19 第3章第5話 正義の使者?
「ふへぇー……ふへぇー……ふへぇー……も、も、もう、ダメ~……」
「はいっ、もうよろしおま! モモはん、よう頑張りはりましたなあ~。えらい気張りよって、どうですか?」
「ど、どうも、何も、もう僕は立てませんよーー」
「何ゆうてはりまんの? お隣を見てみなはれ。頑貝犬はんなんか、当に伸びてしもうとりますねんウッキー。…………頑貝犬はん? 頑貝犬はん?」
「・ ・ ・(X﹏X)……」
「ほらね! せやさかい、モモはんは強うなりましたよウッキー。だから、鬼と戦っても十分勝てますさかい、一緒に鬼ヶ島に行きましょう?」
「…………………………」
「どうしたん? もう、強うなってるか大丈夫ですわウッキー……」
「……いや、僕は強くなっても戦うのは、イヤなんだよ」
「なんでですか? ウッキー」
「だって、戦うって、とっても大変じゃないか。いくら僕が強くて勝っても、何もいいことは無いんだよ。相手がヤラレルのを見たって、僕はちっとも楽しくないんだ!」
なんや、桃太郎はん、おかしなところで正義感出しよるなあ~。
はっ! で、でも……そうや、鬼やからって、無暗にやっつけていいもんやないわな。きっと鬼ヶ島の鬼はんの中にも、まっとうな鬼がいはるかもしれへんのや。
「そ、そう……なんや。ううっ、ウチが間違うとりましたわ。……強うなって、ただ相手をやっつければええってもんやおまへんえ。あの暴れん坊さんだって、悪い奴でも峰打ちにしてはりましたもんね。うううっ……ウッキー」
「おいおい、伽供夜お猿! 何泣いてんだワン。また、お前、すっごい昔の時代劇見てんだろ? 香子キジ、あんまり昔のテレビばっかり見せんなよワン。それによ、峰打ちしても御庭番がちゃんと成敗してんだぜ!」
「何よ、いいじゃないキジ。細かいことはいいのよ! かぐやちゃんは好きで見てんだから、放っておいてヨ。今週は時代劇週間なの! そんなこと言ってたら、桜吹雪だって飛ぶんだからね!」
「あーはいはい。…………なあ、桃太郎。楽しいことは無いって言ってたけど、そうでもないんだぜ? 鬼ヶ島に行ったら楽しいことはあるんだワン!」
「……え? 何か楽しいことがあるの?」
「そりゃあ、オメエ、鬼ヶ島だぞワン!……あるに決まってるだワン! 鬼達の宝物がわんさかとあるんだ。鬼をやっつければ、その宝物をいっぱい持って帰ってこれるんだワン!」
なんやね、頑貝犬はん、なんだかスッゴイ悪い顔してはるわ。
「ダメダメダメ……そんなことしたら、ぜーーーたいにダメ! それ、泥棒だよ! いや強盗になるよ! 僕、お巡りさんに捕まっちゃうよ! それにせっかく集めた宝物を取っちゃったら、鬼さん達が困るじゃない!」
「へ? 鬼が困る? おいおいおい……」
ほーら、言わないこっちゃない。桃太郎はんは、正義の人なんや! あんな悪いことを教えても逆効果なんよ、もー頑貝犬はんったら!
「あーー、はいはい。徹犬は、あっちへ行って、行って!……よしよし、モモちゃん。あたしは、そんな悪いことしませんよ~キジ」
「ホント?……キジさんは、いいキジさんなの?」
「そうですよ~あたし達は、単にあなたから黍団子をもらいたかっただけなのキジ!」
「黍団子?」
「そうよ、あの、美味しい~美味しい~黍団子よ!」
「美味しい?」
「あたし達は、あなたの家来にならないと美味しい黍団子をもらえないのキジ! だから、モモちゃんの家来にしてくださいなキジ。そして、一緒に鬼ヶ島に行きましょうキジ!」
「うーん……いいけど……」
「え? いいの? やったー!」
「ああ、黍団子はいくらでもあげるよ。おばあちゃんに言えば、いつでも作ってくれるからね。……僕の分もあげるよ」
「わあーーい、黍団子もらったー…………って、おいおいおい! 僕の分も?」
「うん、全部あげるよ」
「また、どうしてそんな投げやりな言い方するキジ?」
「だって、黍団子って、美味しくないんだもん! 小さい頃は、あれしかなかったから、仕方なく食べてたけど、今は隣町で売ってるシュークリームの方が好きなんだ!」
「おーおーモモちゃん、いつでも買って来てやるから、そろそろ家にお入りよ」
「うん、おばあちゃん。もう、日も沈むし、僕、家に入るから、今度はシュークリームだけじゃなくて、チョコレートクレープも買って来てヨ」
「おーおー、分かったよ。甘―いのいっぱい買ってきてあげるからの~」
あれ~、やっぱりあのおばあはん、めちゃくちゃ桃太郎はんを甘やかしてはる。まあ、年とって出来た子やし、一人っ子やもんな~。そういえば、ウチも月では甘やかされてたんやろか?
香子キジはんの黍団子計画もダメやったわ。これから、どうするんやろ?
「香子キジはん! 香子キジはん! ……しっかりしとくれやす!」
「……あ! かぐやお猿ちゃん、……あたしの計画もダメだったわ」
「ほーら見ろ、やっぱり何をやってもダメなんだよワン! あいつにゃ、鬼と戦う気力ってもんが無いんだワン!」
「何やろなあ~……どうしてもウチには、正義感たっぷりのええ青年に見えるやけどウッキー」
「ま、仕方無いわ、今日は日も暮れかけてきたので、続きは明日にしましょ。各自休憩をとって、夜は『キジウィング』で寝ることにするわ」
「「「了解!」」」
(つづく)
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