236 第21章第8話 誰が操る?
「でもなあ~そないに凄いAIがすべての実権を握って動いているちゅうことが分かったくらいやから、博士はんならそのAIについてもだいぶ調べは進んどるのとちゃうんか?」
「もちろん、ワシもAIに潜り込んで調べてみたんだ。ところが、このAIは、AI同士で密接にネットワークが確立していたんだよ」
「は? それどういうことなんや?」
「俺にもよく分からんな。ネットワークが確立してることに何か弊害みたいのがあるのか?」
「AI? ネットワーク? すべての実権? あたしには、まったく何を言ってるかチンプンカンプンだわ」
「そうそう、香子さんの言う通り、私にも分かるように説明してくださいよ!」
「あーあ、すまんな記誌瑠ちゃん。それに、香子ちゃんは、機械関係は苦手じゃったなあ」
「あたしは、この拳で生きてきたの! コンピュータなんか、この正拳突きで一発よ!」
「あ、あ……頼むから何でも正拳打つのはやめてね、香子ちゃん。今、ちゃんと分かるように説明するからね!」
なんや香子はんは、すっごい顔して拳を腰に構えとる。腰も落ちてるし、あんなの食らったら、コンピュータでなくてもイチコロやろな。確かに、ぐちゃぐちゃ言うコンピュータなんか、あの拳で黙らせるのが一番早いかもしれんわな。
「えっとね……とにかくあの貨物船も小惑星ベスタの工場も、自分で判断して動いているんだよ。そして、その判断の元になっているのがみんな同じAIなんだ。つまり、判断基準が同じなので、連携がしやすいんじゃな。例えば、ベスタの工場で足りなくなった資源があればそれをちゃんと運んで来るし、出来た資材やエネルギーは必要な場所にちゃんと運んで行けるんだ」
「つまり、この宇宙全体を見渡して、上手く資源をやりくりし、物を作り、配給しているってわけなんやね」
「伽供夜ちゃんの言う通りなんだけど、普通はそこに営利目的というものが加わるんだ。物が売れればそれだけ儲かるからたくさん売りたくなる。でも、多すぎると安くなるので売れなくなるんだよ」
「まあ、昔の地球でもそれなりの資源はあったんだけど、そんな損得勘定が渦巻いて地球全体には上手く物が生き渡らなかったということもあったみたいだね」
「社長が言うように、人間が物を取引きする時は、どうしてもそんな感情が挟まるんだな。……ところが、今、ワシらの生活を根底で支えているこの資源を発掘したり、加工したり、配布してしるのはAIなんじゃよ。そこに、人間みたいな尊徳感情っていうものは、入っていないじゃ」
「え? やっぱり、それならそのAIって、いい奴じゃないんか?」
「そうよね、かぐやちゃんの言うように、あたしもいい奴だと思うわ」
「でもな、普通、こういうことをAIにやらせる場合、どこかで人間が監視して追加の命令をしたり、修正のプログラムを送ったりするものなんだ。そうしないと、どうしてもAIだけだと、間違ったことも今までの慣例で平気でやってしまって破綻をきたすことがあるんじゃよ」
「じゃあ、この一連のAIのネットワークも誰かが監視してるってことなの?」
「ワシは、そう思ってずっと調べているんじゃが……」
「博士はんでも、分からんのけ?」
「前にも言ったが、貨物船それぞれに搭載されているAIやベスタの工場で稼働しているAIは、すべてコピー物だということなんだ」
「うん、前にもゆうとったわ。コピーちゅうことは、オリジナルがあるちゅうことやね」
「そう、多分なんだけど、誰かがオリジナルのAIからコピーを作り出していると思うんだ」
「そうなんや。その誰かが、この世界を動かしているちゅうわけなんやね」
「博士……そのオリジナルのAIが、どこにあるのかは、分からんのか?」
「社長、それが、このコピーAIのネットワークの中には、オリジナルの影は1つも見つからないんです」
「じゃあ、オリジナルのAIは、まったく別の事をしてるってことなのか?」
「頑貝ちゃん、……それも、ワシには分からんのじゃ。何せ、無線電波が妙に防御されていて、通信っていうものが使われていないのが今の世界じゃからな。オリジナルAIを探ろうにも、まったく形跡もなにも見つからんのじゃ」
「そっか、貨物船とかで扱っている無線電波は、すべてコピーAIでネットワークが組まれているから、いくらそこを辿ってもオリジナルのAIには行けなということなんですね」
博士はんも頭を抱えとったけど、機械に詳しい頑貝はんも、もう諦めの顔をしてるんやもんなあ。
あのベスタを動かしているんは誰なんかちゅうことは、きっとオリジナルAIを辿らないと分からんのやろうけど、このままやったらまた謎が残ったままなんやわな。
いったい、どこにあるんやろ、オリジナルAIって!
ブッブー……ブッブー……ブッブー……ブッブー……
この音は、人類委員会からのメール送信音やな。また、何かミッションの依頼やろか?
(つづく)
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