230 第21章第2話 人類の分散
「なあ、博士はん、早う教えてえや! その貨物船を改修した旅客船で誰をどこへ運んでいたんや?」
「まあ、伽供夜ちゃん、その前にひとつ確認しておこうか」
「確認ってなんや?」
「あの貨物船は今、どこへ通っているかということじゃよ」
「それは、この間、貨物船の航路分析の時、社長はんが一覧表にしてくれてよね」
「じゃあ、もう一度、その時のスライドを写すよ!」
会議室には、綺麗にまとめられた貨物船の行き先が表になっているんや。
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〔貨物船の就航先一覧〕
・月面……
・火星……
・水星……
・木星の衛星エウロパ……
・木星の衛星ガニメデ……
・金星……
・アステロイドベルト周辺……
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「あ! 待ってんか? 前回無かったもんが加わっとるわ。あのアステロイドベルト周辺ってなんや?」
「んー、よく気が付いたね、伽供夜ちゃん。実は、貨物船は決まった惑星だけじゃなくて、アステロイドベルトの小さな惑星をあちこち航行しているものもあったんだよ」
「なあ、博士? アステロイドベルトって、ただの岩の欠片じゃなかったか?」
「まあ、ほとんどが頑貝ちゃんの言うように、昔の惑星が破損した残骸なんだけど、中には直径が500㎞未満のものも結構あるんだ。この前行って来たベスタなんかは約500㎞なんだけど、それ以外にもユノ(直径250㎞)、ヒギエア(直径430㎞)、エウノミア(直径250㎞)、インターアメリア(直径330㎞)っていうのもあるんだ」
「じゃあ、アステロイドベルトに住もうって思ったら住めないこともないんだな」
「うん、まあー、住むためにはやっぱりベスタみたいなところから生活に必要な資源や資材が届けられることが必要じゃと思うんだけどなあ」
『そりゃあ、ワタチ達が住んでる月だって同じじゃない。月だって、そんなにいろいろな資源がある訳じゃないし』
「そうやね、ラビちゃんが言うように、月には、空気、水、植物が無いわ。これらはすべて他から補給されていると考えるのが正解なんやね」
「私達が見て来たベスタね。空気も水も植物も、すべてあそこで作っていたものね」
「そうだな、伽供夜は植物工場のようなものも見たんだっけか?」
「うん、ちょっとやったけど、大きなドームの中に、いろんな植物が育てられとったわ」
「多分だけど、植物その物も育てていたんだと思うけど、きっと種や細胞を増やしていたんじゃないかしら」
「なんや記誌瑠はん、それじゃあ種を他の星に持って行って育てるちゅうことか?」
「ええ、だってこの月にだって植物ドームっていうのがあるじゃない。いろんな植物が植えられているわよ」
「そうやね、もともと月には植物が無いから、種を他からもってこないとダメなんやね」
「えっと、博士? それが新しく分かったことなのかな?」
「あ、いいや、社長……。今回みんなに知っておいて欲しいのは、そこじゃないんじゃよ」
『博士、そんなにもったいを付けないで、みんなに早く教えてあげましょう!』
「ん? なんや? ラビちゃんも知っとるんか?」
『もちろんじゃない! ワタチと博士の研究で分かったのよ。それぞれの貨物船の航路記録に記されていた言語記録を分析したのよ』
なんだか難しい話なんやけど、どうやら船の航行上、行き先に着いたら積み荷や使用方法などを記した書類を密かに現地にいる人に読んでもらう必要があるみたいなの。ベスタで作って運ぶのはあくまでも原材料や資材だから、現地の生活に役立てるためにはある程度の使用説明がいるみたいなんや。
ま、その使用説明書に記されている言語を調べて、そこに誰が住んでいるのかを想像したんやて。えっと、誰がというか、どんな国の人達がって、考えた方がいいのかな?
とにかく、博士はんとラビちゃんが協力して解析した結果、こんな感じになるみたい。
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〔貨物船の就航先一覧と現地住民〕
・月面……日本
・火星……ヨーロッパ
・水星……アジア・アフリカ
・木星の衛星エウロパ……中国
・木星の衛星ガニメデ……ロシア
・金星……アメリカ
・アステロイドベルト周辺……その他の国々
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ここで、アステロイドベルト周辺にも人間が住んどるっちゅうことがおっきな問題になったんや。せやから、単独行動をとりたい人や国は、交わりを避けて自分達だけで住む星を確保できたちゅうことになるらしいんや。
そうすることで、国同士の対立が避けられ、安心して生活できているみたいやね。
「そういえば、人類が地球を脱出した2025年頃って、国同士の諍いも多かったって、私が読んだ歴史書には書いてあったわ」
「まさに、その通りだよ。記誌瑠ちゃんのいうように、あの頃はたった1つしかない地球でみんなが仲良く生活できなかったんじゃないかと思うんじゃ」
水野博士はんは、何かを思い巡らせるように少し遠くを見ながら、暗い表情になったんや。
(つづく)
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