18 第3章第4話 鍛えろ体!
「うへええええええーーーん、とにかく許して~」
押し入れから引っ張り出された桃太郎はん、頭を抱えて丸まって泣いちょるわ。あれが、ホンマに鬼をやっつける桃太郎はんなんやろか?
「別に泣かなくてもいいだワン!」
「そうよ、あたし達は、あなたの家来に成りたくてやってきたキジ!」
「ウッキー、早うみんなで鬼ヶ島に行こうや!」
「ヤダヨ! 鬼ヶ島なんて! あんな恐ろしい鬼がいっぱい居るとこなんか行きたくないよ!」
「おーよしよし、そんなに泣かなくてもいいんだよ~。別にわしらは、今の生活で満足しているのだから、鬼退治なんてしなくてもいいと言うとろうがの~」
「そうですよ、モモちゃん。あなたは、いつまでも家で楽しく暮らしていればいいんだからね~」
なんや、おじいはんもおばあはんも桃太郎はんに甘々なんですやん……。あれじゃ、いつまでたっても鬼ヶ島なんか行けっこあらへんわね。
「困ったわキジ。これじゃ、桃太郎さんが鬼ヶ島に行くなんて夢の又夢だわキジ」
「しかたないだワン。みんなで桃太郎を引っ張って鬼ヶ島に放り込んでこようだワン。どんなに、怖くてもそんな状況になれば、きっと戦うだワン!」
「んー。でも、そんな事をしたら、今の桃太郎さんでは、心が折れてしまうわキジ。あれだけ、甘やかされて育ったんですもん、絶対に無茶なことはダメよキジ」
「頑貝犬はんは、無茶ばかり言い張りますなーウッキー! もっと、いい方法を考えないとあきまへんで~」
「何だよ伽供夜お猿、他にいい方法でもあるのかだワン?」
「そうですわね~……ご隠居さんを守る二人のボディーガードは、やっぱり体を鍛えてましたよウッキー」
「よし! じゃあまずその方法で試してみるかキジ!」
「え? 何をするんだワン?」
「桃太郎さん、あなた、鬼が怖いって言ってましたよねキジ?」
「ああ、あんな体がでかくて角がある奴らは、きっと強いに決まってるんだよ。その証拠に赤やら青やら緑やらに分かれていっつも競走したりリレーしたりして鍛えてるに違いないんだ!」
ん? 桃太郎はん、何ゆうてんの? 別に鬼はんらはチーム分けで色が着いてるわけやあらへんよ……本物の鬼って見たことあるんやろか?
「ねえ、桃太郎さん? あなたどこかで強くて怖い鬼に会ったことがあるんですかキジ?」
「お、お、鬼なんかに会ってたまるか! 鬼はな……怖いんだ! 小さい頃ばあちゃんから聞いたお話では、鬼は暴れるんだぞ! 鉄の金棒を振り回して家を壊して歩いてたんだ!」
「えっと、おばあちゃん? おばあちゃんは、そんな恐ろしい鬼に会ったんですかキジ?」
「オホホホホ……昔のことだてな~……わしゃ、そんな話は覚えとらんがの~」
あれ? 何だかおばあはんの様子が可笑しいんやあらへんか。そういえば、鬼の話になったら、急にキョロキョロし出してはるし。
「なあ、おじいちゃん。この辺に鬼が出て暴れまわったりしてるのかワン?」
「何を言うとるんじゃ! ここは平和な村じゃから、暴れる奴なんか誰もおらんわい!」
「じゃあ、暴れる鬼って、何だワン!」
「確かに鬼は鬼ヶ島に住んどるそうだけど、何をやっとるのかのおー。しばらく見たことはないぞ!」
じゃあ、実際に鬼ヶ島の鬼が怖いって、おばあはんの昔話だけじゃあらへんの。桃太郎はんは、そのお話だけで怖がってるんやわ。
こりゃ、鬼についてもっと調べた方がいいんやないやろか。ウチがそう思っていると、後ろにいた記誌瑠はんが、何やらメモ帳を出して書き込んどるわ。きっと何か閃いたんやわ。
あ、香子はんがみんなを呼んでる。集まって作戦会議やね。
「なあ、どうするんだワン。このままだと、いつまでたっても桃太郎は、鬼退治に出掛けようとはしないぞワン」
「すっかり鬼がいけずやって、思い込んでるようですわねウッキー」
「鬼の話は、私がもっと村人に紛れ込みながら調べてきますから、桃太郎さんの方をみなさんでなんとかお願いしたいんですけど……」
記誌瑠はんが、静かに手を挙げて提案したんや。
「じゃあ、きしるちゃんには、そっちを頼むわキジ! あたし達は、なんとか桃太郎さんを鬼ヶ島に行く気にさせましょう! 大事なのは気持ちの問題ねキジ!」
「「「「よーし! ファイトオ――!」」」」
その後、記誌瑠はんがえらい嬉しそうに声を掛けてたんやけど、さっきも村人に聞き込みをしてたからいい情報でもめっけたんやろか?
「なあ、桃太郎はん? あなた、強くなればいいのよウッキー。強くなれば、鬼なんかちょっとも怖いことあらへんわ。ウチが、あなたを鍛えて強うしてあげるわ。ここじゃなんだから、外へ出ましょうウッキー!」
ウチが桃太郎はんを家の外に引っ張り出したんや。外は、何もない草原。おじいはんもおばあはんも遠巻きで心配そうに見てるけど、おばあはんはまだソワソワしてはるね。
「ウッキー、じゃあ最初は腕立て伏せ1000回ね。さあ、始めて!」
「う、うで、立て伏せ?……僕、そんなことできないよ~」
「何ゆうてんの! ほな、両手を着いて! 足伸ばす! そう、それでええよ、さあ肘を曲げて!」
「うわわわあー……」
「ほら! 叫ばないで、さっさとおやりなさいーー!」
「おいおい、これ、この間竜宮城で見たワン! 大丈夫か? このまま潰れたりしないのかだワン?」
「ええい、この頑貝犬はん! 喧しいわよ、あなたも一緒におやりなさい! はい! 腕立て伏せ1000回! 始め!ウッキー」
「ヒェエエエエーーー、何で俺まで? あ、あ、やりますよ! やればいいんでしょ!」
「いいわよー、かぐやお猿ちゃん! その調子! どんどんやってやれー!」
「うん、ウチがんばります! ほら、次は腹筋でウッキー、モモはん、腹筋1000回始め!」
「ふぇえええー、腹筋って、何?」
「いいから、この頑貝犬はんを見習って……休まない! ほら、ウッキー頑貝犬はん! 見本をしっかり見せてくだはれ!」
「えええ? 見本? 俺、もうダメだワンーーーーー!」
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「よっしゃあー! だんだん調子に乗ってきたでー」
あれから2時間や。まだまだ行けるんとちゃうか。ウチの本番はこれからや!
それにしても、桃太郎はん、えらい汗かいてはるな。まあ、発汗作用が高まったちゅうことで、こりゃ健康にもええんちゃうか。目も見開いてるから、きっと楽しいんやろな。
それに比べて頑貝犬はんは、さっきから文句ばっかりゆうて煩いわ。『もうダメ~』とか『休ませて~』とか、体よりも口ばっかり動いてはるし。なんや桃太郎はんより先に頑貝犬はんが地べたにへばりついてしもうとるわ。
(つづく)
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