238 第21章第10話 大型は夢?
「博士はん? 今回は、このシャトルで行くんか?」
「もちろんじゃ! どうじゃ? “シャトル・ドリーム・スリーパー”は!」
どうじゃ? って、言われてもなあ~。これ、まるっきりベッドの大きなヤツやんか? 強いて言うなら、大きなダンプカーの荷台がベッドになってるっていう感じかな~。
「大きさだけどな、どんな大男でも大丈夫なように、昔、アメリカっていう国で工事車両として使われていた“モンスター・ダンプ”を元にしてるんじゃ」
「あ、俺、それ知ってるぞ! 運転席までの高さが約8メートルあって、通常の3階建てのビルぐらいあるっていうやつだろ」
「ああ、まあ、そうなんだけど。それだと、この地下室におさまらんので、3分の1スケールしたんじゃよ」
「いやあ、それでも博士、このトラックは大きいわ! バスぐらいあるわよ」
「あははは、香子君なら十分寝れるじゃろ」
「博士~、何言っての? 前方の運転席を抜かしても、後方の寝台部分だけでも4メートル以上あるじゃない。あたしはそんなに大きくないわよ! それに寝太郎君だって、多分普通の人間よ。大男とかじゃないわよ!」
「すまん、すまん。冗談じゃって! 一度、大きなトラックを運転してみたくなってなあ~あははは……“大きなことは、いいことじゃ~”ってな!」
なんやろ? 博士はんが、いつも以上にはしゃいでおるけど。しかも、前もってこないな大きなトラック?……いや、ベッドかな?……を作ってあったんやね。何する気やったんやろ?
しかも今回のミッションって、〔寝太郎〕を起こすんやなかったけ? ベッドを持っていったら、余計にスヤスヤ寝てしまうんやないんかなあ。
「よし! いいシャトルだ。さあ、みんなこの“ドリーム・スリーパー”に乗り込むんだ!」
「「「「 了解しました。社長! 」」」」
ああ、ええんや、これで。
「みんな、所定の席に着いたか?」
それにしても、思ったより運転席は狭いかな~。やたら、後ろの寝台部分は大きいみたいやけど。まあ、別にウチらが寝るわけやあらへんからええか。どうぜ、移動ゆうても、異次元シャトルは、あっという間に目的地に着くさかいにね。
「発進!」 フンッ…………フー。
「到着!」
ほら、あっという間やったし。
「うっわー……何にもあらへん。まわり、草ばっかりやんか」
「仕方ないさ、伽供夜。お伽噺の3年寝太郎って、ただの村人で、住んでるところもホントに田舎なんだよ。だから、俺は、今回のミッション、嫌だったんだよなあ~」
「徹ったら、まだ、そんなこと言ってんの? いいじゃない、田舎って。自然が豊富で、環境がいいの。住んでる人も素朴なのよ。ねえ、懐君!」
「そうだね。子育てには最高かな。……えっと、香子君、あのね、ミッション中は……えっとね……」
「ああ、ごめんね懐君……あ、えっと社長♡」
ん? 社長はん何を気にしてるんやろ。もう、みんな、香子はんの名前呼びぐらい、慣れてしもうたんやけど。別に、ミッション中でもええんやないかなあ~。どうせ、ウチらの世界の人は誰も居ないんやからな。
「みなさん、3年寝太郎の基本情報です。……えっと、通常は、寝太郎君は、よく寝るんですけど、村に異変が起きた時だけ目を覚ますんです。それが、大抵3年おきぐらいなんですね」
「記誌瑠、その3年の間に何が起きたんだよ」
「一番有名なのは、村が日照りの被害に合い作物がとれなくなった時、目覚めた寝太郎は村の近くを流れている川をせき止めて作物に水を与えたんだって」
「へえ、そんな土木工事をしたのか?」
「あ、いいえ、寝太郎は近くの崖に行って、小さな石を転がしたらしいの。するとその石が、少し大きな石に当たって、だんだんと大きな石が転がり、川をせき止めたんだって」
「ああ、ダムができたんだな。まあ、それでも、寝太郎のお陰で村は救われたってことなんだろ?」
「そうね」
「他にはないのか?」
「しばらくして、村に大雨が降ったんだって。寝太郎は、また3年ぶりに起き出して、高い崖の上を指さしたらしいの」
「雨の音が煩くて寝てられなかったのか?」
「もー、頑貝君じゃあるまいし。……村人はね、何だか意味は分からなかったけど、みんなで崖の上に行って見たんだって」
「大雨なのに、大変だなあ~」
「まあ、それだけ寝太郎君は、村人から信頼があったっていうことなんでしょ。そしたら、川が氾濫して村がのまれてしまったそうよ」
「そりゃ、困ったな~」
「でもね、村人はみんな崖の上に居たので助かったんですって」
「お! 寝太郎のお陰ってやつか?」
「そうね、ここでも村はまた救われたの。しかも、川が氾濫した後の土地は、肥沃になって作物が良くとれるようになったそうよ」
「うっわーめでたし、めでたしじゃないか」
凄いんやね、寝太郎はんは。そうやって、3年ごとに村を救っているんや。こんな何もない草ばっかりのとこかと思ってたら、けっこう村に人もいて、そこそこ楽しく暮らしているんやね。
「そうか。だから、村人がまた困っているのに、寝太郎はんが起きんから、〔起こせ!〕っていうミッションが来たんやね」
「まあ、行ってみんことには分からないけど、その村はすぐそこにあるはずなんだ。みんな悪いけど、また、ここにシャトルは隠していくから、ここで降りてくれるかな?」
ウチらは、社長はんの指示の通り、“シャトル・ドリーム・スリーパー”から降りて、村を目指して歩いたんや。
(つづく)
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