259 第22章第10話 ウチは、これでええんか?
「ふぁあああーー、もう、朝なんやね……。おはよう、ラビちゃん。……ん? ラビちゃん?」
またや、ここんとこラビちゃんったら、すぐ出かけるんやから、もー。行き先は、分かってるんやけど、……ま、迎えに行くのは後でええか。
まずは、朝ご飯を食べてからやし……。
「もう、ラビちゃんったら、また、食べっぱなしで行ったのね。ホントに、自分で食べたものは、自分で片付けて欲しいって言ったのにね」
食卓テーブルには、お皿とミルクのパッケージが置いてあるの。ミルクのパッケージは、注ぎ口が開けっ放しなんやけど、まだ半分以上は残っとる。
「残ったものは、冷蔵庫に仕舞ってなって言ってあるのに、ダメやね……」
ラビちゃんは、朝ご飯をパッケージミルクで済ませて、すぐに出かけるんや。時々は、フレークも混ぜて食べてるみたいなんやけど、昨日、ウチが買い忘れたんや。だから、今日は、ミルクだけ飲んで出かけたんやね。
まあ、ウチも似たような朝ご飯なんやけど。まだ、そないに料理はできんのやけど、ようやく最近食パンを焼けるようになったんや。トースターゆうのに放り込んで、スイッチを入れると、1分少々で“チン!”って鳴って、飛び出してくるんや。
後は、バターを塗るだけや。そや、この食パンとミルクがウチの朝ご飯なんや。
「……ごちそうさまでした。っと、じゃあ、今日も迎えに行きまひょか」
ウチは、ゆっくりと玄関を出て、アパートの外に付いている階段を1階に降りていったんや。そして、西側の部屋の前に来て、ちょっと耳を澄ませたんや。
ドッゴン、……バシ……カン……ドンドンドン……
はー、今日も派手にやっとるなあ~。呼び鈴を押す前に、ウチも少し体制を整えるんや。そやないと、変なとばっちりを受けるんや。
冗談やないで、この前、うっかり何の準備もせえへんで扉を開けたんや。そしたら、いきなり座布団が飛んできて、顔面に直撃や。まあ、これくらいなら平気なんやけど、その後のラビちゃんの言葉の方が、ウチには刺さってしもうたんよ。
「何ぼさっとしてんのよ、カグちゃんの手は何の為についてんの? 飛んでくる座布団ぐらい受けられないで、宇宙で生きていけると思うてんの? このポンコツは!」
だから、ウチはいつでも気を抜かんようにしてるんや。いつ、どこから座布団が飛んできても受け止めてやる! ってね。
ウチは、姿勢を低くして、呼び鈴を押した後、「お邪魔しまーーす!」って言うなり、すぐに頑貝はんの家の扉を開けたんや。もちろん、この家にラビちゃんが来てるんやから、カギなんか掛かっていないんや。
ブン~
座布団や。今日は2枚やな! ウチは、右手を伸ばしてグーで1枚の座布団の中心を撃ち抜き、すぐさまその座布団を左手で持ち、もう1枚の座布団を防いだんや。
「右! 左! 右! 左!……ほらほら、どうしたラビ!」
『フン、そんな物投げても、ワタチには当たらないわよ』
部屋の中は、あらゆる物が飛び交ってるんや。座布団だけやない、コップに茶碗、お皿に縫いぐるみ。他にも花瓶や置物、クッションに洋服なんかも飛び交ってるんや。
そうや、ここは頑貝はんの家のメインルームやと思う。と、いうのは、この部屋には生活に必要ないろんな物があるんや。せやけど、大体は柔らかい物ばかりで、壊れない物ばかりなような気がするんや。お皿やコップは、プラスチックでできているんで、多少ぶつかっても壊れはせえへん。
部屋には、ソファーもあるし、テレビもあるんや。もちろん、こまごまとした置物や本棚なんかも普通にあるんや。
部屋は、とっても広いんやね。最初、ウチのところと同じかと思ったんやけど、ウチの部屋の倍はあるんや。なんでも、頑貝はんの家は、自分でリフォームしたらしくて、ワンルームちゅうやつに変えたんやって。そういえば、この部屋にはベッドもあったんで、全部がこの部屋1つでできるみたいや。
『や! トー! エイ! まだまだよー』
頑貝はんが投げつけたいろんな物をラビちゃんは器用に躱してるんや。
「ふんっ、避けてばかりじゃ、俺には敵わないぞ!……エイッ! ヤ―!」
あ、今度は、頑貝はんは両手で物を投げたんや。微妙にずらして投げてるんで、1つを避けてももう1つに当たってしまうんや。
『ふんっ、……ハッ!……ソレ! ヤア! ホイ!』 カン、ドン、ヒュン……。
「おお、やるな~ラビ!……時間差攻撃も受けられるようになったのか」
ラビちゃんは、最初に飛んで来た物を躱すんじゃなくて、しっかり両手で受け止めて振回し、その後に飛んで来る物を次から次へと叩き飛ばしたんや。
ま、頑貝はんが投げてる物は、柔らかい物か、軽いプラスチックの物やから、飛ばされて壁に当たっても被害はないんや。ただ、音だけは、大きいんやけどな。
「ヤメーーー! もうヤメやーー。ラビちゃんも頑貝はんも、お終いやーー!」
ウチは、部屋の中央に立ち、大きな声で叫んだんや。その間、いろんな物が飛び交ってるけど、ウチも上手い具合に避けられるようになったわ。ここ、毎日、同じようなことをやってるせいやろな。
「おおー、伽供夜、来てたのか!」
『あ、カグちゃん、今日は、遅かったじゃない! ワタチ、もう疲れちゃったわよ!』
「何言ってんの? ラビちゃんが一番楽しそうにやってたやないの?」
「そうだな、ラビも随分上手くなったぞ。もう、俺が投げた物が当たらなくなったものな」
ホンマ、何が楽しくて毎日、こないな遊びをばっかりしてはって。絶対、隣近所迷惑やないんかな。
「なあ、お隣はんに怒られたりしないんか?」
「ああ、それなら心配はいらないんだ。俺の住んでる横の部屋も上の部屋も、単身でぐうたらな奴だから、家に居る時は寝てばかりなんだよ」
「せやけど、寝てるならなおさら煩いと違うか?」
「大丈夫だって、このアパート見た目より意外と防音が利いてるんだ。今まで、苦情を言われたことなんてないぜ。お前の部屋からだって、こっちの音は聞こえないだろ?」
確かに、そうかもしれんな。ウチの部屋に入ってしまったら、外の音なんかさっぱり聞こえんのや。もちろん、隣の部屋の音なんかまったく聞こえんわ。
「まあ、どうでもええけど、今日はこれでお終いや。後は、片付け始めるで……」
なんか、ウチな、毎日頑貝はんの家の片付けをしてるんや。朝早くから、ラビちゃんと暴れてるもんやから、部屋の中がぐちゃぐちゃなんや。ラビちゃんも絡んでるんで、せめてものお詫びちゅうことで、部屋の片づけ、清掃、そして頑貝はんの朝ご飯を作ってるんや。ま、朝ご飯ちゅうても、ウチが食べてるもんとさほど変わらんのやけどね。
「よし、今日も片付け終わったな。ありがとうな、伽供夜! 毎日済まないな」
「まあ、しゃーないやろ。ラビちゃんも暴れてるんやから」
『いいじゃない! ワタチとカタガイちゃんのトレーニングよ! 少しは、カグちゃんにも役に立ってるんじゃない?』
「何、ゆうてるんや。ウチなんか、掃除に片付け、後はちょっとパンが焼けるようになったぐらいやろ?」
『へえ~……すごい、進歩じゃない! カグちゃんなんか、家のことなーんもしなかったのに……』
確かに、ここ2週間ぐらいで、片付けと掃除は早うできるようになった気がするんやけど、ええんやろか? 異次元探偵社のみなはんは、ミッションに向けていろいろ頑張ってるときに、ウチが呑気に片づけなんかしとって……。
(つづく)
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