212 第20章第2話 美味しい予感
ドンドンドン……ドンドンドン……「さあ、かぐやちゃん、早く起きて! 行くわよ!」
「……ふにゃああーふぇええー? どふぉへ?……いくんにゃ?」
次の日の朝、ウチは香子はんにたたき起こされたんや。カーテン越しに入ってくる光をみると、薄明るかったんで朝なんは分かったんやけど。
いつもの香子はんやったら、休日なら昼まで絶対に起きはらへんのや。ウチかて、香子はんほどやあらへんけど、休日はいつもより寝坊してるんや。
「あたし、下で待ってるから、早くしてね! あ、それから、今日はお休みなんだから、可愛いカッコしてね!」
なんや知らんけど、ウチは香子はんに言われた通り、この間余所行き用に買ったフリル付きのワンピースドレスを着て、下に降りて行ったんや。
あ、ラビちゃんはいつもと変わらず起きんから、竹製のカゴに入れて持っていくことにしたんや。
「うん、やっぱりこのドレス良かったね。かぐやちゃんにぴったりよ。薄い緑の生地に濃い緑がところどころに線状に入ってアクセントになってる。それに、首元や肩、手頸にあるフリルはとっても可愛いわ。スカートにもところどころアクセントのフリルが入っているのがまた可愛いわ! ふふ、ラビちゃんはまだ寝てるのね」
「なあ、香子はん? こないなカッコさせて、ウチをどこに連れて行こうっていうん?」
ウチは、もともとのウチの世界におる時は、着物やったんや。せやから、あんまりスカートとかは着たことがないんや。もちろん、探偵社でミッションをやる時は、スラックスちゅうズボンを履いてるんやけど。
ま、スカートも履かんことはないんやけど、こないにヒラヒラしたのは、あんまり着ないんよね。
「えっとね……あたしが行くって言えば、あそこに決まってるじゃない!」
「あそこ? って、どこや?」
「あそこって、いえば……うっふん……決まってるじゃない! あ・た・し・の、大好きな、懐君のところ!」
「懐君? ん?」
「もう、懐って、言えば新畑懐に決まってるじゃない!」
「新畑懐? ……あ! 社長はんのことか!」
「そうよ、普段はみんな〔社長〕としか呼ばないから、名前を憶えてもらえないのよ! だから、あたしはね会社でない時は〔懐君〕って名前を呼んであげるの!」
あれ? 社長はんは、香子はんの彼氏やおまへんか? ウチが、付いて行っていいんか?
「なあ、香子はん? 香子はんと社長はんのデートに、ウチは付いていかない方がええんとちゃうか?」
「何言ってんの、かぐやちゃん、デートだなんて……うふっ、もうー……デートな訳ないじゃない。今日はね、かぐやちゃんに社長が美味しいデザートを作ってくれるんですって!」
「ウチのために、デザート? うーん、確かに社長はんは甘いものが大好物やから、自分でもよう作るっていう話しは聞いとったけど」
「そうそう、きっと美味しいわよ! それにね、いろんなのをたくさん作るから、ご飯は食べないで来てって言われてるのよ」
「へーそうなんや。それで、休日の朝から社長はんの家に行くちゅうことなんやね」
「そうよ、だからあたしなんか、昨夜の夜ごはんも少なくしたのよ!」
「だからなんやね、道理で昨夜は、香子はん、全然食べはらへんなあって思ったんや。ウチ、てっきりいつものお菓子のつまみ食いでもしてお腹へらないんとちゃうかって思ってたんや」
「やーねーかぐやちゃんったら、あたし、つまみ食いなんてしないわよ!」
「そうやね、香子はんは、つまみ食いやなくて、ガチ食いやもんね」
香子はんは笑っとったけど、なんか頬っぺたがピクピク動いとったなあ。なんでかな?
(つづく)
最後までお読みいただけて、とても嬉しいです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。




