240 第21章第12話 寝たままできること
「なあ、伽供夜、いいから、もう起こしちゃえよ!」
「あ! 頑貝ちゃん、無茶はいかんと思うよ」
「何が無茶なんだよ博士。どうせ、俺達はこいつを起こさなきゃならないんだぞ」
「まあ、そうなんだけどね~……物には手順ってゆうものが……」
「まあ、博士、ここは伽供夜君に任せてみようよ」
「はあ、社長がそういうなら、ワシは構わんけど……」
なんや博士はんったら、意外と臆病なんかな? いっつもあんな凄い発明をポンポン出してくれはるのに。まあ、その点、社長はんは思い切りが良くて、ウチが何やっても〔ええよ〕って言ってくれはるから安心やね。
それじゃあ、ちょっと失礼して家に上がらせてもらって……へえ~よく寝とるなあ。
「寝太郎はん! 寝太郎はん! 起きなはれ! 起きなはれって!」
ウチは、布団の上から体をゆすって見たんや。布団っていっても、なんか薄いなあ。寒くないんかな~。まあ、そないに寒い季節でもないか……表の木々も緑の葉っぱがぎょうさんやったから、やっぱりウチらの世界と同じく夏なんやろかなあ~。
「チェッ、伽供夜、ダメじゃないか。もっと、こういっぱい動かさないと!」
頑貝はんも家に入って来て、寝太郎はんをゆすったんや。
でも、寝太郎はん、ちっとも起きんかったわ。小さきイビキをかきながら気持ち良さそうに寝ておるんや。
「ふーん、これが、あの寝太郎君か」
「それにしても気持ち良さそうに寝るわね」
そのうちにみんなして、寝太郎はんの家に入って来て、様子を見出したんや。
「ねえ、みんな、寝太郎君ってずっと寝てるのよね」
「どうしたのきしるちゃん? そんなにじっと見て」
「だって、香子さん、この寝太郎君の顔とか、布団から出してる手や足を見てくださいよ」
「え? 顔や手、足? どうかした?」
「すっごい、まるまるしてて、色艶も良くて、とっても健康的ですよ!」
「なるほど、記誌瑠君は見るところが違うねえ~……そう言われれば、健康的だよね」
「おかしいじゃないですか! ずっと寝てるんですよ! 多分、運動もしないで、食事もしないで、寝てるだけだったら、すっごい不健康な体になるはずですよ!」
「そっか、自然に痩せてしまうという事なんだね、記誌瑠ちゃん!」
「まあ、痩せるというか、痩せ細るんじゃないでしょうかね」
「そうか、ワシも何もせんで、寝てればいいのかな? 最近どうも、この辺がなあ……」
「あ! 博君はダメですよ! 博君はちょっとぽっちゃりの方が可愛いんですから、変に痩せたりしないでくださいよ!」
「そ、そっかあ~……ワシ、最近ちょっとぽっちゃり過ぎかなって、ちょっと心配してたんだけど、大丈夫か?」
「大丈夫ですってば! 博君は、その方がいいんです! もっと、美味しい物たくさん作りますからね!」
「あははは……すまんね、記誌瑠ちゃん!」
「えっと、記誌瑠はん? そろそろええかな?」
「あ! 伽供夜さん、すみません、うふっ」
「そう言われれば、寝太郎はんは、ちょっと様子が変なんやろかな?」
トントントン……トントントン……
あ、誰か来たんやね。さっき言ってたおばちゃんかな?
「おー、お前さん達も来てたっぺ? なんか、差し入れでも持ってきたんか?」
「差し入れってなんや?」
「ああ、さっきのお嬢ちゃんだっぺ。そりゃ寝っちゃんの差し入れよ~。寝っちゃんだって生きてんだっぺさ。ご飯だって、オヤツだって、食うべさや」
「え? 食べるんか?」
「そしたら、食べる時は起きてるんですか?」
「おう、若いあんちゃんならそう思うかな。まあ、普通は食べる時は目を覚ますもんじゃと思うだっぺ~……でもなあ~寝ちゃんは、大事な時しか起きんのだっぺ。食べる時も便所へ行く時も、寝たままなんだっぺさ!」
「ええ! 寝たまま食べるんですか?」
頑貝はんが、びっくりしたように大声を出したんやけど、傍で寝てる寝太郎はんは、やっぱりピクリとも動かんかったんや。
すると、訪ねて来たおばちゃんが、籠から何かを出して、枕元に置いたんや。
「寝っちゃん、今日の晩御飯じゃよ。今日はな、畑でジャガイモが採れたから、美味しい天ぷらにしてやったから、いっぱい食べるだっぺ」
「おばちゃん、寝太郎はんにご飯を届けてるんか?」
「ああ、わしだけじゃなくて、ここに住んどるもんは、いっつも寝っちゃんの世話してるんだっぺ」
「世話って? ご飯だけやないんか?」
「あったりめえだっぺ。人間、ご飯だけじゃ生きられんだっぺ! 風呂にも入らんといけんし、着替えだってするだっぺよ。人間だから、時々運動もするだっぺな」
「えっと、おねえさん? 僕は、この子達の社長をやってる新畑といいます」
「おお、あんた達、何かの会社の人なんか?」
「えっと、その、僕達、この寝太郎君に用事があって来たんですが……今、聞いたら、寝ながらいろいろなことをやっているんですね。ご飯食べたり、お風呂に入ったり……」
「ああ、そうだっぺ。準備は全部、ワシら村のもんがすんだけど、寝っちゃんは、寝たまま何でもできるんだっぺよ」
「えっと……じゃあ、寝太郎君って、起きなくてもいんですね」
「いんや、この村が災難に見舞われたときはな、寝っちゃんがちゃんと目を覚まして、わしらを助けてくれるんだっぺ。だから、普段は、みんなしてこの寝っちゃんが気持ちよく寝られるように助けているんだっぺ」
その時やったわ。
布団に寝ていた寝太郎はんが、むっくりと起き上がり、黙々とオニギリを食べ始めたんや。もちろん、目をつぶったままや。
お皿にのったジャガイモ天ぷらも、まるで見えているかのように上手に箸でつまんで口に放り込んでたんや。
間違いやないんで、もう一度いうけど、目はつぶっておったんや。寝ながら食べとったんだわ。
(つづく)
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