264 第22章第15話 月の圏内脱出
「みんな、席に着いたかな?」
「はい、社長。大丈夫です。確認しました。これから、私はロケット発射のためのチェック作業を開始します」
「頼むぞ、記誌瑠ちゃん!」
「了解です、博士!」
席は、2席ずつ3列になっておるんや。まあ、ウチは最後列で頑貝はんと一緒なんやけど、ウチの隣にはもう1つ小さな補助椅子みたいなやつがあるんや。そう、ラビちゃんの席やな。
1番前は、操縦席や。右側が機長の博士はん。そして、左側が副機長の記誌瑠はんなんや。2人ともよう似合っとるわ。2列目は、社長はんと社長夫人の香子はんが座っとるわ。
「チェック完了、いつでもロケットは発射できます!」
「よし! 博士、発射してくれ。目標は、月の圏内を脱出することだ!」
「了解しましたじゃ、社長! …ロケット発射秒読み開始!」
「ロケット点火まで、……10秒、…………5秒、4秒、3……2……1……」
「点火!」
「点火します!」
ドゴゴゴゴオゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオーーーーーーー
ウチらの体には、地響きみたいな低い振動が伝わってきたんや。ウチらが乗り込んどるのは、この20メートルもあるロケットに括り付けられた宇宙シャトルセーラーアースなんやけど、座席は空を向いてるから、みんな仰向けになってるみたいなもんや。椅子に座ったまま後ろにひっくり返ったみたいな格好になってるんや。記誌瑠はん曰く、この方が打ち上げの圧力に耐えられるらしいんや。
「うわあーー、ゆっくり動いとる! 体が上に上がっとるわーー!」
「落ち着いて伽供夜さん。これから、ちょっと圧力がきつくなるからね」
ゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオーーーーーーー…………
窓から見える景色がだんだん早く動くようになってきたんや。それと同時に、体が背もたれに押し付けられたみたいになってきたわ。
「な、なんや、これ? 首も足も動かんわ!」
「これがね、打ち上げの時の耐圧で、よくGって言われるの。月からの打ち上げだと最大で2Gぐらいね。まあ、地球で感じる重力の2倍ってとこかしら」
「へえ~……記誌瑠はん、詳しいんやね……」
「凄いじゃろ、記誌瑠ちゃんはな、こういうすべてのデータの数値を調べてくれたんじゃよ。それにな、その調べた数値をすべて暗記しておるんだ」
「まあ、博士ったら、うふっ♡。こんなの簡単よ。だって、私は、異次元探偵社のみんの給料や必要経費の細かな出納を1人でやってたのよ。6人……えっと今は6人と1羽分かな、それだけの給料だと、もっと複雑なんだからね」
き、記誌瑠はんに、め、目薬っと……あ、ダメや、今は体がうまいこと動かんわ。目薬は、宇宙に出てからにしよっか。
ゴゴゴゴ……ボボッホッ……ブブブズズズ……プスプスプススーーーープスン#
「あ、博士! エンジンが止まりました!」
「え? どうすんのや? このまま、また月に落ちてしまうんか?」
「大丈夫だよ、伽供夜君。落ち着き給え」
「だ、だって……」
「忘れたのか? この舟は、何で動くんだよ!」
「あ、頑貝はん……そうやった!」
「よし、記誌瑠ちゃん、ロケットを切り離してくれ!」
「了解です、博士」
ポン!
「ロケット切り離し確認しました!」
「じゃあ、あと5秒でロケットを爆破してくれ!」
「え? 爆破? 破裂させるんか?」
「落ち着けって、伽供夜」
『あのまま、ロケットを落として、もし月のドームにでも当たったら大変でしょ。だから、地上に落ちないように、ここでバラバラにして、宇宙へ流してしまうのよ!』
「うん、まあ、ラビちゃんの言う通りなんじゃがな、実はもう1つ目的があってな……」
「4秒前…………2……1……爆破!」
ドッガーーーーーーーーン!
「うっわーー、なんやセーラーアースが、吹き飛ばされたんか?」
さっきロケットが止まって、体に感じる圧力がなくなったんやけど、今の爆発で、また舟が動き出したんかな? ……そうや、これがもう1つの目的なんやね。ロケットの爆風を利用して、少しでも月の重力圏から離れようっていうんや。……ってな、これな、今、記誌瑠はんに教えてもろたんや。こないな難しいこと、ウチが気づく訳、あらへんがな。
「今だ! 記誌瑠ちゃん、セーラーアースの後部格納庫を開放だ!」
「了解です博士。ハッチ開放!」
ウィイイイイイイイイーーーーン
な、なんの音や? あ、ウチらの座席の後ろ辺りで音がするんやけど。
そうか、このセーラーアースって、ウチらの座席がある部分やなく、その後ろの部分が格納庫になっていたんや。丁度トラックの荷台に当たる部分やね。
「ハッチが開きました!」
「よし! 仕上げじゃ、記誌瑠ちゃん! 帆を上げろー―!」
「了解です! 超電導コイル発動……磁場展開、及び磁気プラズマセイル接続!」
ウィウィウィウィウィウィウィウィウィウイイイイイイイイイイン…………
「あ、あああーー見えるぞーー」
「見えてきたーーーー」
「あれが、帆なのね……」
「すっげーーー、綺麗な色してんじゃないか」
「まるで、オーロラみたい……」
『七色に光ってるのね~』
「な、なあ、みんなー、動いてるよ。このセーラーアースが動いてるやん!」
ゆっくりとではあったんやけど、このセーラーアースが、月を後ろに見て、前に広がる宇宙へ向けて進み出したんや。ウチらは、後方の窓からしか見えへんかったけど、きっと月から見たら七色に光りながら大空を飛ぶ夢の舟に見えたんやないやろかなあ~
「やったー! 成功だぞ、この舟は、太陽風を受けて、進んでいるんじゃ!」
「「「「「「やったーーー!」」」」」」
ウチらは、みんなして座席で万歳をしながら大喜びをしたんや。この時は、もう圧力の縛りもなく、体が自由に動くようになっていたんや。
(つづく)
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