219 第20章第9話 まずは血抜きから
「なあ、博士はん? お寿司のネタを作るってゆうても、この泳いどる魚をどうするんや?」
「あははは、まあ、順番に調理していこうかのう」
「博さん、こっちの機械の準備はできてるわよ」
「うん、じゃあ最初は、血抜きをしようかね」
「え? 血抜き? って、なんや?」
「うん、あのな、魚って生きてるんだよ。つまり、体中に血液が回ってるんだ。そのまま食べても、血液の味がして美味しくないんだ。だから、お刺身にする前に、魚の体から血液を抜いてしまうんだよ」
「へー、それを血抜きってゆうんか」
なかなか、お魚を美味しく食べるためには、手間がかかるんやね。どうやって、あの魚から血を抜くんやろ?
「博士はん? 血抜きってどうやるん?」
「ああ、本当は1匹ずつ吊るして、頭とか尻尾から血を抜くんだけど、時間もかかって大変なんで、……ジャアーーン、これを作ったんだ!」
「博さんの渾身の力作……速効、血抜きマシーン! よ!」
記誌瑠はんの指さしたんは、壁に付いてる取っ手やったんや。取っ手は、畳1枚ぐらいを横にした広さの扉みたいについとるんや。
記誌瑠はんが、その取っ手を引っ張ると、ちょうど人間1人ぐらいが横に寝られるカプセルが出てきたんや。
「ひょっとして、この中に血抜きする魚を入れるんか?」
「ああ、そうなんだ。まずは、このマグロを入れてみようか」
そう言って博士はんは、水槽を泳いどるマグロになにやら細長い棒を当てたんや。途端にマグロは泳ぐのをやめて、水面に浮かんできた。博士はんは、また重力調整手袋をはめて、ゆっくりとマグロをカプセルまで運んで格納したんや。
「よし、首と尻尾に包丁を入れたから、これで準備OKだ。記誌瑠ちゃん、スイッチを入れてくれ」
「了解しました、博さん!」
記誌瑠はんは、カプセルの蓋を戻してから、壁のスイッチを押したんや。すると、そんなに大きな音ではないんやけど、キュイイイイーンと、空気を抜くような高い音がしたんや。
「これはね、カプセルの中を真空にして、体から血液だけを抜き取る機械なんだよ。丁度包丁で切り目を入れたところから血液が溢れて出て来るんだ」
「そないなことができるんか?」
「まあ、ゆっくりとあちこち調整しながらだから、3分ほどかかるけど、魚の身を崩さないように余分な血液だけを抜き取るんだ。美味しく仕上がるんだぞ!」
チーン!
なんや電子レンジみたいな音やね。もう、終わったんや。記誌瑠はんが、また、取っ手をもって蓋を開けると、マグロがちょっとだけ小さくなったような感じはするけど、ほとんど形も崩れずそのままの姿で出て来たんや。
「さ、これから、マグロの解体だぞ! 伽供夜ちゃん、やってみないかい?」
「ええ? マグロの解体って、……そないなこと、できる訳ないやないか?」
「大丈夫だよ、この包丁を使ってごらん」
博士はんの手には、普通の包丁よりは少し刃が長く、ピカピカに光っとるやつが握られてたわ。でも、持ち手のところがなんやメカメカしい感じで、昔の映画にあったライトセーバーみたいな感じがしたんや。
これ、絶対博士はんの発明品やな。どないな仕掛けがあるか、想像もできんわ。
仕方ないんで、ウチはそのライトセーバーみたいな包丁を受け取り、大きなまな板にのせられたマグロの前に立って、戦いを挑もうと気合を入れたんや。
(つづく)
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