266 第22章第17話 遠い地球
「ところで社長、これから目的地を設定するんじゃが、やっぱり地球へ向かうのは無理じゃな」
「ええ?! なんやて! ウチらせっかく青い地球を取り戻すために宇宙に出たんやあらはらへんの? なんで、地球には行かれんのや? 地球に行って秘密を探るんやなかったんけ?」
ウチは、何がなんでも地球に行きたかったんや。せやから、ここまで精一杯頑張ってきたんや……。それが、地球へ行かれんなんて…………。
「まあまあ、伽供夜君、落ち着いてね。詳しい説明は、博士がちゃんとしてくれるからね」
なんや、ウチ、悲しくなってきたわ。社長はんが優しくなだめてくれるんやど、涙が出るんを止められんかもしれん……。
「ワシもな、最初は太陽風を利用できれば、地球に行けると思ったんじゃ。でもな……」
「博士、理由は私が説明しますね。…………伽供夜さん、聞いて。博士だってね、地球へ行きたかったのよ。なんせ、博士は、あの地球からタイムスリップしてきたんだからね」
記誌瑠はんが、目の前の地球を指さして博士はんと地球を目で追ってたんや。なんか、赤いベールに包まれた地球が、このセーラーアースの窓から、月に居る時よりも物凄く近く見えたんや。
どうして赤いんやろうなあ~。赤くさえなけりゃあ、みんな地球から離れんでも良かったんやないやろかなあ~。
「……うん、記誌瑠はん、ごめんな。博士はんだけやなく、みんなも地球に行きたいってのはよく分かってる」
「ありがとう伽供夜さん。あのね、地球の重力は月の6倍あるの。だから、もし地球に着陸できたとして、そこからまた月を目指してロケットで飛び立つには、物凄いエネルギーがいるのよ。月から脱出するのに約時速8500㎞のスピードがいるの。秒速だと約2300mなの。つまり、1秒で2300mも進む速さなのよ」
「あ、それはウチ、覚えてるわ。発射の時、記誌瑠はんがゆうとったもんな」
「そう、それで地球の重力圏を脱出するとなると、約時速4万㎞。秒速だと約1万1千m、そう1秒で11㎞も進む速さが必要なの」
「ええ? 1秒で11㎞も進まなあかんのか!」
「そうよ、これも地球の重力が月の6倍もあるからなの。それにね、早さだけなら約4倍なのに、それに使うエネルギーは約22倍必要だってことが分かったの」
「記誌瑠はん、計算したんか?」
「ええ、博士に理論を教えてもらいながら、実際の計算は3日かかったわ。今の私達の技術では、地球へ行ってもう一度そんなロケットを作りあげるのは無理みたい。……今の地球には何も残ってないと思うからね」
「どうだい? 伽供夜君。それでも、地球へ行くかい?」
「…………ダメや……今、戻れんかもしれん所に、行くわけにはいかんのや。ウチだけやない。他のみんなだって、戻ってこんかったらダメなんや。……な、香子はん、いや社長夫人」
「もう……グスン、かぐやちゃんったら……ズズッ」
香子はんも泣いとったわ。そうや、香子はんも記誌瑠はんも、月に帰らなあかんのや。もちろん、社長はんや博士はんと一緒にな……。
『カグちゃん、カグちゃん……』
「ん? なんや、ラビちゃん?」
『その顔……カタガイちゃんを忘れとるやろ?』
「え? あ! そうやった!! 頑貝はんだって、帰らなあかんよ。……誰か、待ってる人がおるかもしれんしな」
『もうーー! カグちゃんのポンコツってばあ~……』
え? なんかまたウチ、やらかした? 変やな、普通に考えたんやけどな~
(つづく)
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