21 第3章第7話 ミッションクリア
ドドドドドドドン! ドドドドドドドン!
「あーはいはい、今開けますよワン~……こんな朝早くから……」
「おはようございます! さあ、出発しますよ!」
「へ? あ、桃太郎さんワン?」
「あ、あのー……お猿さんは?」
「ああ、ちょっと待ってなワン……伽供夜お猿~、お前に会いたいってよ~」
「あ! え、あ、あのお猿さん、かぐやさんっていうんですか?……ウーゥフン、かぐやお猿ちゃんかあ~」
「あら、桃太郎はんウッキー。こない早よう、どうされたんですか?」
「あ、いや……えーっと、少しでも早くかぐやお猿ちゃんに会いたくてさ!」
「まあ、ウチ嬉しいですわウッキー! でも、支度がありますよって、おうちで待っていてくれはると嬉しいですわ」
「ああ、ああ、分かったよ。家で待ってるからね。……早くだよ!……急いでね!」
何やろ? 桃太郎はん、えらいウキウキしてはったけど。
「なあ、大丈夫か? あんな桃太郎で? 鬼をやっつけられるのかワン?」
「ああ、それなら大丈夫よ。昨日、私が調べたところだと、鬼が怖いという噂は、あのおじいさんとおばあさんが勝手に流した噂よ。信じてるのは、桃太郎さんだけなの」
「へ? どういうことですか? 記誌瑠はんウッキー」
「どうも、あの二人は桃太郎さんが可愛くて仕方なかったのね。少しでも危ないことはさせたくなくて、変な噂を流したの。そうすれば、桃太郎も怖がって家から離れないと思ったのね」
「まったく、ダメな親よねキジ」
「えーっと、香子キジさん、あの2人はあくまでも親じゃなくて、祖父母なのよね。とかくおじちゃんおばあちゃんって、甘いのよ」
「そっか、きしるちゃんよく調べたわねキジ」
「ま、私だって探偵社員なの。情報の収集も大切なお仕事です。……なーんて、実は、昨日鬼ヶ島にも行って来ちゃった!」
「あ~、お前、ずるいなあ~ワン。俺達が、必死であいつを説得してた時、そんな楽しい思いばっかりして」
「だってー、すっごく暇だったんだもんね。……すみませんね。ホント、すっごい楽しかったですよ~」
「ケッ、もういいよ。早くミッション片付けて帰るぞワン!」
「そうね、じゃあ、予定通り進めるわよキジ、ちょっとかぐやお猿ちゃんには頑張ってもらうけど」
「はいな、お任せくださいウッキー」
ウチらは、早速桃太郎はんの家まで迎えに行ったんや。頭に鉢巻を絞めて、手甲や脚絆を身に付け、少し厚い生地で作った防具を着た桃太郎はんは、嬉しそうに家から飛び出してきたんや。
型通りおじいさんとおばあさんの励ましを受けた後、「行って来ます」って、元気に返事しっとったわ。お供には、黍団子をあげた頑貝犬はん、香子キジはん、それにウチの三匹や。
ホンマは、旅の途中で一匹ずつ家来にするんやけど、今更細かいことはええやん、な。なんせ、桃太郎はんが鬼ヶ島に行けばええんやから!
「もーも太郎はん、桃太郎はん、後ろはウチらがしっかり守りますさかいに、あなたは前から来る鬼に気を付けてくだはいねウッキー」
「あー、分かったよかぐやお猿ちゃん! 前は、僕に任せてね!」
「うっわー、頼もしいわ~、桃太郎はん!……後ろは気にしなくても大丈夫、前だけをお願いしますねウッキー」
「ふぁ~い、嬉しいな~かぐやお猿ちゃんに頼られてる~」
この辺でええやん? 記誌瑠はんが本当の家来はん達を見つけてきたんや。犬はん、キジはん、お猿はんや。気持ち良く歩いている桃太郎はんの列に静かに近づき、ウチらとと交代したんや。
もちろん本物の家来はん達には、黍団子の他に美味しいミタラシ団子も特別報酬として渡したんや。犬はんもキジはんもお猿はんも喜んで協力してくれたんや。
ウチらは、静かに桃太郎はんの行列から離れて、静かに手を振って見送ったんや。桃太郎はんは、まったく気づかず、大きな声で歌を歌いながら手を大きく振ってずっと歩いて行ってしまいよったわ。
「さ、あたし達もミッション終了ヨ。帰るわよキジ!」
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「懐社長、今戻りました。ミッションはクリアです!」
「お帰り、お疲れ様だったね、香子君。それで、桃太郎は無事鬼ヶ島に行ったのかね?」
「はい、何とか三匹の家来と一緒に……」
「良かった良かった。君達が怖い鬼にも会わずに済んで」
「新畑社長、それが……」
「ん? 記誌瑠君、どうしたんだい?」
「えー、その鬼ヶ島って…………」
「何か歯切れが悪いな~。そうだ、歴史全集が修正されたんじゃないか? 読んでみてるか?」
「あ、はい……」
記誌瑠はんが、『地球歴史記録全集』を引っ張り出して、桃太郎のページを探したんや。そして、丁度お話の最後の辺りを見つけて声を出して読んでくれはったわ。
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……桃太郎は、鬼ヶ島の上陸直前で、後ろを振り向いた途端血相を変えて怒り狂ったように鬼ヶ島に飛び込んで行きました。そこで、桃太郎は何かの悲しみを振り払うようにアクションマシンを次から次へと乗り回しました。そして、とうとう桃太郎は、鬼ヶ島にあるすべてのアクションマシンを制覇しました。そこで、帰る時には、青鬼園長から豪華な制覇記念のお土産をたくさんもらうことができました。桃太郎は、たくさんのお土産を持ち帰り、おじいさんとおばあさんと楽しく暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。
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「え?……アクションマシン?」
「なあ、記誌瑠、お前昨日鬼ヶ島に行って来たって言ってたよな。鬼ヶ島には何があったんだ?」
「えっとですね……実は鬼ヶ島って、鬼達が島をレジャーランドに作り替えていて、外国からもたくさんのお客さんがやって来ていましたよ。ジェットコースターやゴーカート、それにバンジージャンプなど、もの凄くたくさんのアトラクションが用意されてるんです。なんか、大儲けしてるみたいでしたね」
「はー、だからお前、鬼ヶ島が楽しかったって言ってたのか!」
「えへへへ、調査ですから、一日券を買いまして……いやーあのジェットコースターは、何度乗っても楽しかったです」
「あれーー、そんな楽しいことがあったんなら、僕も行けば良かったなあ~」
「ね、懐社長、今度はサボらないで一緒に行きましょうね!」
「ああ、香子君、そうするよ。……それと、記誌瑠君、そのレジャーランドについては歴史全集から消しておいてね。ちょっとそれはオフレコにするから、みんなも内緒だよ!」
なんや、ミッションは上手くいったんやけど、新たな秘密も分かっちゃったな。それにしても、今回のミッションもけっこう面白かったなあ。ウチ、こういうの大好きや!
(第3章 完 ・ 物語はつづく)
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