258 第22章第9話 ミッションの秒読み開始
「……カンパーイ!」
ウチの引っ越しが終わって、今日の晩御飯はみんなで会社の食堂で“ご苦労さん会”が行われたんや。美味しい蕎麦も食べたんやけど、大分お腹も減ったので、ちゃんと記誌瑠はんがご馳走も作ってくれたんや。今日は、焼肉になったんや。疲れた筋肉は、肉で修復するんやて。
「みなはん、いろいろおおきに。お陰様で、引っ越しも無事終わりました。これからもどうぞよろしゅうお願いいたします」
「何言ってんの、かぐやちゃん。当り前じゃない。仲間なんだから」
「そうじゃ、ワシらに出来ることは、何でも手伝うから、遠慮なく言ってくれよ」
「僕達のために、なんか伽供夜君を引っ越しさせたみたいで、本当に申し訳なかったね」
「別にええんですよ、社長はん。ウチも、いろいろなところに住めて嬉しいんやから」
『まあ、そうね。カグちゃんにとっては、いい機会よね。……ねえ、カタガイちゃん? 家が近くなったんだから、ワタチ達ももっと仲良くしましょうね』
「何を今更、俺とお前の仲じゃないか。……ふふっ、これから、どんどん鍛えてやるからな、覚悟しておけ!」
『ふっ、何を生意気に! ワタチに勝てると思わないでよ!』
「ラビちゃん、何をゆうとんの? 頑貝はんと張り合わんといてえな」
『いいのよ、カグちゃん。カタガイちゃんにはね、どうしても強くなって欲しいの。そのためなら、ワタチは何でもするからね』
「ははーん、ラビよ、俺がお前より弱いと思ってるのか? いつでも遊んでやるからな、お前の攻撃なんか寝てたって躱してやる……」
って、いう頑貝はんの言葉終わるか終わらんうちに、ラビちゃんがウチの腕から飛び出したんや。『きゅるるるる』っていう気合とともに、その可愛い右足を思いっきり伸ばしたまま頑貝はんのオデコに向かったんや。
バシッ!
「そのくらいじゃ、俺を倒せないぜ」と、頑貝はんは、ラビちゃんの右足を片手で受け止めたんや。
『ふんっ、今日は、引っ越しで疲れていたのよ。今度は、容赦はしないわよ!』
なんだか、ラビちゃんと頑貝はんは、とっても仲良しになったんやね。2人とも、嬉しそうに笑っとるわ。ウチも、負けないようにせなあかんな!
「まあ、まあ、徹もラビちゃんも、そんなに頑張らないで! もうすぐ、あたし達は宇宙に行けるんだからね」
「え? 香子はん、ひょっとして新しい宇宙船が完成したのか?」
「ええ、もちろんよ。ねえ、博士」
「ああ、出来たぞ! 伽供夜ちゃん、完成したんじゃ、その名も“コスモセイラ―・ブルーアース”じゃ!」
「……か、かっこええんやね~……まるで、夢に出て来る英雄が乗るヨットみたいやわ」
「博士はね、青い地球を取り戻すっていう伽供夜君の願いを舟の名前に付けたんだよ」
そっか、“青い地球”を“思いっきりヨット”で突き進めるようにってことんなんやね。
「なあ、もう、宇宙に行けるんか? いつ出発なんや?」
「それがな、これはヨットなんだけど、月の地面から空に向かって飛ぶときは、ロケットのようにエンジンを使うんじゃ。途中でエンジンが止まったら、推進力を太陽風のヨットに切り替えるんだよ」
「それでね、少なくとも最初はロケットのように、ジェットエンジンでスタートなの」
「記誌瑠はん、そいで、ロケットエンジンがまだ完成してないんか?」
「ううん。ロケットエンジンもできあがってるわ。でもね、ここは月のドームの中なの。このままロケットを発射してしまうと、ドームがめちゃくちゃになっちゃうの」
そうかあ、そういえば、この間、博士はんの飛行機に乗った時は、ドームの外側から出発したんやったわ。そのまま、飛んで月の圏内から出ようとした時、エンジンが止まったんや。
「じゃあ記誌瑠はん、どうするんや? このままでは、ブルーアースが発進できんちゅうことなんか?」
「大丈夫じゃよ、記誌瑠ちゃんや社長が、ちゃんとドームの外に発射台を作ってくれてる最中なんじゃ」
「ああ、伽供夜君、もう少し待ってほしいんだ。今僕達が、急ピッチで頑張ってるからね」
「ドームから少し離れた安全な場所にね、ブルーアースがロケット形態のまま発射できるような発射台を組み立ててるの」
「え? いつから記誌瑠はんって、そないなことができるようになったんや?」
「あはは……それはね、私が作ってるんじゃなくて、私が設計した設計図を自動建設ロボットに読み込ませているだけよ。設計の基礎知識を博君から教わるのにちょっと時間がかかっちゃただけ。もうすぐ完成だからね」
記誌瑠はんは凄いなあ。やっぱり博士はんの助手は、記誌瑠はんしかおらんなあ。
「そこでだ、みんな! ここで、重大発表をする!」
「社長はん、なんや?」
「来月の1日。つまり、9月1日を“コスモセイラ―・ブルーアース”の発進日とする。あと、3週間、みんなには準備に向けての最終準備に取り掛かって欲しい!」
あのウチの誕生日を祝ってもらってから、もうすぐ3カ月目になるんやね。
「社長、いよいよミッション開始なんですね。…………博士! ありがとう。それに、記誌瑠もよく頑張ったな!」
「何よ、頑貝君ったら、そんな真面目な顔して、照れるじゃない」
「よーし、今度は、俺が頑張る番だな!」
みんなの笑顔が一層明るくなったような気がしたんや。ウチだって、負けてられんわ。いよいよ、あの赤い地球に向かうんやな! ワクワクしてきたわ。ウチだって、宇宙でも頑張れるように、しっかり準備せなあかんな。
(つづく)
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