208 第19章第11話 あきらめない気持ち
黙ってウサギはんを見つめてるカメはんを見て、ウチはなんだか自分を見てるみたいな気がしたんや。
カメはんやって頑張ってるけど、どうしてもウサギはんには敵わない。これは、生まれながらのフィジカルの問題もあるやろ。それに、精神力かてウサギはんは並大抵やあらへん。
そして、勝負に臨んでも、優しく、公平で、気も遣ってくれるウサギはんは、カメはんにしたら絶対に勝てん相手なんやと思うねん。…………だからや…………だから……あきらめてしまうんや……。
ウチには分かるんや…………。だって、ウチも……イヤウチらもあきらめそうになっているんやから。
ウチらは、さっきまで会社の会議室で話し合いをしてたんや。アステロイドベルトにある小惑星ベスタが、いろんなところから資源をかき集めて、ウチらの生活に必要な原材料を作って届けていることが分かったんや。
そのことから、ひょっとしてウチら日本人以外にも、この宇宙で生き延びている人間がいることも予想できたんや。
せやから、誰かがウチらのためにベスタを使って凄いことをしてくれとるちゅうことで、ええんやないかと。もう人が住めんようになった赤い地球のことは、あきらめてもええんとちゃうか? って、なってたんや。
ウチがそんなことを考えておると、ウサギはんが傍に来てカメはんを覗き込んで、声を掛けたんや。
「ねえ、カメ君……。君は、勝ちたかったんじゃないの? 私と競走することで、マイペースで地道な、そしてあまり目立たないカメ君でも、苦手な競走で勝てるって、示したかったんじゃないの?」
「……そりゃ、僕だって、いろいろ頑張っていたんだ。だから、1軍に上がった時にヒットを打って、僕の存在を監督に示したかったんだよ!」
「私だって同じだよ! 同期のカメ君が、凄いってことはよく知ってるさ。だから、僕は全力で君に戦いを挑んでいるんだ。きっと君は、そんな僕の球を打ち返すって信じてね。だって、フニャフニャな僕の球を打っても、君の手柄にはならないだろ!」
「……そうだったのか。だから、ウサギ君は、いつも全力だったんだね。試合の時だけじゃなく、体調を整えるために普段の生活までも気にしてくれていたんだ、僕のために……」
「何を言ってるんだい、当り前じゃないか! 私と君は、永遠のライバルじゃないか!」
「ウサギ君……」
「カメ君……」
なんか知らんけど、2人の競走のことやろな。違うスポーツに例えてるようにも聞こえるけど、それだけ2人はお互いを思いやってたとゆうことなんやろな。最後は、2人で抱き合って、涙を流しとるわ。
いつの間にか、社長はん達もみんな集まって来とったわ。え? みんなも泣いとるん?
せやけど、ウチは考えたんや。あきらめたらいかん! どんなことでも、あきらめたら試合は終わってしまうんや! 初志貫徹、願いを実現させるまでは、倒れたらいかんのや。……ん~なんかスポ根ドラマみたいになってきよったな。
ここは、ウチがひと肌脱がんといかんな。ウチが、カメはんの臨時コーチになったるさかいに、もう一勝負しようや!
「な、ええやろ? 社長はん」
「うん、うん、構わないよ、伽供夜君の思い通りにやってごらん。みんなもいいだろ?」
「もちろんだわ、あたしも協力するから何でも言ってよね」
「俺だって、ノックでも、バッティングピッチャーでも何でもやるぞ!」
「えっと、頑貝君、ちょっと違うような気もするけど……私は、体にいいおやつでも作ろうかしら」
『ワタチは、ウサギだから、やっぱりウサギさんを応援するわよ! いいわね、カグちゃん?』
「もちろん、ええよ! そのかわり、試合が終わるまで、ラビちゃんとは一緒に居ない方がいいわよね。情報戦っていうのもあるし」
『分かったわ、ワタチ、ウサギさんのセコンドに付くから、……さ、ウサギさん、一緒に頑張りましょう!』
ラビちゃん、首からタオルをかけて、ちょっと前歯を出しながら、腹巻も撒いてる。なんか、ラビちゃんも違うスポーツを目指してるような気がするけど……ま、いいか。
「博士はん、頼みがあるんよ。ちょっとコースの整備をお願いしてもええやろか?」
「お、伽供夜ちゃん、任せてもらって大丈夫だぞ、何でもやるからな」
「じゃあ、社長はんはスターターお願いします。香子はんと頑貝はんは、コースの途中に配置して、ウサギはんの様子を本部に知らせてや。記誌瑠はんは……あ、さっきのやつ頼むわ」
「よし、分かった。僕のスタートの合図で試合開始だね。……そうだな、1時間後の発走でいいかな?」
「分かったわ、博士はん、じゃ、それまでにコースを……★!?■〇△♪#&$@~&%#▼◇……で、おねがいね」
「カメはん、それじゃ、1時間後に夢を見ようじゃない! いい、あたしに任せてね!」
「うん、僕、頑張るよ!」
それから、ウチとカメはんは、みっちり打合せをして、密かに陰で練習を積み重ねたんや。
(つづく)
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