28 第5章第1話 発進!
====登場人物====
小野宮 伽供夜……アルバイト〔営業課〕(かぐや姫)
新畑 懐……社長
風見 香子……情報課長(酔うと寝る)
頑貝 徹……営業課長
後藤 記誌瑠……総務・経理課長(物語の案内役)
水野 博……研究開発課長〔博士〕(タイムトラベラー)
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「社長はん~……最近暇ですわ~」
「あ! 伽供夜君、ダメだよ、そんなフラグを立てちゃ~」
「え? どういうことなん?」
「僕はね~、あんまり仕事がしたく無いんだよね~」
「そないなことゆうても社長はん、仕事しないとお金が入ってこんのとちゃうんか?」
「そうですよ、社長。私だって経理課長としてみんなにお給料出せなくなるんじゃないですか?」
「え? 記誌瑠君までそんなこといっちゃうの? 大丈夫だよ、今までだって僕ら、そんなに仕事してないけど、毎月ちゃんと給料払えてるじゃないか?」
「まあ、確かに会社の資産通帳には、定期的に報酬が振り込まれてますからね」
「そうだろ。僕は社長だよ。社員のみんなには迷惑かけないから、気にしないでね。……だから、僕はあんまり仕事なんかしたくないんだよね~……」
なんや社長はんは、やっぱりやる気がないんよね。どうも最近では人類委員会からメールで頼まれる仕事しかしてないみたいやの。
会社を作った時は、紛失物捜索や下町の飲食店警備、時には警察のお手伝いなんかもしてたんやって。でもね、この月ではそないに事件も起きへんのよ。せいぜい、あっても商店街で子供が迷子になるくらいかな。ま、それだけ、この月が平和だっていうことやと思うわ。
せやけど、そない仕事せえへんくても、会社はつぶれんのやて。まったく不思議やわ。その辺は、ぜーんぶ社長はんが上手くやってるらしいんやけど、経理課長の記誌瑠はんでも分からんゆうてはったわ。
だから、ウチも気にせえへんことにしたんや。毎月の給料さえ貰えれば、仕事があろうが無かろうが、関係ないねん。依頼があれば、引き受ければいいだけやん。
ブッブー ブッブー ブッブー ブッブー
「ほら、見ろ伽供夜君! 人類委員会からメールが来ちゃったじゃないか。君がそんなこと言うからだよ~、やっぱりお仕事じゃないかなあ~」
「別にいいやん、社長はん、早くメールを見てや。さあ、お仕事や!」
「もー、こんなに朝早くから、仕事なんてイヤだなあ~…………何々…………はあ~、伽供夜君、みんなを集めてくれないかなあ~」
「はい、社長はん、分かったで!」
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みんな事務所に揃ったみたいや。
ウチと香子はんは、アスレチックで一汗流してきたんやけど、今日はいつもより早くから会社にいたんや。水野博士はんは、研究室から来たんやね。白衣を着たままや。きっと夕べから地下の研究室に籠ってはったんや。目の下にクマができとるわ。
それにしても頑貝はんは、何をやってはるんやろ? 今日も眠たそうな顔をしてはるわ。
「社長はん、全員揃ったで~」
「やあ、みんな朝早くからすまんね~」
「何言ってんですか社長、もう十時ですよ。普通の会社なら遅刻扱いです。まあ、ウチは自由出勤だから、みんなだいたい昼頃に出社なんですけどね。真面目に出社してるの私だけなんだから!」
確かに記誌瑠はんは、朝から会社におるわ。たまたまウチらは、会社に着いたんが9時やったから、今日はセーフやね。
「社長、あたしらは朝のトレーニングしてたんです。これも、探偵業務のためだから、仕事みたいなものですよね。……ふふん~とおるちゃんみたいに、何もしてない訳じゃありませんよ~」
「うっせーな、香子。俺だって、遊んでる訳じゃねーや」
「あら?……いったい何をされてるのかしらね~」
「ふんっ……ほっといてくれよ!」
「まあまあ、そんなに気にしなくていいからね、ウチは自由出勤なんだから、毎日自由に過ごしていいんだよ。呼んだら来てくれればいいからね!」
ホンマに、自由な会社やわ。これで、潰れないんだから不思議やわ~。
「……えっと、今回のミッションは、『花咲かじいさん』なんだ。指令は『花を咲かせよ!』だ」
「え? 花咲かおじいはんが、またおさぼりしはったんか?」
「伽供夜君が言うように、『おさぼり』かもしれないけど……記誌瑠君、例の『地球歴史記録全集』を調べてくれないかね?」
社長はんがそういうと、早速記誌瑠はんがページを捲ったんや。そして、『花咲かじいさん』のページを見つけて読んでくれたんよ。
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花田咲夫と花田咲子の老夫婦は、ペットのシロといつまでも仲良く暮らしました……とさ。 おしまい。
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「あれ? これでお終いなんや?」
「事件も何も起きてないぞ!」
「社長はん、『花咲かしいさん』って、どんな話なんや?」
「ああ、伽供夜君は、知らないか……この話はね、ちょっと悲しいところもあるんだよね」
「そうだぞ、伽供夜ちゃん。最後は、奇麗なエンディングなんだけど、ワシはシロが殺されるところが辛くての~」
「ええ? 博士はん! 殺人事件が起きるんか?」
「あーいやいや、伽供夜ちゃん、殺人じゃないんじゃ…………まあ、いわゆるペット殺害だな」
「そんな~博士はん、このおじいはんが自分のペットを殺しはるんですか?」
「いやいやいや、伽供夜ちゃん、それも違うんだ。悪いのは、隣に住むイジワルなじいさんなんじゃ」
「ウチ、それでも許さしまへんで。早く行って、シロはんを助けなあかんわ!」
「待って! 『地球歴史記録全集』には、そんな意地悪な隣のおじいさんの事なんか、何も書かれていないわよ!」
「記誌瑠はん、ホンマでっか? それでもシロちゃんが危ないかもしれまへん! 急いで『花咲かじいさん』の世界に行きまひょ」
何や、今回、ウチの血が騒ぐねん。頑張らなあかんって思うねん!
「博士はん、博士はん、今回のシャトルは、何ですか? 早く見せておくれやす」
「はいはい、伽供夜ちゃんには敵わないな。じゃあ、みんなで地下の格納庫に行くとしようかのう」
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ウチらは、地下の格納庫に来たんや。博士はんの案内で『動物セクション』と表示された前まで来たのや。そこには、真っ白くてとても可愛い機体があったんや。
「わ、わ、わ! これが、今回のシャトルなんやね! なんて可愛いんやろ……よーし、よしよしよし! ほーら、ええ子や~」
「伽供夜さん、どうしちゃったの?」
ウチが、急にシャトルを撫で出したさかいに、記誌瑠はんがびっくりしとるわ。そやけど、もうウチの手は止まらんわ。メンコくて、メンコくて……。
「ほー、気に入ってもらえたようじゃなあ。これはな、子犬のシロをモデルにした異次元シャトルじゃ、名付けて『シャトル・シロ』じゃ」
「名付けてって、そのまんまじゃねえか!」
「煩いの~頑貝ちゃんは。いいんじゃ、伽供夜ちゃんが気に入ってくれたんだからのー」
「けっ、何言ってんだか、さっぱり分かんねや」
「わ、わたしも、この『シャトル・シロ』大好きだなあ~」
何や? 記誌瑠はんもこのシロが気に入ったみたいやね。ウチと同じようにシロを撫で出したわ。
「おお!記誌瑠ちゃんも気に入ってくれたか! じゃあ、早速出発じゃ。今回は、ワシも行くぞ! ほれ、頑貝ちゃん、出発のスタンバイじゃ!」
「はいはい、分かりましたよ」
みんなで、『シャトル・シロ』に乗り込んだんや。全身真っ白で、丸っこい頭に、丸っこい体、丸っこい尻尾がとても愛らしいんや。それに、両手両足?(まあ、足が四本なんやけど)は、やっぱり丸っこいんやね。
何といっても鼻と両耳が黒くなっとるんやわ。フロントガラスも目の位置になっていて外から見ると真っ黒い可愛い目に見えるんよ。
とにかく、外見はホンマに子犬そのものって感じやったわ。
「~うーん、僕は今回も留守番するよ。僕、犬がちょっと苦手なんだよね~、今回もみんな頑張ってね~」
「そうか、じゃあ今回は、ワシらでミッションクリアしてくるから、いい知らせを楽しみに待っててくれな社長!……よし、頑貝ちゃん出発じゃ」
「了解! シャトル・シロ、発進します! ゴー!」
「じゃあ、僕も一仕事始めるかな~……あーあ、面倒くさいなあ~」
(つづく)
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