3 第1章第2話 変装は自前で
「とにかく初仕事の場所は、竜宮城なんね! ウチ頑張るわ!」
「記誌瑠君、また例の『地球歴史記録全集』を調べてくれるかな? 竜宮城ってことは、『浦島太郎』が中心人物かな?」
社長はんがそう言うと、記誌瑠はんは事務所の書棚から分厚い本を引っ張り出して、なにやら探し始めたみたいや。
「う……う……う……あ! あった。『浦島太郎』……えっと、え? 社長! こ、これは!」
「そうだよ、記誌瑠君。今回のミッションは、『竜宮城から浦島太郎を連れ戻せ!』なんだ」
「どういうことですか? 浦島太郎を連れ戻す? まさか、かぐやちゃんみたいに家出したとか?」
「香子さん、家出ならまだいいかも。ここを読みますね……」
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……浦島太郎は、乙姫様の接待を受けて、とても気持ちがよくなった。タイやヒラメの踊りも楽しみながら永遠に竜宮城で暮らしました、とさ。おしまい。
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「何? このラスト! 私の知ってる『浦島太郎』じゃないわ!」
そういえば、ウチが知ってるんは『浦島太郎』ちゅう人のことじゃなくて、『竜宮城』やそこにいる『乙姫はん』ことやったわ。なんか、乙姫はんから浦島ちゅうお客さんが来たことは聞いたような覚えがあるけど、なんか忘れてしもうとわ。
「さあ、こんな変なミッションを解決できるのは、君達だけだよ。頑張って解決に行こうか!」
やっぱり社長はん、えらい張り切ってるように見えるわ。その時、頑貝はんと水野博士はんが事務所に現れたの。
「社長、遅くなりました」
「あ、博士、お疲れ様です。今回は、『浦島太郎の世界』なんだ。早速、竜宮城へ行かなきゃならないんだが、なんかいい乗り物ありますかね?」
「竜宮城じゃろ?……やっぱりアレじゃないかな! さ、地下室に行くぞ!」
博士はんは、地下室に籠って研究してはるんそうやの。ただ、そこは研究室だけやのうて、数多くの発明品を収納してしている倉庫になってはるそうや。なんかすっごい広いやん、ここ。
普通は、1階のスペースと同じくらいじゃないと地下室はダメやとおもうんやけど、ここの地下室は、部屋がいくつもあって、数えられないくらい広いいやん。
「凄いなぁ~まるで、どっかの秘密基地みたいやん」
「えへへ、伽供夜ちゃんの言う通り、ここはワシの秘密基地じゃ。なんでもあるぞ! 欲しいもんがあったらなんでも言ってな!」
これは退屈せえへんな。もう、これだけでもウチは正解やったわ。今、急に欲しいもんゆわれてもなあ……
「博士はん……ウチの欲しいもん、後で思いつくかもしれへんから、そん時でもええか?」
「あー、もちろんだとも、いつでも構わんよ!」
なんか、博士はんもいい人やわ。
「ところで、博士? 乗り物は?」
「おーそうだったな! 社長も今回は行くんじゃろ?」
「もちろんじゃないですか! 博士だって行きたいでしょ?」
「お、ま、まあ、ワシは研究の為じゃからな! う、おっほん」
「え? 何ですか? 新畑社長も水野博士も、いつもは面倒くさいって言って留守番するのに、今回だけは凄い乗り気じゃないですか? まさか、何か無駄使いしようって言うんじゃないでしょうね?」
「ま、まさか……経理課長の君に内緒で、竜宮城で遊ぼうなんて……あ!」
「し、社長! しっ!」
「あははははは……無駄使いはせんよ! 無駄使いは……」
ウチは何となく分かるんや。社長はん達、乙姫はんに会いたいとちゃうかな? だって、ウチも久しぶりにおうて話がしたくなったんだわ
そしたら、香子はんがウチに近づいて来はって、そっと耳打ちするんや。
「まあ、男の人にとって竜宮城って……アレでしょ……アノ人がいるでしょ……見て、2人とも目尻がこれでもかってほど下がってるでしょ」
「乙姫はんですか?」
「そーよ、乙姫様よ。ぜーったい美人だから会いたいって思ってるのよ!」
「やっぱりそうなんやね。ウチも久しぶりやから会いたいわ」
「え? かぐやちゃん、乙姫様とお知り合いなの?」
「まぁ、知り合いちゅうか、『お伽噺連合総会』の時に、チラッと顔をみるくらいですえ。今度は声掛けようって思うてたんですよ」
「凄いなあ、かぐやちゃん。お伽噺の中なら知り合いいっぱい居そう。なんか心強いわ!」
「みんな、今回の移動シャトルは、これだぞ! 名付けて『亀の子異次元シャトル』だ!」
「すっげーカッコいいじゃん」
「ワシらのミッションは、昔話の世界で行われるんじゃ。でも、普通ならそんな世界にはいけないもんじゃが、異次元を移動できるシャトルに乗りさえすれば、そんなお伽噺だって自由自在に行けるんだ! このシャトルは、ワシの発明なんだ。でも、物語の世界でミッションを遂行するためには、変に目立っちゃダメなんじゃ。そこで、ワシは物語の世界でも目立たないようなシャトルの外装をたくさん作って持っとるんじゃ」
そやそや、前回の『ウチを連れ戻す』っていって迎えに来はった時は、『竹取物語』の世界観に合わせて、『牛車型』の乗り物やったなあ。
今回は、大きな亀なんやね。甲羅の隙間に窓があって外の様子もよう見えるわ。操縦席は、首の中にあるんや。前方は亀の目から見えるようになってはる。もちろん暗いところでも大丈夫なように、目からライトも出るんやわ。
やっぱり水野博士はんは天才やね。こんなシャトル外装も持ってはるなんて。
「みんな、席に着いたか? 忘れものはないか?」
シャトルの操縦は、頑貝はんなんや。
「大丈夫だと思うぞ、徹君」
「……なあ……みんな、水着は持ったか?」
「水着?」
「ああ、これから行くのは竜宮城だぞ! やっぱり水着は必須だろ? いいか、女子はいろんタイプの水着を3着は持参しろ! 分かったか! 出発は、1時間待つから早く買って来いよ!」
「えー、今から買いに行くのめんどくさいなあ~」
「こら、香子! お前が行かなきゃ、伽供夜は水着が買えないじゃないか」
「そっか、かぐやちゃんの水着ね……わかったわ。徹の大好きなの買ってきてあげる!」
「う、な、何言ってんだ。早く行って来いって!」
なんだか分からへんけど、ウチらは全員ショッピングモールへ水着を買いに行くことになったんや。
「あの~社長はん? 水着って、なんですの?」
「ああ、伽供夜君は、水着って着たことないのかなあ~」
「ええ……月にも、ウチがいた地球にも、そないなもんありまへんでしたわ」
みなはん思い思いに水着を買うて、1時間後に無事『竜宮城』に出発することができましたわ。もちろん、ウチの水着は、香子はんが選んでくれはったの。とってもステキよ! 全部ね。
◆小野宮伽供夜の洋服イメージ
(つづく)
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