ってことにしましょうか?」
「お! よし、香子の案に乗った!……優勝は、俺がいただくぞ!」
「何、言っての。普段の鍛え方では、あたしだって負けないわよ!」
「ええ~? 私なんか自信ないわ~……あたしは計算機しか持ったこと無いのに!」
「大丈夫じゃ、記誌瑠ちゃん。あの臼は、ワシが成長させた木で作ったもんじゃ。だから、この探知機に反応するから、ある場所はバッチリ分かるんじゃ。それに、か弱い女の子にはこの重力調整シールをあげよう」
「博士、何、その重力調整シールって?」
「このシールを貼ると、その物体に掛かる重力を好きなように調整できるんだ。今回は、全てマイナス99%のシールを渡すぞ!」
「じゃあ、このシールを貼れば、臼を何個でも重ねて自由に持ち運びできるって訳なのね」
「そうじゃ、これで後藤ちゃんも百人力じゃ」
「よし、それじゃあみんな、急ぐわよ! 全員、位置に付いて、よーい、どーん!」
(つづく)
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