267 第22章第18話 行き先は
しばらくウチらは、黙ったまま赤いベールに包まれた地球をボンヤリと眺めてたんやけど、ウチは「はっ!」と、正気に戻ったんや。
「なんや? そしたら、博士はん、ウチらはここまで来ただけで、すぐに月に帰るんか?」
そしたら、博士はんは、ウチらの方を見回してから、ニッコリ微笑みながらゆうたんや。
「そんなもったいないことワシがする訳ないじゃろ? なあ、記誌瑠ちゃん!」
「ええそうよ、私達は、可能な限り、今の状態で赤い地球の秘密を探る方法を考えたの!」
「え? じゃあ、何ができるんや? ウチらは、ここで何ができるちゅうんや?」
「うん、僕も、何ができるか知りたいな~、博士は何かいいことを考えているんじゃないのかい?」
「……社長、まあ、いい考えかどうかは分からんのじゃが、ワシらは地球には行けんと思うんじゃが、地球を見には行けると思うんじゃ」
「博士はん、地球を見に行くってどういうことや? 今だって、地球は、そこに見えるんやけど……」
「ああ、あのね、博士が言っているのは、ギリギリまで地球に近づけば、もっとあの赤い地球の秘密を探れるかもしれないっていうことなの。それはね、地球の衛星軌道に乗りましょうってことなのよ」
うーっ、また、難しい言葉が出てきたんや。なんや? エイセイキドウって?
『あ、カグちゃん、また、ポンコツの顔してる』
「な、なに、なんなんポンコツって? ウチが、いつそないな顔したっていうんよ?」
『ふふふ……きっと衛星軌道って何か分からないんじゃないの? 』
「………………」
「あっ、ごめんね伽供夜さん。あのね、衛星軌道っていうのは、例えば人口衛星がその惑星に落ちないでずっとその惑星の回りを回り続けるられる道のことをいうのよ」
「え、それじゃあ地球の衛星軌道ちゅうところに行けば、地球には落下せえへんけど、地球の近くをずっと回っていられるちゅうことか?」
「そうよ伽供夜さん。地球の地上から宇宙へ行くより、衛星軌道から宇宙に行く力は、約7分の1ぐらいでいいのよ」
「へえ~地球から宇宙へいくより7倍も楽ちゅうことか?」
「そうよ、だから博士は地球の衛星軌道に行ってみましょうって提案しているの」
「なあ、衛星軌道とかいうのは、俺もよく分からないんだけど、そこまで行ったり、その衛星軌道からまた脱出して月に戻るためのエンジン燃料とかは大丈夫なのか?」
そっか、頑貝はんの言うように、宇宙をあちこっち移動するには、それなりのエンジンがいるんや。今は、このセイラ―アースは太陽風を受けてヨットみたいに進んどるんやけど、これでどこまでも行けるんかな? 月を出発する時に使ったロケットは、もう切り離して爆破してしもうたしな。
「ああ頑貝ちゃん、それなら大丈夫じゃよ。このセイラ―アースにも、小型のイオンエンジンを搭載してるからのう。衛星軌道からの離脱や宇宙空間での起動修正ぐらいなら十分できるんじゃ」
うっわー、またや! なんや? イオンエンジンって? ロケットみたいなものなんか? ウチ、ホンマ、宇宙服だけ着てこの宇宙の海を泳ぎたくなってきたわ……
「えーっと、あのね……イオンエンジンでしょ? イオンエンジンってね……あ、そうそう、太陽から降り注ぐ太陽風の中にはね大量の水素原子核……えっと、水素のイオンかな、まあ、そんなイオンがいっぱいあるの。それを、このセーラーアースの帆で受けてるから、必要なイオンはいっぱい溜まっているのよ」
「……へえーそうなんや……」
いっけない、また、〔へえーそうなんや〕しか言えへんわ。やっぱり、ウチは、ポンコツ? あ? えへへへ……大丈夫や! 頑貝はんもポンコツの顔しとるわ。ウチと同じやわ!
「まあ、難しいことは分からんくても大丈夫じゃ。それじゃあ、これから地球の衛星軌道に向かうとするか」
「そうや、大丈夫や。難しいことは分からんくても、地球の衛星軌道に行くんや!」
「そうだそうだ! 難しいことは博士と記誌瑠に任せれば、大丈夫だ!」
「あははは、なんだか徹も、開き直ったわね、ふふっ」
『おや? カグちゃんとカタガイちゃんは、似てるんじゃないの? まあ、2人していいコンビかもね』
もう、ええんやもんね。はなっから、ウチはポンコツでも、堂々と行くって決めてんのやからね。それにしても、頑貝はんもウチと同じ感じがするんは気のせいやろか?
(つづく)
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