201 第19章第4話 広い……世界
「……うーん、やっぱりウチには分からへんわ!」
ちょっと横目で頑貝はんに助けを求めようとしたんやけど、頑貝はんも黙って目をつぶって考えとったわ。正面にいる記誌瑠はんなんか、もうキョロキョロしてはるだけやし、香子はんなんか最初から考えるのやめとるような感じやもん。
「あはははは……ちょっと難しかったかな? じゃあ、伽供夜ちゃんは、あの後、港の奥へも潜入して工場の様子も見たんだよね」
「うん、見たんや。大きな工場でな、どっかからもって来た採掘した土砂みたいなもんを、いろんな金属の材料に加工しとったわ」
「そうだね、伽供夜ちゃんと頑貝ちゃんの持って来てくれたデータを分析すると、実に様々な物が作られてたんだよ。工場はね、伽供夜ちゃん達が進入した場所だけでなく、他にもたくさん、……ま、この小惑星全体の地下が工場みたいなもんだったんだ」
「へえー、そうなんや。ウチらは、鉄や硫酸塩も見たし、それに酸素や水をつくる大きな機械も作ってはったわ。……他には、どないなもんを作っているんや?」
「そうだね、データを分析しただけだけど……金、銀、銅など金属はほぼすべて作られてたよ。特に、地球では希少金属と言われる『レアメタル』ようなものもけっこうたくさんあったなあ。他にも人間の生存に必要な窒素、酸素、二酸化炭素、マンガン、石油に石炭、水素にメタン、ヘリウムガスなどあらゆる液体や気体も作られているみたいだなあ。驚いたのは、木材や植物の種子なんかも加工されていたんだよ」
「凄いやん、こんだけあれば人間は、何不自由なく生きていけるとちゃうんか?」
「まあ、すべては製品じゃなく、原材料という形なので、人間が使うためには、もうひと加工が必要なんじゃが……思い出してくれんか、月の様子を……」
「あ! 博士、月のドームの中に工場ドームっていうのがあるぞ! 俺、あそこも調べたことがあるんだけど、様々な製品……例えば、家具を作ったり、洋服を作ったり、家庭電化製品を作っているんだよ」
「それなら、あたしも知ってるわ。ドームの中には、園芸ドームっていうのがあって、新鮮な野菜や果物、お米なんかが栽培されているのよ」
「私は、燃料ドームっていうのを知ってるわ。石油やガソリンだけじゃなく、燃料水素や家庭用プロパンガスなんかを製造してるの」
「そうじゃ、だがな……いずれも原材料をどこからもってきているかは知らされておらんのじゃ。あれだけの製品を作るドームだけど、月にはそんなにたくさんの種類の資源は無いはずじゃ」
「待って、博士はん……ウチらが見た貨物船の中には、あのベスタの工場で作った原材料を積んでたものもあったんよ! ひょっとして、この月にも、あの原材料が来てるってことなんけ?」
「ああ、そうだ。多分間違いないはずじゃ。ワシらが、こうやって何不自由なく生活できるんは、あのベスタの工場があるお陰だと思うんじゃ」
確かにウチはおかしいとは思ったんや。この月で……月って何にも無いのが普通や! せやけど、ウチが来た月は、いろんな物があったんや。食べものだっていっぱい種類があったんや。絶対、月では取れない果物や野菜がぎょうさん食べれたんや。ウチは、嬉しかったんやけど、よく考えるとなんや怖いかもしれんて思うたんや。
「そうか……博士は、あのベスタがそんな役割を持っているって分かったんだな」
「確かに、宇宙は広いから、いろんな資源も集めようと思ったら、できるわよね」
「そうだな、香子が言うように、宇宙のあちこち……そう、さっきの宇宙地図で博士が印をつけた場所から、資源をベスタに集めていたんだな」
「なあ、頑貝はん? ちょっと待ってや? 確かに宇宙のあちこちから資源を集めてたんやということは分かったんや……せやけど、なんで、また……そこへ原材料に加工したものを運んでいくんや? 月へもって来るんは、ウチらがいるからやけど……他は?」
ウチらが貨物船を調べても分かったことは、ちゃんと原材料も同じ場所に運ばれているということやったわ。博士はんの宇宙地図でも、貨物船は来た場所へ戻って行ってたんや。
「……うん、そうだね。……伽供夜ちゃんの言う通り、月には生活のために原材料を必要としている人間がいるからね……運ばれて来るんだよ。……だから……他の場所にも……例えば、木星の衛星とか火星とかにも、その原材料を必要としている人間がいるということなんだ!」
「……………………」
ウチらは、一瞬言葉が出なかったんや。確かに100年前、人類は地球を脱出したそうや。せやけど、月にたどり着いたんは日本人だけやったんやって。それ以来、日本人は、日本人だけで生活してきたんや。他の国の人達のことは、一切分からんようなってしまったんやて。
せやけど、今、ウチらは、はっきりと他の国の人達が生きてるって思うたんや。
(つづく)
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