285 第23章第12話 始まる対話
《……それで、どうだったかな?》
ウチがどうしたらいいか迷ってしまって黙っとったら、急に声がしゃべり出したんや。
「どうだったって、……何がや?」
《君が今、お伽噺の世界で会ってきた“月のウサギ達”だよ。何か、感じたかね……?》
「……ああ、みんな可哀そうやと思ったわ。……人間に憬れたのに上手くいかんかったケイちゃん、人間に優しかったのに上手くいかんかったユウちゃん、人間に役立つ知恵を持ってたのに上手くいかんかったチー君、人間と仲良くしたいのに上手くいかんかったチューちゃん、そして戦わないで平和がいいのに上手くいかんかったカズ君……みんな可哀そうやったわ」
思い出したら、ウチ、また涙が出てきたわ。
《……そう、君なら泣いてくれると思ったんだよ。……悲しいだろ? そして、腹が立つんじゃないかな? どうだい?》
なんかウチはどんどんイライラして来たんや。ウチは、涙が出るほど腹が立つ……せやけど、声の人からは何の感情も感じないんや?
どないなっとるんやろ? こいつ、いったい誰なんやろ?
「なあ、あんたは、誰や? 名前は、ないんか?」
《私は…………私の名前は……試作番号なら00……いや、これは名前ではないな。…………私の名前は、……“テラ”にしょう。私がテラになるんだ》
「まあいいや……なあ、テラはん、テラはんもあのウサギはん達のことは知っとるみたいやね」
《知っているさ。あれは、私が選んだお伽噺だからね……》
「それじゃあ聞くけど、テラはんはどう思うねん。テラはんの気持ちは……?」
ウチは、ちょっと意地悪した気持ちになったんや。世の中、質問に答えられん大人は、よく質問した相手に質問で返すんや。ウチもラビちゃんによう質問返しされたんや。
《ふふふ……私はね、ウサギは可哀そうだとは思うけど、それより人間がどうしても許せないんだよ。人間は、自分の事しか考えていない。ウサギだけじゃなく、他の動物や植物のことなんか微塵も気にしちゃあいないんだ》
あれ? テラはん、なんも困らんようや。返って、こないな質問を予想しとったんか、嬉しそうにしゃべり出したわ。
《だからね、私は、あの女神様みたいに、月に送ってやったんだ。いや、月だけじゃなく、火星にも金星にも……この太陽系の星々にな。私は、女神様より有能なんだよ。この地球を救うには、ウサギを月に送るんじゃなく、人間の方を送らなきゃダメなんだ》
え? テラはん、何をゆうとるの? そういえば、“テラ”って“地球”っていう意味やって、前にラビちゃんがゆうてたな。こいつ、自分のことを“地球”ってゆうてるんか?
確かに、人類は地球を脱出し、太陽系のいろいろな惑星に散らばったんやけど、…………それが、こいつの言うように、女神様みたいに月やいろんな惑星に送られたってことなんやろか? お伽噺のウサギみたいに…………。
「どういう事やね? ウチにも分かるように説明しなはれ!」
《ふふふ……お前には難しすぎたか? じゃあ、もう少し優しく説明してやろう。……あれは、地球西暦1970年だった。大阪で万国博覧会が開かれた年だ。私は、その万国博覧会の会場で生まれたんだ…………》
(つづく)
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