第2話
私が熊のぬいぐるみに魔法をかけた覚えは一切ない。ソヴィも魔法は使っていないし、ソヴィが消えてすぐに立ち去ったあのメイドに至っては魔法を使う場面すら見た事がない。
「なんだろ」
ビスケットを頬張りながら、熊のぬいぐるみを見ていると突如光が爆発した。
「!」
私は慌てて顔を覆って横っ飛びしながら、その場から離れた。
(何?)
爆発が収まる。私の身体には痛みは無い。おそるおそる目を開けてみると、目の前には気位の高そうな服を着た青年が立っていた。
「じゃーーん!!!!」
と、青年は両手を伸ばしておどけた表情を受かべて見せる。私はなんて反応してよいのか分からずそのまま立ち尽くす事しかできない。
(誰?)
「あ、あなたは……?」
「ごめんごめん。驚かせちゃって。マリーナ、ずっと待ってた。俺だ。クリスだよ!」
「え?」
目の前にいる穏やかな顔つきをした青年は、クリスと名乗っている。果たして本当にクリス様なのか。
確かに言われてみれば目元や口元はそれっぽく見えるのだが。
「これ、分かる?」
彼が左手を差し出す、何か詠唱すると、その上に水塊が浮かび上がった。あの時クリス様が生み出した水塊より少し小さいものの、紛れもなくあの水塊だ。
「クリス様? クリス様なの?」
「そうだよ。俺はずっとぬいぐるみにされていたんだ。ずっとこの時を待っていた!」
「えっ?!」
ぬいぐるみにされていたという話を聞き、ますます頭がこんがらがりそうになる。
(ど、どういう事?!)
「あ、あの……どういう事か説明していただけると……」
「あっ、そうだった。長くなるけど良い?」
彼の話を要約すると、あの時ロイナ国はザパルディ国と戦争状態にあった。そして王族もしっかり対象となっていた。クリス様の両親は彼に何かあってはいけないと考え、彼をぬいぐるみにし更に加護の魔法もかけたという。
「まさか、ここにマリーナが繋がれて、俺もここに流れ着くとは思ってもみなかった。だけど、今リリーネ家はもぬけの殻だ。今しかない!」
「今、とは?」
「ここから逃げるんだよ! 君はずっとここにいるべきじゃない」
「く、クリス様……」
そうだ、この力強さと頼りになる部分は紛れもなくクリス様だ。私は彼を改めてじっくりと見つめる。
「本当に、助けてくれるんですか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
そう言うとクリス様は手を牢の鍵の部分にかざす。すると、鍵がぱかっと真っ二つに割れた。
ガシャン……
「わ、割れた!」
「さあ、今のうちに行こう!」