26 第4章第5話 水野博士の秘密
「え? 昭和の後期を知ってるって、どういうことですの? 本か何かで読んで知ってるってことなんですか?」
「いいや、まあ……ワシは、昭和後期に生きていたんだよ。あの頃のワシは、若くてな……機械技術の進歩ばかり夢見てたんだ」
ウチは、びっくりしてしもうたわ。水野博士は、今から約200年前の人やということみたいや。ウチだって、お伽話の世界から来たやさかい、ちょっとやそっとの事では驚いたりしまへんよ。せやけど、お伽話やない実際の人間が、200年も飛び越えるなんて……。
「ワシはな、あの頃『大阪万博』に向けてある発明品を出品しようと頑張っていたんだ」
「ウチ、大阪万博って知ってます。あの頃、地球人が月に来てましたよね。それで、月から石を勝手に持っていって展示してたのが、大阪万博だったんです。ウチも、興味があって内緒で見学に行ったんですわ」
「おお、伽供夜ちゃんは大阪万博を見てるのか! そりゃ、羨ましいなあ~」
「ええ、月の石を見るのに何時間も並びましたわ。あんなもの、うちの庭にたくさん転がっていたのに、ほんにびっくりです」
「ワシは、大阪万博の1年前に『タイムマシン』を完成させたんじゃ。実際は、失敗したんだけどな。……展示のパビリオンと実験ブースも出来上がった時、ワシは一人で試行実験を行ったんだ。未来への時間旅行なんじゃが…………その結果、ワシは今ここに居るんだ。そして、タイムマシンは二度と使えなくなってしまったんだ。だから、ワシは大阪万博を見てないんじゃよ」
「確かにそんなパビリオンは、あらへんかったなあ。それじゃ、博士は過去のお人なんですか?」
「まあ、そうなるかな」
「ほなタイムマシンだって直せるとちゃいますか? 技術は、絶対昔より進んでいるさかい修理機械だって手に入りやすいと思いますけど」
「もちろん、修理は試みたさ…………でも、タイムマシンは二度と元には戻らなかったんだ。その代わりに完成したのが、『異次元シャトル』なんだよ。今の世界に来てから、新畑社長にはずっと世話になってるんだ。『異次元シャトル』が完成した時も真っ先に社長に見せた。そしたら、社長は『異次元探偵社』を作ろうと言い出して、香子ちゃん達が集められたんだ」
「そうやったんですか……でも、なんで社長はんは、博士はんの発明を使って仕事をしよう思わはったんやろか?」
「……そりゃ、ワシにも分からんな。お伽話の世界に行ってミッションを行うのは、すべて『人類委員会』からのメールで決められているんだ。今のところ我が社で『人類委員会』と通信が出来るのは社長だけなんだ。だから、社長ならその辺、何か知ってるかもしれんが、ワシにとってはそんなことどうでもいいんだよ」
お酒が進んだせいか、博士はんは目がトロンとなりつつも、いつも以上に饒舌になってはるわ。なんかウチ、とんでもない秘密を聞いているような気がしてドキドキしてきちゃった。
「博士はんは……元の時代には帰りたないんですか?」
ウチは、恐る恐る聞いてみたの。ほしたら、博士はんは、意外に笑顔でこう答えてくれはった。
「あの頃のワシは、ただの技術進歩ばかりを目指して、発明に躍起になってたんだ。その技術が、今は便利でもその後歴史が進めばどんな弊害をもたらすかなんて全く考えていなかった。ひょっとして、地球をダメにしたのは、そんなワシの発明かもしれんて思うと時々怖くなってしまうんだよ。だから思うんだ。あの時代にワシはいるべきじゃないってね」
「……………………」
ウチは、何とも言えへんかった。ウチには、そんな難しいこと分かるわけあらへんもん。でも、ウチは、月から眺めるきれいな青い地球が大好きやった。
(つづく)
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