270 第22章第21話 クイズの時間です
「……5秒前……4……3……2……1……地球の衛星軌道に乗りました!」
「よし、記誌瑠ちゃん、後は、自動操縦に切り替えても大丈夫だよ」
しばらくこのセーラーアースちゅう宇宙船は、帆をあげて太陽風を受けつつ、機体に備えられたイオンエンジンを時々使って方向修正をしながら地球に迫ったんや。
そして、今、ようやく地球の衛星軌道ちゅうやつに乗っかったんやて。
ウチの頭の中では、前に行った遊園地ドームにあったメリーゴーランドにちょこんと乗っかったような感じかな。これで、後は、勝手に地球の周りを回ることができるんやって思ったわ。便利やね、衛星軌道って!
あ、でも、きっとこんなこと言ったら、またラビちゃんに“ポンコツ頭”って言われそうだから黙っとるんや。
「なあ、博士? 衛星軌道に乗ったってことは、遊園地でメリーゴーランドに乗ったみたいに、勝手に地球の周りを回るってことなのか?」
「ほほー、頑貝ちゃん、うまい事を言うんだなあ~。まあ、そんなとこかな」
あれ? 頑貝はんもウチと同じこと思ってたんや。
「そうね、頑貝君が言うような考え方もできるけど、衛星軌道って、実はその惑星に落ち続けることなのよ」
「え? 記誌瑠、俺達、今、地球に落ちてるのか?」
「そうよ。でもね、この舟は前にも進んでいるの。太陽風を受けてるからね。だから、この舟には、前に進む力と重力で地球に引っ張られる力が働いてるのよ」
「あ、ああー……確かに……」
なんか、頑貝はんの返事に元気がないんやないかな?
「そこで、この2つの力が丁度釣り合う場所が、衛星軌道なの。釣り合ってるから、舟は地球に落ちても、少し斜め前に進むから、真下には落ちないで済むのよ」
「う、ううー……なるほどな……」
あっやっぱりやわ。頑貝はん、ウチの「……へえーそうなんや……」みたいな返事しとるわ。
「宇宙で窓の外を見てもあんまりスピード感はないかもしれないけど、今、このセーラ―アースは、約秒速7㎞で進んでいるの。これ以上ゆっくりだと、地球の重力に吸い込まれて落っこちちゃうのよ」
「秒速7㎞……うーん……1秒で、7㎞進んでいるっていうことだよな!」
「そうよ、頑貝君。……じゃあさ、このスピードで飛んでいると、地球を1回りするのにどれくらいの時間が掛かると思う?」
うっわ、記誌瑠はんが頑貝はんに問題を出しおったわ。こんな算数みたいな問題、解けるんか?
「ええ? 記誌瑠! クイズかよ? ……くっそー、俺が計算苦手だって知ってて……えっとえっと、……あ、そうだ! 前に聞いたことがあるぞ、人口衛星って止まって見えるんだって! だから、答えは、“回れない”だ! きっと、地球からみたら、いつも同じところに居るんだよ!」
「ブブブー! 残念、頑貝君」
あははは、やっぱり頑貝はん、間違いよったわ! やっぱり、頑貝はんもウチと同じやし!
「あのね、頑貝君、人工衛星が止まって見えるのは、上空約3万5千㎞の所よ。地球から離れれば離れるほど、ゆっくりなスピードでも地球の重力には勝てるの。逆に言うとね、ここまで高くないとゆっくりなスピードで飛べないのよ」
「じゃあ、何か、上空3万5千㎞のところだと、地球の回転と同じスピードになるってことか?」
「そうね、それでも秒速約3㎞で飛ばなきゃダメよ」
「すげえーなあー、衛星軌道って!」
何をゆうとんのや? 人工衛星が止まって見える? どういうことや? 止まったら、落ちるんとちゃうんか? あーもうー横でこないな難しい話をするのは、やめて欲しいわ! まったくもー。
「……ん? ところで記誌瑠、さっきの答えは何なんだよ」
「あー、この舟が地球1周する時間ね。……えっとね、今の速度だと約1時間半かな。つまり、1日に16周もできるのよ」
「16周か……そんなに地球の周りを回れるんだ!」
もう、ウチも記誌瑠はんと頑貝はんの話をいくら聞いても分からんわ。ちゃんと、聞いていたんやで! それでも、半分も分からんかったわ。
結局、ウチが分かったんは、この衛星軌道ちゅうところを飛ぶには、えらいスピードがいるちゅうことで、地球の回りを1日に16周もできるちゅうことぐらいや。しかも、何で? って、理由を聞かれても、ウチはよう説明できんわ。
『ふっ、大丈夫よ、カグちゃん。宇宙は、広いのよ。細かいことが分からんくても、太陽はいつも燃えてるの! そんな顔してると、燃えちゃうわよ!』
なんか、ラビちゃんに慰められたけど、慰め方もよう分からんわ。ウチ、太陽やあらへんし。どっちかちゅうたら、ウチはかぐや姫なんやから“月”やないかと思うんやけど…………。
ビビッー……ビビッー……ビビッー……ビビッー………………
(つづく)
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