34 第5章第7話 伸びろ~
「……か・ぐ・や・ちゃーーん? どこ~?……か・ぐ・や・ちゃーーん?……きしるちゃんが言ってたようにおじいさんの家の天井付近も覗いてみたけど、居ないわね……」
ガサッ……ゴソゴソ……クウーーン……ガサガサ……
『……ほんま、狭うて寝られへんわ。邪魔くさいなぁ~』
「あれ? 外から何か聞こえるわ…………あれは、シロの犬小屋ね。どうしたのかしら?」
『ムギュー……ウギュ……プファアーー……くっ付くなって! 』
「うっわ、この犬小屋にかぐやちゃんが一緒に潜り込んでるわ! しかも、嬉しそうにシロを抱き締めて折り重なるように寝てるし!…………ちょっと、かぐやちゃん! かぐやちゃんったら!」
「う、ううん……シロはん?……ゥゥううん、気持ちいいわあああ……シロはん? もっとこっちにおいで~……フフンンーー」
『もうあかんわ!お前はええから外で寝とけ!』
バアン! ゴロンゴロン!
「わ! かぐやちゃん! 早く起きて!」
「ふぇ? あ、香子はん? ウチ、どうして外におるんです?」
「あなた、あんまりしつこくしがみ付くから、シロに犬小屋から追い出されたのよ」
「ふぇえええ……そんななああ……せっかく気持ち良う、モフモフの夢を見てたのに……」
「いいから、行くわよ。博士が呼んでるの! 大切なお仕事だって!」
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「博士、かぐやちゃんを見つけましたよ!」
「おー、すまんな。じゃあ、早速みんな位置に付いてくれるかな?」
ウチ、なんか力が出えへんわ。あーあ、せっかくの黒装束もボロボロやし。髪もボサボサ。気持ちええなあって思ってたのになあ~。
いったい、何が始まるん? 今は真夜中やっちゅうのに。博士はんの指示で、昼にシャベルを埋めた場所に集められたんや。辺りは真っ暗やし。この辺は、村と言っても家と家は離れているから、周りはただの草原ばっかりやんか。
「みんな、準備はいいか? ここは、昼間、ワシが埋まったシャベルの木に『強力成長促進剤』を掛けた場所じゃ。あのジャベルの木から芽が生えて、大きな木に成長させなければならないんだ」
「博士はん、そんな夢みたいなことができるんか?」
「伽供夜ちゃん、夢とはなんだよ! これは、ワシのれっきとした発明なんじゃ。今、ここに大木が出現するんじゃぞ!」
「そっか! 博士、分かったわ! 今度はその大木を使っておじいさんに臼を作ってもらうのね」
「さすが香子ちゃん、その通りなんじゃ。……ただし、『強力成長促進剤』の効果をあげるには、お呪いが必要なんじゃ」
「お呪い?」
「そうじゃ、どんな魔法だってお呪いを唱えるじゃろ?」
「え? 魔法って? これ科学的な発明じゃないの?」
「何をいうんじゃ! 科学技術だって昔の人から見たら魔法みたいなもんじゃ。ゴチャゴチャ言わんと、みんなでやるぞ!」
埋めたシャベルを囲むようにみんなで並んで、博士はんの動きを真似ることになったんや。両手を頭の上で三角に合わせ、一旦膝を曲げてしゃがんでから、勢いよく上にジャンプするんやて。
そして、その時口々に叫ぶんよ。あ、叫ぶって言っても、真夜中なので、小さな声で叫ぶんやけどね。『芽が出ろ~……芽が出ろ~……』っていうやつや。
「うあ! 博士はん、ウチ知っとるわ、このお呪い! 妖怪ト○○がやってたやつや。嬉しいわ! こないなところでト○○に会えるなんて!」
「伽供夜ちゃん、またお前さんは、大昔のアニメも見てるんだなア……いや、すまんがト○○は、出てこんのだけど」
なんや博士はんがゆうとるけど、今のウチには関係ないんや。もう嬉しくて、嬉しくて……博士はんが、何ゆうてるかさっぱり分からんわ。
「芽が出ろ~、芽が出ろ~」って、ウチは、踊りも全力で頑張ったんや。
しばらくみんなで踊っていたら、急に地面から何かが飛び出してきたんや。
ムギュッ
「わ! 水野博士はん、出たよ! 出た出た! 芽が出たよ!」
「よーし、次は『伸びろ~伸びろ~』って言ってくれ!」
「分かったやん! 水野博士はん」
ここからが、本番なんやね。調子に乗ってきたわ~。
この大きなフキの葉っぱも役に立つんやないか?
「伸びろ~、伸びろ~」って、ここも全力やな!
「ほら、徹も早く目を覚まして、がんばんなさいよ!」
「う、うう……ああ、『のびろ~……のびろ~』……フニャフニャ……」
「あーもう、しっかりしないさよ! ほら、だんだん芽が太い木になってきた」
「うっわー木もどんどん高くなって……」
「スッゴイ! 腕を伸ばしても木の幹を掴めなくなったわ……」
「それ! もう一息じゃあーー!『伸びろ~伸びろ~』……」
なんとかみんなで頑張って、太い幹の木に成長させることができたんや。木の成長をこんなに間地かで確認できるやなんて、水野博士はんの発明は本当に凄いでんなあ!
「伽供夜さん? どうしたの?」
「あー、記誌瑠はん、……彼、来なかったんや。絶対、一緒に来て、『伸びろ~』って、やってくれると思ったのに……」
せっかく会えると思うたのになあ~……。
(つづく)
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