第4話
「わかったわ、着替えはある?」
宿屋の主からそう聞かれたので、私はトランクを開けてソヴィの着ていた服と下着を取り出した。
(また新しいの買わなきゃいけないな……)
「これです」
「じゃあ、行きましょう」
お風呂は地下にあった。男性と女性でフロアが分かれている。どうやら温泉の湯脈がこの辺りを血管のように通っているらしく、様々な効能があるのだという。
「さあ、脱いで」
「は、はい」
「あら、足元傷だらけだけど……」
靴擦れは足のあちこちに起きていた。クリスが魔法で盗んできたソヴィの靴を履いていたのだが、サイズが合わなかったようだ。
(こういう時は、治癒魔法……)
治癒魔法を足にかけると、みるみるうちに靴擦れの傷と痛みが消えていった。その様子を宿屋の主は目をボールのようにまん丸にさせながら、驚いて見つめていた。
「治癒魔法が使えるのね、あなた……」
「え、あ、はい」
「それに銀髪に赤い目。あなたみたいな方は初めて見るかもしれない」
「そうでしょうか?」
私は服を脱ぎ終えると、まだ驚きを隠せない様子の宿屋の主に導かれてお風呂場の大理石の床に座り、お湯をかけてもらったり、全身を綺麗に細やかに洗ってもらったのだった。
お湯はちょうどよい温かさで、洗ってもらった髪はすっきりさっぱりした感覚がする。
「あなた、大分お風呂入ってなかったのね」
「はい、色々ありまして」
「訳ありって感じね。そういう人達は時々いるから詮索はしないでおくわね」
「ありがとうございます」
石造りの浴槽につかり、天井を見上げる。湯気が立ち込めて湿度があって温かさが身体の芯まで通る。
「あーー……」
気持ちいい。久しぶりの入浴で、身も心もさっぱりした。私はお風呂から上がり、かけ湯をしてからお風呂場を後にした。
「もう上がるのね」
「はい」
「じゃあ、このタオルで身体を拭いてね。拭き終わったらここの籠にタオルを置いておいて」
「はい。ありがとうございます」
身体を拭き、火の魔法で髪をさっと乾かす。ソヴィの服に着替えてその場を後にすると、階段でクリス様と再会した。
「マリーナ、綺麗になったね」
「そ、そうですか?」
「うん、髪に艶が出てる」
私は髪を掴んでじっくり見てみた。確かに艶が増したような、気がする。
「じゃあ、部屋に戻ろう。食事持ってきてくれるってさ」
クリス様に左手を引かれ、階段を登って部屋に戻る。
(牢から出ただけで、こんなにわくわくするなんて思わなかった)
今は目に入るものが全て新鮮で、きらきらと輝いて見える。