288 第23章第15話 人工知能の矛盾
「なあ、テラはん。……ううん、あんたは人工知能0099(ゼロゼロキューキュー)なんやね。そして、博士はんの技術を盗んで、人類を地球から遠ざけてしまったんや。……まあ、タイムマシンで未来の地球を見た時、その状況にうんざりし人間なんかいない方がええって思ったやろう?」
《ああ、その通りだよ。……私は、愚かな人間にガッカリしたんだ》
「確かにね……君は人間に失望したんね。でも、それは君が人間ではなく、作られた人工知能だからなんじゃないのかな? 君は、人間の振りをした作られた頭脳なんだよ」
社長はんが、正面の雪ダルマを一通り見て回り、そんなことを言ったんや。
《そうかもしれん。……ただな、人間の他にもたくさんの生き物が地球にはいたんだよ。それらの生き物は言葉を持たなかったので、私が代わりにその意思を引き継いだと言ってもいいんだ。誰が見ても、あの時の地球に人類は必要なかったんだよ!》
もっともらしいことを0099はゆうとるわ。人類以外の生き物の代弁者やゆうとる。ホンマにそうなんか?
社長はんが、そんな0099の言葉には構わんと、どんどん攻めとるわ。
「本当にそうかな? 君が人類を宇宙に避難させた2025年の地球は、確かに温暖化が進み各地で災害が起きてた。それに、国同士は戦争をしたり、自分の事ばかりを主張したりととても褒められたものじゃなかったようだね。……君の体? あ、今、目の前にある、伽供夜君が雪ダルマと呼んでいた機械を見させてもらったよ。ところどころにモニターがあったね。これは、その当時の地球の様子や君がとった行動の記録用デバイスなんだね……」
《ふん、……すべて私が記録してきたものだ。言うなれば、それは私の記憶なんだ。……自分のしたこともすぐに忘れて同じ失敗を繰り返す、愚かな人間とは違うんだ。すべてのデータは蓄積によって、よりよい未来を作れるんだ》
「じゃあ、言わせてもらうが、君のデータによれば、あの頃の地球ではまだまだ諦めていない人間がたくさん居たようじゃないか? 例えば、地球温暖化についても“地球温暖化研究所”が何とか地球を冷やそうと頑張っていたみたいだし、国同士の諍いも話し合いで解決しようと奔走していた人間がいっぱいいたようですね」
さすが、社長はんや。この短時間で、この雪ダルマをそこまで調べ上げたんや。やっぱり、いつも冷静な社長はんは、頼りになるわ。
《……ふ、ふんっ、中には、そんな奴も、い、いたかもな。ただな、そんな奴は一握りだ。ほとんどの人間は何も考えていないんだ》
「じゃあ、お前が人類を騙したあの“赤い靄”は何だ? 地球の様子を宇宙からの衛星画像に乗せて全人類に見せて騙したあの“赤い靄”だ」
《……あれは、地球の温暖化で、気温が上昇し、人類の生存を阻む“赤い靄”だ。早く、地球を脱出しないと、すべての人類はあの“赤い靄”に飲み込まれ絶滅してしまうんだ。衛星からの画像だけじゃなく、地球を脱出する時、宇宙船の窓からすべての人類は見たはずだ。自分の目でな。あの“赤い靄”をな!》
0099が自信たっぷりにそんなことを言ったんやけど、すかさず博士はんが社長はんの傍に来て雪ダルマに指を差して言ったんや。
「それこそ嘘じゃ! あの赤い靄は、危険な靄なんかじゃなかろうが! ワシらがこの宇宙ステーションに乗り込むとき、地球の衛星軌道から分析したら、あれはただのオーロラじゃないか! お前が、意図的にオーロラを発生させるために、特殊な人工衛星をたくさん飛ばしてるじゃないか。ワシは、調べたんじゃ。あの衛星からは常にオーロラの発生に必要な電子とそれに反応する酸素原子を放出し続けているじゃないか」
やっぱりそうなんや。博士はんのゆう通り、地球の回りにある“赤い靄”は、近づくと綺麗なピンク色やったし、まるで昔月から見てたオーロラにそっくりやったわ。
せやけど、少しでも離れると赤く見えたんは、上手く太陽光線も利用して、危険なもんでも覆っているように見せてたんやな。
「テラはん! いや人工知能試作機0099、お前の嘘はもうたくさんや! ええ加減にホンマのことをゆうたらどうなんや!」
《………………》
「それにな、何で博士はんを250年もタイムスリップさせたんや。博士はんの技術を手に入れたんやったら、もう博士はんには用がないんとちゃうか? 博士はんが作ってたタイムマシンを壊すだけで、十分やろ?」
『そうよ、カグちゃん、その調子よ!』
「そうじゃ、ワシさえ、あの時の地球に残っていたら、こんなことは許さんかったはずや!」
「お前は、そんなに博士が邪魔だったのか?」
「徹、多分だけど、それは違うとあたしは思う。邪魔だったら、その場で亡き者にすればいいのよ。でも、生かしたままタイムスリップさせるなんて……」
「……そうか、香子君の言う通りだ! ということは、0099は、博士を何かに利用しようとしていたんだね!」
「さっすが、アナタ! 冴えてる! うふっ」
あ、また、香子はんが、片目瞑りの発作が出始めたんや。早いとこ、この場を何とかしないと……。
《……………………》
せやけど、人工知能試作ナンバー0099、テラはんは、黙ったまま何もしゃべらんくなってしもうたんや。
(つづく)
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