第26話
あれからジェシカ及びフリードリア家への調査は約2週間程かかった。その間にもエイリンと同じ目にあったメイドをクララ様とクリス様と共に保護したり、ジェシカからの攻撃を防御したりする慌ただしい日が続いた。
そして、夜の事。
「マリーナ! おばあさま!」
クリス様が従者とエイリンら保護したメイドらを引き連れて屋敷にやって来た。エイリン達は証人として、この屋敷から宮廷に向かっといたが、どうやらクリス様達と共に屋敷に戻って来たようである。
「あら、クリス」
「結論から言うと、明日。ジェシカとその家族であるフリードリア家を宮廷に呼び、処罰が言い渡されます」
「そう……思ったよりも早かったわね」
「はい。厳しい罰が言い渡されるかと」
エイリンらメイド達は、ジェシカ付きのメイドから修道院のシスターに戻る事も決まった。彼女達はほっと息を吐きながら胸を撫で下ろしたのだった。
「良かったです。私達はもうあのような扱いから逃れられるんですね」
「亡くなった仲間の分まで生きていきます」
ジェシカはエイリンのようなメイドを文字通り使い捨てしていたようだ。魔力切れを起こしたメイドはフリードリア家の敷地内にある井戸に投げ捨てられていたという事実も調査で判明した。
秘密を知った人物の口封じの為の殺害も合わせると、井戸には相当数の遺体が投げこまれているだろうというクリス様やジュリー、調査団の見解だった。
(ぞっとする)
身の毛もよだつ話も出て来た辺り、重罪は避けられないだろう。
そして、ジェシカ達が宮廷に呼ばれる日が来た。私も王の間にてクリス様とクララ様と共に、彼女の行く末を見る事が決まったので、ドレスに着替えて同行する。
「では、行きましょう」
「はい、クララ様」
馬車で宮廷に入り、玄関ホールでクリス様と合流してから王の間に入る。まだ玉座には誰もついていない。
「父上はジェシカ達が来てから来るって」
クリス様曰く、そういう事らしい。
程なくして赤いドレス姿のジェシカが両親やメイドらと共に現れた。赤と黒の扇子で口元をしきりに仰いでいる。
「ご機嫌よう、皆様方」
そう扇子を仰ぎながら挨拶をする彼女には、余裕が感じられた。
「あら、随分と余裕ね。ジェシカ」
「グランバス公爵。宮廷に私が呼ばれるという事は、多分私が聖女だと決まったか、嫁ぎ先が決まったかの2択でしょうから。占いにもそう出ましたので」
「そのどちらかだと良いわね」
そんな事は無い。まあ、百歩譲っても流刑を兼ねて他国に嫁ぐという罪なら無くも無いかもしれないが。
「国王陛下と王妃様がおなりです」
そう執事が告げると、玉座の裏から国王陛下と王妃様が現れた。国王陛下はゆっくりと玉座に座ると、ジェシカ達を厳しい目つきで見る。
「では、早速本題に入ろう。調査の結果、ジェシカ・フリードリアはじめフリードリア家には沢山の膿が溜まりきっている事が分かった」
「……何を仰るので?」
「この期に及んで惚けるか。もう、反省は無さそうだな」
国王陛下は呆れながらそう言い放った。ジェシカはまだ自分の罪を理解していないようである。
「ジェシカ・フリードリア。そなたを殺人と賄賂の罪で斬首刑と処す。そしてフリードリア伯爵も殺人及び汚職と賄賂の罪により斬首刑に、フリードリア伯爵夫人は賄賂の罪で流刑と致す。以上だ」
国王陛下の声が、重く響き渡る。やはり重罪、それも最も重い斬首刑だ。刑の宣告を受けたジェシカはまだ、意味が分からないと言った表情を浮かべる。
「なぜ私が死刑に? 証拠があるのですか?」
「ああ。君のメイドをはじめ証拠は揃っている」
「陛下! 恐れながら!」
このタイミングで王の間に従者が汗をかきながら慌てて入っできた。
「申せ」
「はっ。フリードリア伯爵家の屋敷の井戸から、死体が30人程見つかりましてございます!」
「だそうだ。ジェシカよ。君の見た目も魔法薬によるものだとメイドからの証言もある」
「そう。……ふふっ、ははははははっ!!」
ジェシカが突然笑い出した。彼女の乾いた笑い声が王の間全体に響き渡る。
「聖女ごっこ楽しかったわ。だけどね、ただでは死んでやんない。あんたに呪いを残してから死んでやる!」
「ジェシカ様。良いですか?」
「……ジェリコ公爵、何かしら?」
私はジェシカに声をかけた。このタイミングを逃せばもう彼女に質問出来る機会は無いかもしれない。
「なぜ、聖女候補になりたかったのですか?」
「……お金とちやほやされたかったからよ。お金は勿論大事でしょう。お金が無ければ何も出来ない。実際両親は悪事に染めながらもお金を工面しようてしていた。だから聖女候補になればちやほやされながら、お金も沢山貰えるでしょうと思ったの。実際その通りだったわ」
「メイド達は」
「使い捨てにしたのは申し訳なく思う。最初はきつかったけどもう慣れたわ。それに魔力が沢山ある子が羨ましいのもあったのでしょうね」
ジェシカはきらびやかな装飾に彩られた天井を見上げながら、語ったのだった。