17 第3章第3話 一人芝居
「ウッキー、これが桃太郎さんのおうちなやね」
「ま、普通の家だワン!」
「そりゃそうよ、桃太郎君は、一般庶民なのキジ。おじいさんとおばあさんは、小さな畑を細々と作っていて、時々おじいさんは山に燃料のための芝刈りに行くだけキジ」
そうやね、おばあはんだって、川に洗濯に行くだけやし。そんなに働いているわけでもあらへんわ。小さな掘っ建て小屋って感じかいな。今でゆうたら、かまど付きのワンルームってとこやな。
そりゃあもちろん、電気もあらへんさかい家電製品もあらへんわ。
だから川に洗濯に行くんやね!
「じゃあ、みんな行くわよ! あたしに付いて来て!」
香子キジはんを先頭にして、古びた桃太郎はんの家の玄関扉の前に並んだんや。そして、ウチらは、打ち合わせ通り、声を合わせて大声で呼んだんね。
『もーも太郎さん、モモタロサン、家来になりますから、鬼ヶ島に連れて行ってくださいなーーー!』
何の返事もあらへんかったわ。家は、シーンと静かだったんや。
「変やね? ウッキー、こないやかましく言ったら、聞こえてるやないかと思うんやけど」
「出かけているんじゃないかワン?」
「そんなはずはないわキジ! 見て、あそこに洗濯用のタライが置いてある。少なくともおばあさんは家に居るはずで、桃太郎君は外に出られないはずキジ」
そやな、確かに家の中には、誰かがおるやろな。
「いい、もう一度呼んでみるわよ! せーの」
『もーも太郎さん、モモタロサン、遊びましょーーーーー! 家来になりますから、鬼ヶ島に連れて行ってくださいなーーー!』
ガラ……ガラ……ドン……ガシャ……ドン……
「……んしょ……よっこらしょ……いやあ、すまんのう。建付けが悪くて……」
家の戸が開いて、そこから顔を出したんは、おじいはんやったわ。わあ! 白髪、白髭、ここりゃ、間違いおまへん!
「ウッキー……ご、ご隠居さまーー! ウチは、ご隠居さまの家来になります!」
ウチは、もう夢のようやったわ。
「あっちゃー、かぐやお猿ちゃんったら、違うわよ、この人は印籠持ってないからね!」
「で、でも、そっくりですやん。間違いおまへん! ウチは知っとる、ご隠居さまやーー!」
「おいおい、香子キジ、おまえ伽供夜お猿に何見せてんだワンよ?」
「何って、大昔に流行った『勧善懲悪』の決定版よ。仕事に役立つかなっ~てキジ」
「ほら、見ろ、もう自分はサルだからあちこちトビまわってるぞだワン」
「ほら、かぐやお猿ちゃん、落ち着いて、落ち着いて!」
せやけど、うち嬉しゅうて。ウチのこと『サル』って呼んでえな。ご隠居のためなら、火の中、水の中!…………ああ、みんはん固まってしまいはった。そや、ご隠居はんもお忍びやったんや。ウチも大人しゅうしないと、ご隠居にご迷惑が掛かってしまうんやね。
「おや、あなた達は、モモちゃんのお友達かの~? すまんのう、モモちゃんは部屋から出てこんのじゃ」
「え? 部屋っていっても、この玄関開けたら茶の間一つしか無いんじゃねえかワン!」
「ああ、モモちゃんの部屋は、ほれ、あそこじゃ」
なんと、ご隠居はんが指さしたのは、茶の間に面してある唯一の扉、押し入れだったんや。ちょうどその扉の前では、何やらおばあはんが中に向かって話しかけとるわ。
「モモちゃん、お友達が遊びにきたわよ。早くここから出て、表で遊んでいらっしゃい」
「…………………」
「モモちゃんってば~、こんな狭いところにいても大きくならないわよ~」
「…………………」
いくら呼びかけても反応無しやね。押し入れっていっても、扉は半分やん。腰から下ぐらいしかないんや。あの中に3人分のお布団が入っているはずやから、ものすごく狭いんとちゃうか。
よし! ウチが何とかしたる!
「ウッキーご隠居はん、ちょっと失礼します。みなはん、少し下がっておくれやす。ウチに、ええ考えがありますさかいに」
「大丈夫か? 伽供夜お猿ワン」
「いいわ、任せるわかぐやお猿ちゃん、思いっきりやってやるキジ」
ここが、押し入れやね。
「……ふふふ、ふん、ふん、……ああ、今日もええ天気ですなぁ……ウチ、暑うて汗かいてしもうたわ……どうしましょかの~……フン、フフン……そうですな、ウッキー……汗を水で流しましょかね~……ふふん、ふふん……ちょうどおじいさんもおばあさんもおらへんさかい、ここで水浴びしましょかね……ふふん、ふふん……」
どや? ウチのこと見たないか? 水浴びすんねんぜ? どや?
「フフ、フフ、着物を脱いで~……ふんふん……肌襦袢も脱いで~……ふふん、ふん、ふん……」
さあ! 桃太郎はん? 気になるやろ?……
「……フンフン……裸になると気持ちいいわね……暑いのはしんどいですわ~……」
よし! 覗いてはる!! 押し入れの扉が少し開いたやん。
「今よ、みなさん! ウッキー」
「よし! 任せろーだワン!」
「それーーキジ!」
「うわわわわわわーーーーーー!」
「よし、捕まえたぞだワン! 桃太郎め!」
「へええええええーーー、ゆるしてーーーー、…………あれ! あれれれ? 裸じゃないの?」
「ウッキー、当たり前やん。こないなところで、裸になれますかいな!」
あははは、上手くいったやん、芝居に引っかかったや。……そやけどさすが桃太郎はん、青年期やね~、やっぱりあはははは。
「凄いわ、かぐやお猿ちゃん。どこで、そんな小芝居覚えたのキジ?」
「ウッキー、でへへへ、昨夜のアーカイブTVでやってました。ご隠居はんのために、くのいちはんが、一芝居うったんですよ!」
「はははは、凄いや伽供夜お猿、お前は役者にもなれるだワン!」
(つづく)
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