221 第20章第11話 手巻きの良さは……
ウチらの目の前にはたくさんの小鉢が並んどって、いろんな種類のお刺身が乗っとるんや。ハマチ、サーモン、エンガワ、サバ、イカ、タコ、エビ、他にもいろんなお魚の刺身があるんや。お魚の他にもウニ、イクラ、ホタテ、アワビなんかの貝類もぎょうさんあったわ。
それからな、記誌瑠はんのこさえとった、厚焼き玉子焼きやシーチキンサラダ、ツナマヨ、エビマヨ、ハンバーグやお肉の焼いたもんもあったんや。
「うっわー、こないにぎょうさん、ウチ、どれから食べたらいいか迷ってしまうわ! どれも、とっても美味しそうやわ」
「まあ、どれからでもいいんだけど、手巻きの仕方は知ってるかな?」
「はあ、そういえば、自分で巻くんやったね。どうやって、巻くんや?」
「じゃあ、ワシが手本を見せようかな。……まずな、自分の取り皿の上に四角く切った海苔を置くんじゃ」
「うん、この黒い四角いやつやね。……クンクン、あー、ええ香りがするわ」
「次に、この海苔の上にオオバを敷くんだ。まあ、好みによってはオオバは使わなくてもいいんだけど、ワシはこのオオバが好きでな。一緒に食べるとご飯にアクセントがつくんじゃ」
「ウチも敷いてみるな! この緑色の葉っぱやね」
「そして、そこにご飯を乗せるんじゃ。ご飯は、目の前の飯鉢に入っている酢飯だぞ。入れる量に決まりはないんじゃが、ワシはいろんな種類のネタを楽しみたいから、ご飯は少なめに入れるんじゃよ」
「うん、ウチも博士はんの真似をして、ちょっと少なく入れよっかな」
「さあ、次は、ネタじゃ。目の前の好きなネタをご飯の上に乗せてくれ。手巻きずしのいいところは、量も種類も自分の好きなようにしていいという事じゃ。ワシなんか、マグロにハマチを重ねて入れたり、エンガワの上にツナマヨを盛ったりするんじゃ」
「うわああ、面白そうやね。ウチは、最初にやっぱりマグロにしようかな? ん? あ、マグロっていっても、中トロとか大トロとか、いろんなのがあるんやね。小鉢の前に、記誌瑠はんが名前を書いたプレートを置いてくれとるから、とっても分かり易いわ」
「ふふ、これで、自分が何を食べたか分かるでしょ。お魚の名前を覚えるのも楽しいものヨ」
「さあ、これをこうやってクルクルっと巻いて、後は醤油をお好みでつけて食べるだけじゃ。さあ、伽供夜ちゃん、どうぞ召し上がれ!」
「うん……よし! できた。……あとは、チョンチョンっと、……ウグッ、もぐもぐ……うわあ、美味しいわ! このお醤油もちょっと甘みがあって、お寿司にとってもよく合うんやね」
「お、伽供夜ちゃん、よく分かったね。この醤油は〔昆布醤油〕っていってね、地球の根室半島でとれた昆布をお醤油で煮詰めたもので、お寿司やお刺身に合う醤油なんだよ。さっきの海鮮ドームでもらったんだけど、あそこでは昆布も育てているのでこんな醤油も作れるんじゃのう。さあ、どんどん食べてくれよ!」
ウチは、ホンマに美味しくて、次から次へと手巻き寿司を自分で作っては食べ、作っては食べたんや。
そしたら、目の前の土鍋がグツグツと音を立てたんや。大きな土鍋が、カセットガスコンロに乗っかってたんや。
「さあ、伽供夜さん、今度はお鍋ができたわよ」
そういうと、記誌瑠はんは、大きな土鍋の蓋をゆっくり持ち上げて中が見えるようにしてくれたんや。
最初は湯気で何にも見えんかったけど、だんだんと湯気が無くなり、グツグツと揺れるお汁の中にいろんなもんが入っているんが分かったんや。
そこには、大きなカニの足が何本も乗せてあったわ。まわりには、豆腐や白菜もあったわ。汁は、薄いクリーム色やったなあ。
「じゃあ、伽供夜ちゃん、このどんぶりに盛り付けるわよ」
記誌瑠はんが、お玉でスクってくれたんやけど、汁の中には白いホタテの貝柱も入っとったんや。
ウチは、まず蓮華でお汁を飲んでみたんや。
「何? この味! すっごい美味しい! カニの出汁って、こないに甘いんか? それも砂糖の甘さやないわ、まるで果物の甘さに近いんやないか? ホタテも、野菜もすっごく味が染みてるし……」
それから、ウチはカニの足を手に取り、包丁で切れ目が入っているところから専用の細長いスプーンでほじくって食べてみたんや。
「うーーーん、最高や! これが、カニの身なんやね。もう、やめられんわ」
ウチは、鍋をつつきながら、また手巻き寿司を作って、時間を忘れて夢中になって食べたんや。
もちろん、博士はんも記誌瑠はんも、おしゃべりをするのを忘れるくらい、食べるのに夢中やったわ。
(つづく)
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