11 第1章第10話 ミッションクリア
「……様、……しま様……浦島様」
「は!……ここは?」
「楽屋ですよ。大丈夫ですか?」
「ピ、ピンクエプロン。……助けてくれたの?」
「公演の練習中に倒れたと連絡が来まして……」
「あ、昼の第2公演は?」
「今、浦島様抜きで、やってます。みなさん、大層上手に踊っておられますよ」
「そうですか…………」
「それじゃあ、夜の公演に向けて自主練でもしますか? 浦島様」
「僕……やめます。……僕には無理です。……僕にはタイ子ちゃんのようには踊れません!」
「そうですか。じゃ、浦島様は、これからどうするおつもりですか?」
「う……ん、やっぱり見てる方が楽しいや。また、前みたく……」
「ああ、それはもう無理ですね。乙姫様に無理を言って、踊り部隊に入れてもらったんです。もうお客さんには戻れませんよ!」
「ええ~! …………じゃあ、帰る……」
「え? 今、何と……」
「僕、もううちに帰ることにする!」
「(よっしゃああああーーー!)オッホン、それじゃあ帰るお支度をはじめますね。『……みんな、ミッション達成だ! 俺達も帰れるぞ!』」
『『『……了解……』』』
「ああ、そうしてくれ、頼むピンクエプロン」
「はい、それじゃあ、乙姫様にご挨拶をお願いしますね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ああ、浦島様、もうお戻りになられるのですね。とても残念です。(ホッ!)」
「はい、お世話になりました、乙姫様。……ぼ、ぼく、僕にはABCD44でやっていける自信がありません。今度来た時には、見るだけにしておきますね」
「え? 今度? あはははは……、お、お、お待ちしております。(ムリ!)」
「この竜宮城は、楽しかったなあ。とってもいい思い出になりました」
「それでは、浦島様、これをお土産にお持ちください。……ただし、絶・対・に、開けてはいけませんよ。絶対にです!」
「…………あのー…………」
「どうしました? 浦島様」
「最後に、最後に少しだけ、ヒラメ子ちゃんのステージを……」
「うーん、昼の第2公演がもうすぐ終了なんですけどね……」
「あの、最後のところ、少しだけでいいので、お願いします!」
「…………まあ、ちょっとだけですよ。終わったら、そのまま出発するので、亀タクシーに乗ったまま見るのならいいですよ!」
「いいです、いいです! それで十分です!」
「じゃあ、こちらへ……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「みなはんー、アンコールおおきにです! 昼の第2公演、ほんまにこれが最後の曲ですえ。『フライング フィッシュ』お届けします! ワン・ツー・スリー・フォーーーー!」
♪ フィライング~フィッシュ 新鮮な~
いつでもどこでも 飛んでるわ~
フライング~フィッシュ 諦めない~
いつでもだれでも わ・た・し・の・ため~
は・り・き・る・わああああ~
フィライング~フィッシュ いつまでも~
いつでもどこでも 忘れない~
フライング~フィッシュ 私の時間~
いつでもだれでも お・も・い・で・の・ため~
さ・よ・う・な・らああああ~
♪
「……ウチ、これで竜宮城を引退しまーーーす。たくさんの思い出、おおきにありがとうございましたーー。これからは、普通のお姫様にもどりまーーーす! ううっ、ううう……」
ウチ、なんだか悲しゅうなってきたわ。引退宣言もしたし……あ、そうだ……コのマイクは舞台にそっと置いておくわ……
ウチのアイドル活動、もうこれで終わりやね……。幕が閉まっても拍手が鳴りやまへんね。ウチ、もう少しここにいようなあ~
「さあ、みんな『亀の子異次元シャトル』に乗った乗った! 社長、戻りますよ!」
「はいはい、運転手の徹君、頼みましたよ」
「ほら、伽供夜も急いで! こんなところで、ボーっとしてないで!」
「なにゃの、頑貝はんったら! せかっく余韻に浸ってるのに、もー!」
「はいはい、余韻なら会社へ帰ってからにしてくださいね」
「ところで、伽供夜君のアイドルは良かったね~。ここで、引退するのは残念なんじゃないのかい?」
「いやどすわ、社長はん。ウチは、全力でやり切りました。もう、もう燃え尽きてしまいましたわ」
「あれ? それじゃあ、仕事のやる気も燃え尽きてしまったかね」
「いいえ、社長はん。燃え尽きたのはアイドルの伽供夜だけです。今度は、違うものに挑戦しますから、安心しておくれやす」
「じゃあ、かぐやちゃん、家に帰ったら、またテレビのアーカイブでも見て、お気に入りでも見つけるとしますか?」
「香子はん。また、何か紹介しておくれやすな」
「分かったよ、かぐやちゃん。あたしに任せてね!」
みなはん、ウチのアイドルデビューを褒めてくれたの。嬉しかったわ。ただ、どうしてもウチには気になることがあったんや。あんなに竜宮城にお客はんが入っていて、ご馳走まで出しているのに、無料やったんや。ま、ウチはすぐに引退してしもたから、お給料はもろてへんけど、それにしても不思議やわ。
どうもその辺は、記誌瑠はんが調べとったらしくて、帰りのシャトルの中で、自慢気に社長はんに報告しとったの。
「社長、これを見てください。これが、竜宮城のカラクリなんです。あれだけ、もてなして無料だなんて、変でしょ!」
「まあ、確かになあ。それで、この会計簿のコピーで何が分かったのかね、記誌瑠君」
記誌瑠はん、竜宮城の中をいろいろ調べ回って、ヒミツの会計簿を見つけたらしいんや。
「実は、竜宮城でご馳走を食べたり、踊りを見たりしている間に、招かれたお客さんは『生命エネルギー』を吸い取られていたんですよ」
「え? 僕達もかい?」
「ああ、それは大丈夫です。私達は物語の世界の住人じゃないので、もともと『生命エネルギー』はありませんから」
「ああ、それはよったよ。ところで、記誌瑠君。『地球歴史記録全集』に、そのことは記述されているのかい?」
「今回のミッション成功で、『記録全集』の『浦島太郎編』には、しっかり浦島太郎は自分の居た場所に帰ったことになっていて、しかもちゃんと玉手箱を開けておじいさんになったと記されました。でも、生命エネルギーの吸い取りについては、どこを見ても書かれていないんですよ」
「そっか、それなら気をつけた方がいいな、記誌瑠君。書かれていないことは、あまり言わない方がいいかもしれないぞ。何かあっても、僕は責任持てないからね」
「え? 社長! そんなこと言うんですかあ? じゃあ、私も忘れます!」
「うん、それがいいかな。あはははは……」
ふぇー……なんか竜宮城って、怖いとこかもしれんわな。
ところで、頑貝はん、あのピンクのエプロンをほんまに気に入ったんやろか? シャトルの運転をしながら、まだ身に付けてるし。嬉しそうに鼻歌なんぞ歌いよるわ。
ま、ウチもアイドルになれたし、竜宮城は楽しいところだったということにしとこかな。
(第1章 完 ・ 物語はつづく)
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