1 かぐやちゃんがやってきた
==この物語は、誰も住むことが出来なくなった赤い地球をもとに戻そうと奮闘するかぐや姫の物語である==
ウチは、地球のみんなに『かぐや姫』って呼ばれてるんや。
ほんまは、小野宮伽供夜ちゅう名前もあるんやけど、地球へ行った時に竹から生まれてしもうたんで、そないに呼ばれとるわ。
今は、その地球ともお別れして、月に帰るところやけんど、ウチなあ、帰りたくないねん。だって、月に居てもなんもおもろいことないんやもん。
そいでな、ウチ、思い付いたんや。今、ウチを月に連れ戻しに来た『異次元探偵社』の人にお願いしょうと思うねん。ウチを一緒に連れてって、てね!
「なあ~いいやろ、香子はん! お願いやねん、ウチ、もうあの月には帰りとうないねん」
「かぐやちゃん、どうしてなの? あなた、月のお姫様じゃない!」
「だって、あそこはなんもあらへんのや。面白いこともあらへんし、面白い人もおらんのよ」
「まったくよ、近頃の若いもんはな、それで地球に家出したってんだから驚くぜ!」
このお兄ちゃん、頑貝はんゆうらしいんやけど、えらいジジムサイことゆうてはるわ。歳かてウチらとそないに変わらんはずやのに。
「そないにウチのいうこと聞いてくれないんなら、今すぐこの乗り物から降りてしまうで!」
「おいおい、ヤメテくれよ。異次元移動中にシャトルから外に飛び出したら、次元断層に挟まってどうなるか分からないんだからな」
「いやや、ウチ帰りたくないんや! 月に連れ戻すなら、ここで降りる―――!」
ウチ、ここは勝負や思うて、思いっきり暴れてやったわ。駄々っ子みたいに、床に仰向けに寝て、手足をバタバタさせたんや。
「ひぇーー、香子さん、何とかしてくださいよ~、シャトルが壊れちゃいますよ」
「きしるちゃん、大丈夫よ。ちょっとやそっとのことでは壊れたりしないわ……でも、困ったわね」
「なあ、もう面倒くさいから会社へ連れて行くぞ」
「大丈夫かなあ」
「なーに、社長なら何とかしてくれるさ。……おい、伽供夜、俺達の会社でいいんだな?」
「え? ほんま、連れてってくれるん?」
「でもねえ~会社も月に在るけどいいの?」
「もちろんや! ウチの月とあんさん達の月は次元が違うさかいに……面白いこともいっぱいあると思うわ!」
「じゃあ、目的地変更だ! 次元合わせ……月の異次元探偵社、スイッチ・オン……」
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「やあ、お疲れ! 今回もみんなよくがんばったね~」
「……社長、只今戻りました……」
「おお、記誌瑠君、どうだった? ちゃんと例の記録全集には記述できていたかな?」
「はい……確かに『竹取物語』の最終ページには、かぐや姫が月に帰ったと……」
「そうか、そうか。良かったな。これで、またミッションクリアだ」
「でも……帰ったのは月じゃなくて……月なんですけど……」
「? 記誌瑠君、何いってんの? 月で、いいんじゃないの?」
「社長~!」
「あ、香子君に徹君、お疲れ様だね……ん? 今回ミッションに参加したのは三人だったはず……一人多くないか?」
へーここも月なんやね。なんか倉庫みたいやけど。帰りを待っとった人かな? 一人は社長はんだわ。みんながそう呼んどる。えっと、もう一人は、白衣着てるし……。
「社長はんですか? ウチ、小野宮伽供夜っていうんよ。地球の人は、みんな『かぐや姫』って呼んどったけど、『かぐや』でいいからね」
「うん、伽供夜君か……かぐや……姫?」
「ははん、お前さん達、ミッションの中心人物を誘拐してきたのか?」
「博士~ヤメテくださいよ。そんな人聞きの悪いこというの」
「だって、今回のミッションは『かぐや姫を連れ戻せ』だよ。でも、連れて来るのはここじゃなくて、竹取物語の次元でだからね」
「そんなの分かってますよ……香子、早く説明すれよ!」
「社長、かぐやちゃんね、あたし達と一緒に居たいんだってさ」
「え? どういうことなんだ?」
「こいつ家に帰りたくないっていうんだよ」
「徹君も何いっての?」
「社長は~ん、お願いです。ウチをここに置いてください。何でもするさかい、ウチは楽しいことをしたいんや~」
「おやおや、このお姫様は退屈が嫌いなのかな? こんな奇麗な着物着て。こりゃあ十二単衣じゃな、とっても似合ってとるじゃないか」
「さすが博士、大昔のことには詳しいわね。でもね、かぐやちゃん、この着物もイヤだっていうのよ」
「ええ、だって、これとっても動きにくいんやもん。ウチ、もっと自由に走り回りたいんや」
ウチは最後の手段をかましたったわ。社長はんにすがって思いっきり泣いてみせたやん。もちろん泣き真似やけどな。
とにかく一所懸命に頼んだやん。そしたら、香子はんも社長はんに説明してくれはって、面倒もみるからってゆうてくれはったんや。
そしたら、社長はんがちょっとは考えたようで、ウチがここにいることを認めてくれはった。
やったー! これで、ウチもいろんなことを楽しめるんや!
「ウチ、嬉しいわ、社長はん、おおきに。ウチのいた月は、とにかく退屈やったんや。それで、地球へ家出したんや。これからは、こっちのお月さんで、いっぱい頑張るさかいに、よろしゅう頼みます」
「まあ、それが今回のミッションのカラクリだったのよ。かぐや姫がどうして地球に出掛けたか。単なる退屈凌ぎの家出だったのね。あたし達は、月へ帰るように説得したんだけど、途中でシャトルから飛び出そうとするんだもん。社長が認めてくれて助かったわ」
「ほっほー、シャトルから飛び出そうなんて、そんな無茶をいうんだ」
「そうなんですよ、博士。私なんかもう驚いちゃって」
「記誌瑠ちゃんじゃ、どうすることもできんだろうな。そんな無茶いう子は……」
「博士~、今度は『無茶なこといわない人にする機械』作ってくださいよ~」
「ああ、まあ、急には無理だけど……ま、そのうち、作っておくよ」
あの白衣を着たおじさん、博士って呼ばれてるけど、ウチのこと無茶いう駄々っ子みたく思うてるんとちゃうやろか。
今度、ちゃんと説明せなあかんなあ。
「それで、社長、伽供夜さんはアルバイトですよね。いきなり本採用は、ちょっと……」
「まあ、それでいいんじゃないかな。後は、記誌瑠君、採用の手続き等もろもろ頼むよ。総務兼経理課長!」
「はい、それじゃあ社長、最初はフルタイムのアルバイトってことでいいですね。それから、営業課配置でいいですか?」
「いいんじゃないかなあ。お! 徹君、部下ができたね~。面倒見てくれよ! 営業課長!」
「へーい」
「それと、業務には関係ないけど、生活全般の面倒は香子君頼むよ」
「それはもう、あたしの家、部屋余ってますから、一緒に生活しますね。この情報課長に任せてください」
「香子、お前、情報課長って、関係ないんじゃない?」
「そんなこと無いわよ、かぐやちゃんの情報たっぷり仕入れておいてあげるからね」
「あーはいはい。あんまり、変な情報引っ張りだすなよ」
「余計なお世話よ」
「ワシも、新社員が増えたんで、シャトルの座席も改良しないとダメだな」
「博士、研究開発課として、伽供夜の武器も頼みます」
「うーん、頑貝ちゃんは戦うことばっかりなんだからもー」
「ほな、みなはん、これからよろしゅう頼みます」
これで、ウチは退屈な生活とお別れできるんや。これから始まるこの異次元探偵社でのことを考えると、嬉しゅうて飛び上がりたい気持ちになってしもうとる。
◆小野宮 伽供夜のイメージイラスト
(つづく)
最後までお読みいただけて、とても嬉しいです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。