199 第19章第2話 会議室で……
ウチらは、社長はんについて3階に上がったんや。あったわ! 社長の部屋っていうか社長宅の入り口の横に、大きく〔会議室〕っていうプレートがドアに付いてるわ。
「社長、ここを使うのも久しぶりですね」
「ああ、徹君がウチの会社に入った頃はよく使っていたからね」
「そうじゃな、ワシら男3人で会議をするのも楽しかったなあ~」
「そうそう、あの大画面のモニターは、良かったなあ~」
「そういえば、あたしが入社してからは、ここ使ってないんじゃない?」
「私も入ったことがないわ」
「あ! あんた達男だけで、その大画面で何見てたのよ……え?」
「な、何、言ってんだよ、香子。俺達は、単なる現場の写真をだな、大きな画面で見てただけだからな!」
「ふーん……いいわよ。どうせ、後で社長に聞いてみるから……ね、社長(^_-)」
「…………(^^;)」
なんのことやろ? ウチにはよう分からんけど、とにかくこの会議室は最近使われてなかったんやね。まあ、ウチだけでなく、香子はんや記誌瑠はんも使ったことなかったってのは、驚きやけど。
「うっわー、広い部屋なのね~」
「ああ、ここは、宴会場でいうなら20畳ぐらいはあるかな」
「徹は、やっぱり詳しいのね……ふふーん」
「うるさいよ、香子は。ここはな、壁や天井、床にだっていろんな機械が埋め込まれているんだよ」
「さあ、みんな好きなところに座っていいよ」
社長はんが、示してくれた座席は、ちょうど部屋の真ん中あたりに楕円形に囲まれているテーブルやったんや。事務室にある殺風景な事務机とは違って、作り置きの楕円形の綺麗なテーブルやったわ。表面は木目調なんやけど、手触りは木やあらへんなあ。多分、これは軟質プラスティックっていうやつやないやろか?
『ワタチ、この机、好きよ。だって、寝そべっても冷たくないのよね。石でも金属でもないところがいいわ』
「確かに、表面は硬いんやけど、拳骨で叩いても痛くないんや。柔らかい訳やないのに不思議やね」
「ああ、これはな、ワシが開発したもので、固いっていうプラスティックの特性を変化させて、表面のみ薄いゴムのようにしたんじゃよ。これだと、机としても使いやすいんだ」
「へえーー。……あれ? 椅子もすっごく座りやすいやん」
「そうね、この椅子、キャスターが付いてないのに、前後左右に微妙に動くわ」
「あ! この座面の下を見てください! 支えの軸が太いゴム状の柱になってるみたい!」
「お! さすが、記誌瑠ちゃん。よく気が付いたのう。大抵、こういう机にはキャスター付きの椅子が備わってるもんなんだけど、そんなに椅子を動かす必要は無いんじゃよ。だって、ここは会議以外では使わないんじゃからな。だから、椅子も固定にしたんじゃ。ただし、座る人の加減も考慮して、多少は動く設計にしたので、体には優しいはずじゃ」
「ふふっ、そうね……座面もクッションが利いてるし、背もたれも角度が自由にできるわ……これだったら、長時間の視聴にも耐えられるもんね……ふふっ」
「あ! まあ、そうなんじゃが……(^^;)…………」
「う、ううん、おっほん! それじゃあ、みんな座ったかな?」
楕円形のテーブルなんで、やっぱり片一方の頂点には社長はんが座ったんや。そして、その両側に、ウチとラビちゃんと頑貝はん、その向かい側に香子はんと博士はんと記誌瑠はんが座ったんや。
あ、そうや。この部屋には窓は無いねん。さっきも言ったけど、壁も天井も床もいろんな機械が埋まってるそうや。でも、今はなんも見えへん。綺麗な明るいアイボリーの壁と薄いブルーの天井。天井には一面にLEDライトが埋まってるわ。
床は、グレーとブラウンの市松模様のタイルカーペット敷になってて、土足のまま上がれるの。だって、今まで事務所とかは入り口で靴を脱ぐ土足厳禁やったから、なんか新鮮な気がするわ。
まあ、というのもここは3階で、すぐに出動できるように部屋の角には地下倉庫への直通エレベーターがあるんや。はー、だからすぐに動けるように土足なんやね。
「じゃあ、いいかな。みんながベスタで集めてきたデータを机に付いているジャックに繋いでくれるかな?」
なんや? 机って、何もない平らなもんやったはず? って、思っていたら、ちょうど各自の右前あたりが盛り上がってきて、ウチらが記録をコピーしてきたデータ機器の転送コードの差し込み口が表れたんや。
社長はんに言われた通り、ウチらは各自のデータ機器のコードを机のジャックに差し込んだんや。
「それじゃあ、これからワシがすべてのデータを総合して、分析コンピュータに掛けるから、ちょっとだけ待っててな」
博士はんは、そういうとこれまた博士はんのテーブルの上に飛び出してきたキーボードを叩き出したんや。もちろん、キーボードの少し奥側には14インチ程度のモニターも飛び出してきたんや。
結構待たされるんかなあと思うたんやけど、なんや30秒も経たんうちに、「よし、できた!」っていう博士はんの声が聞こえたんや。
「それじゃあ、小惑星ベスタに隠された秘密を確認していくよ。みんな、あそこのモニタービジョンを注視してくれるかな」
ちょうど社長はんの座った場所から正面、ウチからは右側、香子はん達からは左側のあたる壁から巨大なモニタービジョンが迫出してきたんや。
ああ、これが、さっき頑貝はん達が言ってた大型モニターなんやね。まるで、映画館みたいや。
部屋の照明の明るさが幾分落とされたんや。暗くはならへんので手元は明るいけど、よりモニタービジョンは見やすくなったような気がするわ。
そこに映し出されたのは、あの小惑星ベスタの姿やった。真っ暗な宇宙。あちこちに浮かぶアステロイドベルトを構成する惑星の残骸。そして、中央に写される楕円形の大きな岩の塊……あれは、まさに小惑星ベスタなんや。
(つづく)
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