29 第5章第2話 聞き込み開始
「よし、着いたぞ。みんな降りていいぞ!」
向こうに見えるのが、花咲家や。ああ、おじいはんは花田咲夫で、おばあはんが花田咲子だから、花咲家っていうんやね。その方が手っ取り早くて分かりやすいんやね!
それにしても慎ましやかなお家やね。
「あのー、今回は変装せえへんの? 可愛いワンちゃんになるとか? 可愛いネコちゃんでもええんやけど……」
「うーん、伽供夜ねえ、そんなに変装したいか? でも、今回はまず花咲家がどんな家なのか知らなきゃいけないので、全員普通の村人だな」
「そーなんや? 村人はんか~。 可愛いんかいな?」
「いや、まー、そんなに可愛くは無いと思うが……可愛くなきゃダメか?」
「あ、いえ、まあ、そんな……大丈夫なんやけど……」
「それじゃあ、花咲家について、ワシらで村人達に話を聞いてくるとしようかの」
「水野博士はん、話を聞いてくるんやね……そうか!……『聞き込み』やね! ボス!」
「え? 伽供夜ちゃん? 誰がボスだって?」
「大丈夫や、ボス! ここは、最年長の方が、やっぱりボスなんや!」
「そうかい?……まあ、一応じゃ本部は、ワシが守ろうかの~…………それにしても伽供夜ちゃん、また昔のテレビ見てたね。まあ、ワシにしたらそんなに昔じゃないけどね」
「ほな、ゴリラさんは、北の方を頼むんや!」
「こら、伽供夜。誰が、ゴリラだよ!」
「いいえ、これは『何でも夢中になるゴリ推しのゴリラ』はんですよ」
「おい! 『ラ』は関係ないんじゃねえかよ!」
「あ、いえ、『ラ』は、見た目で付けてみたんやけど……」
「余計悪くないか?」
「デンカはんは、東を頼んます」
「え? 私がデンカ? 女でもデンカって言うの?」
「もちろんや。お淑やかで、経理に厳しい記誌瑠はんにピッタリや!」
「ま、まあ、今回はちゃんと割り当てがあって、嬉しいけど……」
「ヤマはんは、南やで!」
「あたしが、どうしてヤマなのよ?」
「えっと、『落としのヤマはん』なんです。どんなに口の堅い人でも、香子はんの圧力には絶対に負けてしまうやんか」
「まあ、なんかカッコ良いけど……、それでかぐやちゃんは、何なの?」
「あ、ウチはGと呼んどくれやす! 西の方の聞き込みしますさかいに」
「何だよ伽供夜、Gって?」
「えっと、ジーパンのGですが……」
「あーはいはい、分かりましたよ、Gね。いいんじゃないの!」
「ほな、ボス。ウチらは、聞き込みに行くさかいに!」
「ああ、気を付けてな……」
「……(ゴソ、ゴソッ)……はい、ボス、これ使うておくれやす」
「あ、ああ、すまんな、G…………」
「何あれ?」
「なんや記誌瑠はんは、これをしらんのか? これは、こうやって片手で顔の前に持ち上げてな、もう片方の手の人差し指をちょっと当てて隙間を作って覗くんやわ」
まったく、これだから若いもんはダメやね。ま、ウチも若いさかいに、アーカイブテレビで覚えたんやけどね。
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「ボス、遅くなりました」
最後に戻って来たんは、片貝はんやったわ。なんや村人の衣装の上に膝までのコートを羽織ってはるわ。もちろん色は、草色やね。これから桜を咲かせようっていうのに、季節感まるでないんやけど、何となく聞き込みには、このコートはかかせまへんよってに。
「おお、ゴリラさん、お疲れ様。もうみんな戻ってるけど、ずいぶん時間が掛かったね」
「いや、何、その、このコートを探すのに手間取っちゃって……あははは」
「え? それで遅れたのかい? まあ、じゃあ聞き込みの報告をしてくれるかい」
「はい…………えっと、このコートは、よく似あうらしいです」
「何言ってんのゴリラさん! そんなコートに夢中にならなくてもいいのよ! 徹……あ、ゴリラさんは、もー」
「うるせえよ、香子……いやヤマさんはよー」
「いいからさー、次はあたしが報告するよ! ボス!」
「ああ、たのみます、ヤマさん」
「あたしは、花咲家の御夫婦について聞き込みをしました。おじいさんもおばあさんもとってもいい人で、仲も良いそうです。村人達にも親しまれていて、花咲家を悪くいう人は誰も居ませんでした」
「ご苦労様、香……いや、ヤマさん」
「これじゃ、隣のイジワルなおじいさんなんて出てこないわよね」
「それじゃあ、次は私が報告します」
「記誌瑠……いや、デンカ頼むよ」
「はい、花咲家の資産について調べて来ました。預貯金、不動産、その他宝飾関係の資産は全くありませんでした。2人とも年金暮らしです。ただ、その年金も堅実な生活の為に十分生活には潤いがあるようです。従って、ペットのシロにも不自由はさせていないというのが、調査結果です」
「おおお、益々、何不自由なく、幸せな暮らしなんだのおー。これじゃあ、シロが宝ものを掘り出すなんてことしなくてもいんだなあ~」
「そうなんや、ボス! これだけで、もう花咲家に事件が起きる隙などおまへんわ」
「おや? 伽供夜……いや、Gよ。君の調査でも、変化なしなのか?」
「いいや、ボス! だからこそ、ウチは証人を連れて来たんや」
「証人?」
「はい! どうして花咲家に事件は起こらへんか! その中心人物や!」
「そ、それは、いったい……誰なんだ!」
「ボス! この人が証人です!」
「うわわわわ……こ、これは……!」
(つづく)
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