35 第5章第8話 軌道復調の兆し
「おじいさん、おじいさん、早く起きてくださいよ~! 大変ですよ!」
「どうしたんだ? ばあさんや」
「庭に、すっごい木が生えてるんですよ~」
「何を言っているんだい、ばあさん。一日でそんなに大きな木が生える訳がないだろ?」
「いいから、早く来て見てくださいよ~」
「はいはい、分かりましたよ…………!!! おおお! 何じゃこりゃあ!」
うふふっ……おじいはんの驚いた声が聞こえたやん! さあ、おじいはん、どないする?
「おじいさん、こんなところに、こんな大きな木があったら、我が家は日陰になるし、周りの畑も使えなくなるので、困ってしまうわね~」
「そうじゃのう~……仕方ないからこの木を切ってしまうかのう~」
「そうですねえ。……あ! そうだおじいさん、この木で臼を作ったらいいんじゃありませんか?」
「ほほう、ばあさんの言う通りじゃ。もうすぐ正月じゃから、この木で作った臼で餅でもつくかのう」
「いいですね。今までは、糯米を買う余裕がなかったから、お餅なんて食べたことありませんでしたけど、この間掘り出した宝物を売れば、糯米くらい買えるでしょうね」
「そうだな、そうしよう! じゃ、早速木を切ることにしようかのう」
「やったー、これで『花咲かじいさん』のお話の軌道修正ができたわ。ここまでくれば後はなんとかなるかしら。さっそく、みんなに報告しなきゃ……」
一部始終を記誌瑠はんが監視してはったみたいやの。ウチばっかり楽しいことしてて、申し訳ないなあと思いつつ……。
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「……と、いう訳で、おじさいさんは木を切り倒して、臼作りを始めたわ」
「そう、良かったわね。お疲れ様、きしるちゃん。監視も楽じゃないでしょ?」
「まあ、おじいさん、だけならね……」
「どういうこと?」
「あのね、途中から伽供夜さんが、よく混じってくるのよ!」
「あ、そう言えば、伽供夜のやつ、またいないぞ!」
「うーん、彼女はまたシロのところに行ったんじゃないかしら?」
「そうなのよ。私はおじいさんを監視するはずなのに、さっきシロと一緒に伽供夜さんがおじいさんの家に現れて、シロと一緒に家でくつろいでるのよね」
「まったく、困ったやつだなあ~」
「いいんじゃないか? それにおじいさんの臼もすぐに出来上がるはずだから、そうなればここともお別れだ。しばらく伽供夜ちゃんの好きなようにさせてあげてもいいと思うよ」
「そうよね、あれだけシロちゃんに入れ込んでるんだから、きっと何か訳でもあるのかもね」
「ちぇっ、博士も香子も優しいんだからなあ~……あーあ、俺の出番も終わったし、暇だなア……早く帰ろうぜ!」
「うーん、徹の出番は、まだあるかもよ?」
「なんだよ、香子。まだ、俺を働かせようっていうのか?」
「だって、隣のイジワルなおじいさんが臼を焼いてくれなきゃ、肝心の灰が出来ないのよ!」
「大丈夫だって、ここまでもとに戻ったんだから、イジワルじいさんだって出てくるよ!」
「そうかしらね……ちょっと心配なのよね~」
(つづく)
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