第24話
彼女の着ているメイド服の右腕にある紋章は、フリードリア伯爵家のものである。なので、彼女を知らなくても彼女がフリードリア伯爵家のメイドと理解できるだろう。
「あなた、体調を崩していた? それとも……」
「正直に話します。魔力が枯渇しまして……」
「ジェシカに吸い上げられて?」
「は、はい……」
「ジェシカはどうしてそのような事を?」
「ジェシカ様には魔力がほとんど無いからです。ジェシカ様は先天的なもので魔力がほとんどないんです。ゼロではないんですけど……」
「そうなのね。教えてくれてありがとう。クリス、クララ。私はこの子を屋敷に連れていくわ。午後の講義はどうする?」
クララ様からそう尋ねられ、思案する。クララ様だけではグランバスの大魔女と言えど、ジェシカが何をしてくるか分からない。
「一緒に帰ります」
「俺も一緒に帰る。俺達もいた方が良いと思うんだ」
「まあ……では、午後の講義は休みね。ちゃんとレポートは書くのよ?」
「はい」
こうして私達は午後からの講義を休み、メイドと共にクララ様のお屋敷へと帰宅した。途中で大通りを歩いていたジュリーとも合流し、馬車で家に帰る。
「ここがグランバス公爵様のお屋敷ですか」
「そうよ」
「広いですねえ……見とれてしまいそうです」
彼女を屋敷のリビングホールに案内し、詳しい話を聞いていく事にする。
彼女の名前はエイリン。元は庶民だったが身寄りがなく孤児院で育った。その後、生まれついての魔力の高さから修道院にてシスターとなり、その後ジェシカに気に入られて彼女のメイドになったのだった。
「ジェシカから勧誘されたの?」
「はい。魔力が高いからうちに来ないかって……」
「そうなのね……」
「お師匠様。その辺は調査でも同じような話を聞きました」
ジュリー曰く、ジェシカは孤児院や修道院からエイリンのような魔力の高い少女を見繕い、自身のメイドにしているそうだ。
「エイリン、ジェシカについて話してくれる?」
「はい、ジェシカ様の髪は魔法薬で染めたものです。目の色は自前だったかと思います。元の色は茶髪でした」
「いつ染めたか分かる?」
「大学へ入学した時かと。それまでジェシカ様は学校に籍こそ置いておりましたが登校はしていなかったので」
「不登校って事?」
「はい」
不登校で学校の生徒と顔を合わせていないのであれば、容姿の変化にも気が付かないだろう。
「なぜ、登校していなかったんですか?」
「ジェリコ公爵、それは彼女には家庭教師がついていたので別に登校せずとも事足りるからかと思われます。それに魔力が無いと知られればいじめられる可能性もありますし」
「なるほどね」
確かにソヴィのようにいじめられるリスクだってある。それなら通わないという選択は確かにアリだ。
だが、どうして大学に入ってからいきなり容姿を変えて聖女候補だと名乗り、自ら人前に出るようになったのだろうか。
「エイリン、どうしてジェシカはいきなり人前に?」
「詳しくは私もご存じないのですが、家の経済的事情が関係しているものと思われます」
「その事でしたらこのジュリーが調べておきました。フリードリア家の財政は逼迫しており、領地経営にも支障が出ているようですね。というか、悪魔の獣対策と一族の浪費でかなり経済が傾いているとか。フリードリア家って結構人多いみたいなんですよね。本家と分家で分かれていますし」
「ジュリー、よく調べてくれたわね」
「ふふっお師匠様。このくらいたやすい御用ですよ」
要は財政逼迫により、彼女はお金を得る為に人前に出たという事か。そしてただ出るだけではダメ。
「そこで彼女は聖女候補になって、人々から敬われつつお金を……って事?」
「そうですジェリコ公爵様。ジェシカ様にはたくさんの貴族のパトロンがついております。なので、効果は覿面と言えるでしょうね」
「そうですか……」
「あと、フリードリア家及びジェシカ様には賄賂や汚職の疑いもありますねえ。これは結構重罪になりそうな予感がしますが、クリス様?」
クリス様はきっと目を細め、鋭い顔つきを見せる。
「それが事実なら罰せられなければならない」
彼の口調には誰が見ても分かる程の怒気をはらんでいた。ジェシカは私にワインをぶちまけたくらいだ。相当頭に来ているのが読み取れる。
「ええ、罰せられるべきでしょう」
「……ジュリーさん。それらの証拠を俺と一緒に父上と母上に見せてやってもいいですか?」
「私は良いですけど、お師匠様はどうします?」
「わかったわ、クリス。気が済むまで報告なさい。証拠がそろっているなら後は分かるでしょう?」
「ありがとうございます。クララおばあさま」
そのままクリス様は椅子から立ち上がり、ジュリーを連れて宮廷へと急いで向かっていった。部屋にはエイリンと私とクララ様だけとなる。
「あなた、今日はここでいなさい。もしジェシカが来てもここにはいないと言っておくから」
「ありがとうございます。グランバス公爵様……!」