204 第19章第7話 田舎の風景で……
「うっわーー、カワイイーーやん、なんやこのシャトルは? まるで、ラビちゃんやんか!」
「どうだい? この〔シャトル・ラビット号〕は!」
『あんねえ~……確かにワタチにそっくりなんだけど、ワタチはこんなに大きくはないのよ!』
「あははは……そこはカンベンしておくれよ、ラビちゃん。なんせ、今回は兎と亀の世界だから、できるだけ彼らをびっくりさせないようにと思って考えたんだからさ」
「まあ、えらい大きいことは大きいけど……遠くから見たら、ただの兎に見えなくもないんやけど……」
どうせ、あんまり動物が近寄らない遠くに隠すんやろうから、普通のシャトルでも良かったんとちゃうんかなあ~。
「さあ、みんな、このシャトル・ラビット号で、亀を勝たせるために出発するぞーーー!」
「「「「「 おーー! 」」」」」
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いつものように異次元世界にはあっという間に着くんやね。あたり一面田舎の風景や。山があって、草原があって、……人なんか住んどるようには見えんな。ほんに、兎と亀が、日がなのんびりと競走でもしてみよか? っていう世界やね。
「……たぶん、兎と亀の競走のコースって、あの林の向こうだと思うんだ。な、ラビちゃん?」
『そうね……ここから800メートル先ってとこかしら……えーっと、あのお地蔵さんのあるところがスタートで……えーっと、丘を越えて、あの山の麓のあたりにある祠がゴールだと思うのよね』
「え? ラビちゃん、そないな遠いとこまで見えるんか?」
『まさか、カグちゃん……いくらワタチが何でもできるからって、そんなに遠くは見えないわよ。……これよ、これ!』
あ! ラビちゃん、しっかり地図を持っとるんやん! えーー、いつの間にこないな地図を手に入れたんやろ?
『ふふふ、ワタチはね、これでもウサギなの! 兎の生活範囲の地図なんか、基本中の基本よ!』
「ほへーーー……さすがラビちゃんやね! ホンマ、頼りになりますな!」
ウチらは、とりあえずシャトル・ラビット号を林に中に隠して、みんなで兎と亀の競走コースを目指して歩いたんや。
「ねえ、徹? あんた、アレ、持ってきた?」
「ん? アレか? ……俺は、会社を出る前に済ませたから、今は持ってないぞ!」
「なーんだ。……ねえ、きしるちゃん? スプレー持ってる?」
「ごめんなさい、香子さん。私、スプレーじゃなくて貼る奴を使ってるの……」
「そっか……ねえ、社長は? 持って来た?」
「すまん、さっき、シャトルから降りる時に使ったら、最後だったんだ。もう、空気も出ないわ」
「もー、こんな時に限って……この草原、絶対いるわよね。あー、どうしよう。うっかり、虫よけスプレーして来るの忘れたのよ。ねえ、かぐやちゃんは大丈夫なの?」
「なんのことや? 虫よけって?」
「あのね、こういう田舎の草むらって、やぶ蚊が飛んでるのよ。放っておくと、あちこち刺されてしまうの!」
「え? 刺されるって? そないに危ない虫がおるんか?」
「あはははは、伽供夜ちゃん、危ないって……まあ、刺されても、ちょっと痒くなるだけだから、大丈夫だよ」
「何言ってんの博士、このあたしの可愛い顔を刺されて、痒くなるだけじゃなくて、腫れあがったらどうするの? お嫁に行けなくなるじゃない!」
「大丈夫だよ、香子君。……君は、やぶ蚊に刺されても美しいから、ちゃんとお嫁にいけるさ」
「社長……? 本当に……大丈夫?……」
「大丈夫だよ……ちゃんと僕がいるじゃないか……」
「ふふふふ……社長ったら、もう……」
えっと、何やっとんのや、香子はんと社長はん?……ウチだって、そのやぶ蚊を避けるスプレーとかしてないんやけど……。
「あのー、みなさん? そんなにお困りでしたら、コレを塗ってみませんか?」
ウチらは、急に声を掛けられてびっくりしたんや。声は、可愛いきれいな声やったけど、どこから話しかけられてるか、分からんかったんや。ウチが、キョロキョロあたりを見回していると……「ここですよ、ここですよ」と、足元から声が聞こえたんや。
「え? 今、喋ったんは、あんたか?」
「はい、私が、この村で生活させてもらっている、兎のウサギです。」
「へ? 兎のウサギ? って、そのままやんか」
「あのー、これはヨモギの葉をすりつぶして、その液体を抽出したものです。肌に塗ると、やぶ蚊が嫌がる匂いを出すので、刺されにくくなりますよ」
「そ、そうなんや……」
「ねえ、それ、あたしにもらえるかな?」
「か、香子はん、だ、大丈夫か?」
「ああ、伽供夜ちゃん、そのウサギちゃんの言ってることは、確かだぞ。ヨモギには、とっても強い匂いを含むシオネールという成分が含まれているんだ。そのシオネールは、やぶ蚊がとっても嫌がるんだよ」
「はー……博士はんが、そういうんなら、間違いないんやね……」
「それにしても、物凄い賢いウサギちゃんだのう」
「俺だって、そんなこと知らないぜ!」
「ひょっとして……君は、亀さんと競走するっていう兎さんかね?」
社長はんは、ウサギはんの前に膝をついて顔を覗き込むようにして訪ねたんや。なんか、小さな子供に合わせて話をするような格好になってるわ。
すると、ウサギはんも、まっすぐ社長はんの方を向いて、丁寧に頭を下げて挨拶をしてから、ゆっくりと丁寧な言葉でしゃべり出したんや。
「そうです、私が亀さんと毎日競走している兎のウサギです。どうぞ、よろしくお願いいたします……はあーーー……」
なんやウサギはん、最後にため息なんかついて、少し元気がないみたいやね。
「なあ、どうしたんや? ウサギはん? 困ったことでもあるんか?」
「はあーー、それが……今日も、亀のカメさんと競走をしまして…………私が勝ってしまったんですよ……はあーー……」
(つづく)
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