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第8話

「私も行くわ。その方が良いでしょう」


 ジュリーが羽織を着て更に肩にかけるタイプのバッグを右肩に下げた。

 それにしても、この部屋は暖かい雰囲気だ。赤い絨毯に木造りの椅子や机がほんわかとした暖かさを醸し出している。


(台所リビングから近いんだな)


 部屋を見渡しながら、私はクリス様に手を引かれてログハウスノ外に出る。そしてジュリーが私達を先導する形で進み始めた。

 ジュリーの手には杖が握られている。子供の背丈くらいの長さで、先端部分は三日月型の形状をしている。しかもその杖からは魔力が溢れ出しているのが肌で感じられる。


「ジュリーさん、その杖は?」

「お師匠様から頂いた杖よ。魔力がありったけ籠もっているの。私の大事な品ね」

「なるほど……」


 その後も草木を踏み分けながら進んでいくと、木々が段々と開けてきた。


「あれよ!」


 前方に、ぽっかりと開けた空間に立派な白亜のお屋敷が現れる。


(す、すごい)

「私が扉を開けるわ」


 ジュリーが重厚感のある門の扉に手をかざすと、扉が勝手に開かれた。そこから更に現れた別の扉に3度ノックをするとゆっくりと扉が開かれる。


「お師匠様! いきなりすみません」

「いえいえ、おや、あなた達は……」

「クララおばあさま!」

「クリス? クリスじゃないの! 熊のぬいぐるみの魔法が解けたのかしら?!」

「はい、解きました! それとこちらがマリーナです」


 クリスに誘われる形で、私はクララ様に挨拶をする。クララ様は白髪の短い髪型に紫色の羽織と白いドレスを身に纏っている。少し背中は曲がって華奢な身体つきだが、強大な魔力を持っているのが一目見て理解出来た。


「なんとなんと。さあ、お入りなさい」

「はい、失礼致します。クララおばあさま」

「失礼します……」

「お師匠様、失礼します」


 私達は屋敷の中にある食堂へと案内された。私が幼い時に暮らしていたあの公爵家は屋敷とよく似た広さだ。内装も白い壁をメインに展開されている。


「どうぞ、椅子に座って」


 食堂も広く、白い布が机の上に敷かれてある。茶色い椅子に座ると、クララ様は近くの棚から紙とペンを取り出して机に置いた。


「クリスとマリーナ。話を聞かせてちょうだい。あれからどうやってここに辿り着いたのか……」

「私から説明致します。ソヴィがロイナ国のイリアス様の元に嫁ぐ事が決まり、屋敷はもぬけの殻になっていました。その隙をついてクリス様と屋敷から抜け出したんです」

「ソヴィは、リリーネ子爵家の令嬢ね?」

「はい」

「なぜ、隣国……それも敵国であるロイナ国のイリアスの元に嫁ぐ事になったのかは聞いているかしら? 一応そのような話があったのは私も把握はしているけれど、マリーナはどこまで把握してるか知りたいわ」

「理由ですか? そこまでは……」


 クララ様は眉を何度も動かしながら、私の話に耳を傾けつつペンを右手で動かしメモを取る。


「ええ、そうでしょう? 今日私は結婚するのだから!」

「どなたと?」

「イリアス様よ。隣国のロイナ国の王太子殿下。政略結婚で嫁ぐの。羨ましいでしょう?」


 というやり取りをクララ様に伝えると、クララ様はふんふんと頷いた。


「あと、その髪はいつ頃からそうなったのか分かる?」

「大分前からだと思います」

「分かったわ。うん、うん……」


 しばらく沈黙が流れる。その時もしかして。とジュリーが申し訳なさそうに口を開いた。


「このおふたり……クリス王子とマリーナ公爵令嬢で?」

「ええそうよ。ジュリー」

「えっ! ええっ?!」


 ジュリーは気がついていなかったようだ。まあ、クリス様は行方不明、私はリリーネ子爵家の地下牢に長らくいたので気がつかないのも無理はない。


「すみません……つい、言葉使いが」


 ジュリーは申し訳なさそうに何度もへこへこと頭を下げながら謝る。それを見てクリス様が慌てながら大丈夫だと宥めていた。


「とりあえず状況を整理するわよ」


 クララ様のその声により、周囲の空気は一瞬にしてピリッと緊張感のあるものに変わった。


「クリスは熊のぬいぐるみに変えられた。マリーナは家族を何者かに殺され、リリーネ子爵家の元にいた。しかし2人はここに来た。リリーネ子爵家の娘ソヴィがイリアスの元に嫁いだ。これで間違い無いかしら?」

「はい。ありません」

「それとマリーナ」

「はい、クララ様」

「あなたは聖女候補だった。だけどその髪色……リリーネ子爵家で何かあった?」

「地下牢にいました。長らく」

「やはりね。そう言う事だろうと思ったわ。あなたの魔力自体は強大なのは変わらないけど、あの時よりも大分質が落ちている。だから髪色も変わったのでしょう」


 クララ様はすっと息を吐いた。


「2人はここに住みたい?」


 私とクリス様は互いに顔を見合わせる。私個人の意見としては住みたいなら住みたい。


「俺としては、宮廷に戻りたい気持ちはあります。おばあさま」

「そうでしょうね。だけど今すぐ戻るのは危険過ぎる。だからジュリー」

「はい」

「あなた、宮廷に潜入して調べてきなさい。危険分子がいなさそうなのを確認してから改めて宮廷に戻りましょう。それまではここにいた方が良い」


 クララ様の声はしっかりと、力強いものだ。

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