251 第22章第2話 近づけたくないものは
あの日から異次元探偵社はお休みになったんや。ま、お休みっていっても、会社は毎日仕事をしてたわけやないし、時々ミッション依頼があった時だけお伽噺の世界に行ってたみたいなもんやから、そないに変わりはないんやけど。
せやから、ウチらは、会社がお休みでも、思い思いに毎日を過ごしながら、時々……まあ、3日に1回?……うーん、会社に住んでる人もおるから毎日なんか?……あ、ウチは、毎日行っとったよ。なんせ、お昼に顔さえ見せれば、記誌瑠はんが美味しい昼食を作ってくれるんや。
え? 何して記誌瑠はんが会社にいるかって? そりゃ、記誌瑠はんは、会社の地下室に住んどる博士はんの手伝いをしとるのと、毎日の食事を通して博士はんの健康管理をしとるんや。ま、これは社長はんからのお願いでもあるんやけど、記誌瑠はんは博士はんといっつも一緒に居られて楽しいんやと?
「なあ、ラビちゃん、なして記誌瑠はんは、あんなに会社にいて仕事ばっかりして楽しいんやろな?」
『もー、カグちゃんは、またそんなポンコツなこと言ってんの?』
「なんやて? なしてウチがポンコツなんや?」
『あのね、記誌瑠ちゃんはね、会社に居て楽しいんじゃなくて、水野博士と一緒にいて楽しいの!』
「ああー、そうか! そういえば、記誌瑠はんは、なんや科学技術の勉強したいってゆうてたな。そっか、博士はんにいっぱい教わってて、楽しんやろな」
『ああーもうー! ホント、カグちゃんは分かってないのよね~。そこが、ポンコツなのよ!』
なんや? また、ウチ、ラビちゃんにバカにされたような気がするんやけど、よう分からんわ!
もうええわ、あんまりラビちゃんとばかり話してると、ウチはホンマにポンコツになってしまいそうや。今日は、早めに会社に顔を出して、博士はんの研究室でも覗いてこようかな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……こんにちは……博士はん? おるか?」
会社の地下室……っていっても広いんやわ。ひょっとして、会社の1階部分よりも広いんやないやろか? この地下室はほとんどが倉庫なんや。博士はんの発明品とかが、置いてあるんや。そして、その端っこに博士はんが住んでる部屋があるんや。部屋っていっても研究室やな。入り口のドアはガラス窓になってるさかいに、中の様子は丸分かりや。
今も、博士はんは、何かいじくっておるわ。
「あ! 伽供夜さん、いらっしゃい!」
「なんや? 記誌瑠はんやないか? ……あ、そっか、博士はんの研究を手伝っているんやね」
入り口のドアを開けてくれたのは、記誌瑠はんやったんや。なんか博士はんとお揃いの白衣なんか着たりして、えらい張り切っとるな。
「お! 伽供夜ちゃんじゃないか? まあ、中に入っておくれ。丁度今から休憩しようかと思っておったんじゃ。一緒に、コーヒーでも飲んでいかんか?」
「おおきに! それじゃあ、お邪魔しますな」
部屋の中は、いろんなものがいっぱいあったわ。ま、あったというか、散らかってるんやな。細かな機械みたいなものから、本やファイルなんかもあったわ。それから、何台もコンピュータが動いとるんや。
「なあ、記誌瑠はんは、ここでどんな手伝いをしてるんや?」
ウチは、出されたコーヒーに砂糖とミルクを入れてかき混ぜながら、聞いてみたんや。
「そうね……多いのは、資料の整理かな? 博士が調べたことをファイルにまとめたり、時には私が資料を探したりするのよ」
「さすが、記誌瑠はんやね。普段の経理なんかで、細かな仕事をたくさんやってるから、そういうの得意なんやろね」
『ふふふ……絶対カグちゃんならダメよね。余計、ぐちゃぐちゃになるわよ、きっと』
「何いっての、ラビちゃんったら。ウチだって、やろうと思えばお片付けぐらいできるわよ」
『へえ~そうなんや……じゃあ、自分の部屋をもう少し片付けた方がいいかもね。香子さんと共用部分は、いつも香子さんが片付けてくれるから綺麗なんだけど、さすがにカグちゃんの部屋まではね……』
あれ? なんやまたラビちゃんにポンコツって言われてるみたいやね。
「まあまあ、夢中になれば、なかなか片付かないものだよね。ワシのこの部屋だって、ほら、ご覧の通りだから……」
『ほら、カグちゃんがしっかりしないから、博士にも気を使わせてしまったわよ!』
「えええー? そんな~」
なんやウチ益々へこむわ~……。早く、話題を変えないとダメやね。
「なあ、博士はんの研究はどこまで進んだんや?」
「ああ、まあ、ようやく月を脱出する方法を見つけたぐらいかな。実際の船の建造はこれからなんだけど、なかなか進まなくてね……」
「月の脱出かあ……そういえば、月を出ようとすると飛行機のエンジンが止まってしまうやったか?」
「そうだね……」
『もう、カグちゃん、忘れたの? だから、あの宇宙の遠くにあったベスタへ行く時には、“異次元バイパス航法”っていう特別な方法を使ったじゃない』
「そうやったね。……なあ、そしたら、今回もその“異次元パイパス航法”ってのを使えば、宇宙に出られるんじゃないんか? あの“ジャックと豆の木”の世界へは自由に行けるようになったんやから、もうウチの父様に頼まなくてもいいんやろ?」
「そうなのよ、伽供夜さん。私も博君に、そのことを真っ先に提案したの!」
「それで、どうなんや?」
「それがね……ね、博君……」
「うん、ワシも記誌瑠ちゃんの提案をいい考えだと思ったんじゃ。それで、この間、すぐに試してみたんじゃよ」
「へ? もう試してみたんか?」
「確かに、異次元ジャンプで“ジャックと豆の木”の世界にはすぐ行けたんじゃよ。次は、そこからこの世界に戻るんじゃが、いくら地球の傍の座標を機械に打ち込んでも、帰ってくるのは月にあるこの会社の倉庫なんじゃ」
「ダメってことなんか?」
『博士……やっぱり、他からの圧力がかかってるってことなの?』
「そうだな、ラビちゃんの言う通りかもしれんな。確かな証拠は無いんじゃが、どうしても地球の傍の宇宙空間には出れないとゆうことかもしれんな」
「その後ね、私と博君といろいろ試したの。そしたら、やっぱりベスタなら行けるのよ。でも、あそこより地球に近い場所の座標を入力しても、すぐにリセットされて月の会社の座標になるのよ」
『そりゃあ、やっぱり、意図的よね……誰かが、監視しててデータの修正をしてるってことでしょ!』
「え? データの修正? 監視? どういうことや? ウチらって、誰かに見張られてるってことなんか?」
『決まってるじゃない。これだけ、試してるのに、月から出られない……というより、地球に近づけないってことでしょ』
「うそ! ウチらは、地球に行けないようにされてるんか?」
ウチは、また、訳が分からんことが増えたわ。ウチらが宇宙に出られないんじゃなくて、地球に近づけないんやって? なんでそないなことをする必要があるんやろ?
(つづく)
最後までお読みいただけて、とても嬉しいです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。




